大宇宙帝王ゴクリン 〜復活、そして闇に覆われる世界〜





 球体を横に真っ二つにする線からかすかに光がこぼれた。零れ落ちる命の水より 禍々しく赤いそれは、すぐにか細い線から世界を夕日の光のように赤く染める大きな光へと なり、断固たる輝きを放ち始めた。
 じんわりと空間に染みとおる赤い光に、少年少女がはっとした。

「滅びのモンスターボールが……開く……」

 震える声で呟かれたその言葉に、一同は衝撃をうけたようによろめき、恐怖であとずさる。
 少年少女らのパートナーのポケモンも、唸り声を上げて震えていた。
 その目に映るのは、ぐわりと開いた、たったひとつのモンスターボール。

 今まで固く固く閉じられていたのが幻のように一瞬で全開になったモンスターボールから、 炎のような赤い光が飛び出し、空間を真赤に焼く。
 光はおぞましく揺らめきながら宙を漂い、それでもやがて自分のあるべき形を見つけたと いうふうに、ただひとつの姿を描き出した。闇夜の月がやや潰れたように丸い影の上に、 触れただけで切れそうな羽根に似たシルエットが浮かぶ。見るだけで恐怖心を呼び起こすような 鋭く細い目と、嫌悪感をもよおす吸い込まれそうな口があらわになり、やがて自然の中にあっても くっきりと目立つだろう異端な緑と、その背中に刻まれた闇色のダイヤ模様が明らかになった。
 巨大なその姿は、少年少女ら全員をたった一息で吹き飛ばせそうなほど。
 あまりに恐ろしいその気迫に、大地は恐怖で震え裂かれ、天が雷の悲鳴を上げる。

「大宇宙帝王……ゴクリン!!」

 先頭に立つ赤髪の少年が、ありったけの勇気をかき集め、震える足を踏み出して叫んだ。
 叫び声に目覚めたように、大宇宙帝王ゴクリンの身体が薄気味悪く揺れる。
 その姿は、もはや恐怖を通り越して、悪夢そのものに見えた。

『封印がとかれた……外の世界は久しぶりだ……』

 それは確かに獣の言葉だったが、意思は直接少年少女のココロに打ち付けられる。
 そのたった一言の響きすら、圧倒的な質量をもって絶望を呼び起こす。

「くっ……遅かったのか……!!」

 黒髪の少年の背後に立つ、賢そうな顔つきの青い髪の青年が、大宇宙帝王の復活を 食い止められなかったことを悔やむ。
 そんな少年達の姿に、大宇宙帝王ゴクリンはあざ笑うかのようにぐにゃぐにゃとその巨大な 身体を揺らめかせ、低い声を吐き出した。

『残念だな……もうこの星は我のもの……誰にも止められはしない……』

「そんなこと、させるかっ!!」

 恐怖心を際限なく煽る大宇宙帝王ゴクリンの声の重圧をふりきって、赤髪の少年が叫んだ。

「この地球を、貴様なんかの手に渡したりはしない!!」

 勇気と、そして希望が混じるその叫びに、絶望にうちひしがれていた少年少女の瞳