「寒いな・・」 クリスマスイヴの街を、ミュウツーは歩いていました。 街は赤と緑のクリスマスカラーに彩られ、お店の前に飾られたツリーの電球が瞬いていました。 今日ミュウツーは、一人で食べるケーキを買いに来たのです。 「はぁ・・」 ミュウツーのため息は、白い煙みたいになって、空中に消えていきました。 ふと前を見ると、幸せそうな親子がおもちゃ屋さんのショーウインドゥを覗いています。 「・・」 ミュウツーは目をそらしました。 何故なら、ミュウツーにはお母さんもお父さんもいないからです。 その幸せそうな親子がうらやましかったのですが、ミュウツーはその思いを振り切ろうと目をそらしたのです。 (・・独りは慣れているからな・・) と思ってみても、目は幸せそうな人たちを追ってしまいます。 ふいにミュウツーは、一人の女の子のことを思い出しました。 その子はミュウツーの幼なじみで、とっても優しい女の子でした。 エメラルドグリーンの髪は長くて綺麗で、同じ色の瞳は優しい瞳でした。 (・・アイ・・) ミュウツーは心の中で、その子の名前を呼びました。 だけど、誰も答えてくれません。 その子は、ミュウツーが小さいころに遠くに行ってしまったのです。 (・・・) ミュウツーは余計に悲しくなりました。 その時でした。 「・・ん?」 道の横に、大きな森が広がっていました。 しかも、誰も気づいていないようです。 「・・」 ミュウツーは、ちょっとした好奇心と興味からその森の中へ入っていきました・・ 森の中は雪の白で染まっていました。 「目が痛くなりそうだな・・」 サクサクサクサク・・ 雪を踏みしめつつ、ミュウツーは歩きます。 しばらく歩いていくと、開けた場所に出ました。 そこには一つ、小さな十字架がささった台がありました。 「・・」 ミュウツーはケーキを台に置くと、ひざまずいて祈りを捧げました。 何故なのかは、ミュウツーにもわかりません。 ただこうすれば、少しでも悲しみが癒えるような気がしたのです。 「・・・」 ミュウツーは、ゆっくり立ち上がってつぶやきました。 「・・そのケーキは、やる・・」 そう言うと、ミュウツーは後ろを向いて歩き出しました。 「・・メリークリスマス、か・・」 その時でした。 「ミュウツー?」 「・・え?」 ミュウツーは、ふいに誰かに呼ばれて振り返りました。 そこにいたのは・・緑色の髪の毛と目をした、優しそうな女の子・・ 「・・ア・・イ・・?」 ミュウツーは、途切れ途切れにその子の名前をいいます。 「おっきくなったわね、ミュウツー・・」 その女の子・・アイはにっこりと微笑んで言いました。 そう、ミュウツーが小さいころに遠くへ行ってしまった女の子・・アイがそこにいたのです。 「アイ・・お前・・何故・・」 アイはにこっと笑いました。 「ミュウツーが、会いたいって思ってくれたから・・」 「え?」 「あたし、ずっとそばにいたのよ? でも、ミュウツーは怒りで自分を忘れていた・・ だから、ミュウツーにはあたしが見えなかった・・ でもね、あなたは思い出してくれた・・ あたしのこと・・・だから会えたの・・」 「・・アイ・・」 ミュウツーは不思議な気持ちになりました。 とっても嬉しいのに、目から何かが溢れそうでした。 「・・ほら、アイ・・ ・・今日はクリスマスイブだろ・・?だから・・」 「だから?」 「・・いっしょにすごして・・ほしいんだ・・」 「もちろん♪あたし、そのために来たんですもの☆」 ここはさっきの街並み・・ 「とりあえず、何か買うか・・ケーキはさっき供えてしまったし・・」 ミュウツーはつぶやきながら、お店を見て回ります。 「・・しかたがないか・・」 ミュウツーはアイの方を見て言いました。 「少し量が少ないかもしれないが・・かまわないか?」 「ええ」 「そうか・・」 そう言うとミュウツーは、お店に入って行きました・・ かちゃ。 「ここが今の私の家だ、入ってくれ」 買い物を済ませたアイとミュウツーは、ミュウツーの家に帰ってきました。 そして、夜・・ しゅっ。 マッチを擦る音がして、赤い炎が現れました。 ミュウツーは、ケーキのロウソクに灯を点しながら言いました。 「すまないな、アイ・・これくらいのを買うのがやっとだったんだ・・」 そこにあるのは、一切れのケーキでした。 「ううん、いいの!それより、歌いましょ!」 「え?」 「クリスマスのときは、ママとパパといっしょに歌ったの! だから、歌いましょ?」 「・・う・・」 アイは、軽く深呼吸をしました。 そして・・ 「き〜よし〜・・こ〜のよ〜る〜・・」 アイの口から、綺麗な歌が零れました。 「・・しょうがないな・・ほ〜しは〜・・ひ〜かり〜・・」 ミュウツーもしぶしぶながら歌い出しました。 「メリークリスマス!」 「・・め、メリークリスマス・・」 アイはにっこり笑いました。 しかし、その顔には少し曇りが見えたような気がしました。 「・・よかった、ミュウツーとパーティ出来て・・」 「・・アイ?」 「・・ううん、何でもないの・・それよりミュウツー? ケーキも食べたし、そろそろ寝ない?」 「・・ああ、そうだな・・おやすみ・・アイ・・」 「・・おやすみ、ミュウツー・・」 ミュウツーは、闇の中にいました。 「ここは・・?」 目の前には、アイがいました。 アイは、にっこり笑って言いました。 「さよなら、ミュウツー・・」 「え?」 アイの体は、闇の中に消えていきました・・ 「・・アイ!!アイーーーー!!!!!!」 「アイっ!!!」 がばっ。 ミュウツーは、ベットから起き上がりました。 「・・はぁ・・はぁ・・ゆめ・・か・・?」 ふと、ミュウツーは横を見ました。 「・・アイ!?」 横にいたはずのアイがいませんでした。 ミュウツーの胸の奥が、ざわざわと嫌な音をたてます。 「・・嫌な予感がする・・!」 「アイ〜!!」 夜の街を、ミュウツーは走っていました。 アイを探して・・ 「・・」 ミュウツーは、ふと立ち止まりました。 あの森が、アイとミュウツーが再開した、あの森が・・ 「・・ここか・・?」 アイはここにいる。 そんな気がして、ミュウツーは、森の中に走っていきました。 走って走って、ミュウツーは森の奥につきました。 「・・アイ・・!!」 十字架の元に、アイが倒れていました。 「アイ、しっかりしろ・・! アイ・・!」 ミュウツーはアイを抱きかかえました。 「・・ミュウツー・・ごめんね・・」 「え・・?」 「あたし、一日しかここにいれないの・・ごめんね・・」 「・・そんな・・」 「・・役目が終わったら・・あたしは・・帰らないといけないの・・」 「何処へ・・?」 「わからない・・けど・・きっと綺麗な場所・・」 その時でした。 ポゥ・・ アイの体がきらきら光りなから、消えていきます・・ 「・・アイ・・!?」 「ごめん・・もう・・行かないと・・」 「そんな・・アイ・・アイ・・!せっかく会えたのに・・!!」 その時。 ミュウツーの目から、何かが流れました。 あったかい、何かが・・ 「・・これは・・?」 「・・ナミダ・・思い出してくれたね、ミュウツーのナミダ・・」 「・・アイ・・」 「ミュウツー・・」 アイは、そっとミュウツーのほほをなでました。 「今度・・あった・・ら・・」 さぁぁぁ・・ それを言い終える前に、アイの体は、まるで闇にとけるように、消えていきました・・ 「アイ・・アイーー!!!!!」 ミュウツーの叫びが、夜の闇に響きました・・ ぱぁぁ・・ 朝のお日様の光が、ミュウツーの顔にさしました。 「う・・ん・・」 ミュウツーは目を開けました。 「・・アイッ!?」 体を起こすとそこは、ミュウツーの家のベットの上でした。 「・・いつのまに私はここに・・?」 ミュウツーは頭をひねりました。 その時。 ミュウツーは家の外が騒がしいのに気がつきました。 「・・?」 不思議に思って、 ミュウツーはベットから出ると家の外に出ました。 雪が、舞い踊っていました・・ きらきら光る、まるで真珠のような雪です。 「これは・・?」 ふいにミュウツーは、あの子の名前をつぶやきました。 「・・アイ・・?」 ミュウツーにはそれが、アイからのクリスマスプレゼントのように思えました・・ 「・・つーさん、みゅうつーさん・・?」 「え?」 ふいにピチューに呼ばれて、ミュウツーは我に返りました。 「どーしたのみゅうつーさん?何か考え事?」 首を傾げてきくピチューに、ミュウツーは答えました。 「昔のことを思い出していたんだ・・」 「ムカシのコト?」 「ああ、あれは一年前の今日・・ つまりクリスマスイブのことだったんだか・・ 離れ離れになっていた幼なじみとあってな・・ いっしょにイブをすごしたんだ・・」 「へぇ・・よかったね!」 「だがな・・その子は、その日の夜・・帰って・・しまったんだ・・」 「帰ったって?何処へ?」 「・・綺麗なところへ・・」 ミュウツーの顔が曇ったのを見て、ピチューはそれ以上きくのをやめました。 (しかし・・『今度会ったら』・・なんだったんだ?) ミュウツーは思いました。 その時。 ふと前を見ると、14〜5才くらいの女の子が見えました。 北風に、そのエメラルドグリーンの髪がなびきます。 「・・え・・?」 ミュウツーは驚きました。 その子は、姿は変わっていましたが ミュウツーが好きな子の面影を持っていたからです。 「・・あ・・!」 その子はミュウツーに気がつくと、ミュウツーに走りよりました。 そして・・ぎゅっと、抱きしめました・・ 「アイ・・?」 「言わなかった?私・・」 女の子が、かわいい笑みを浮かべて言いました。 「今度あったら、もう離れないって・・」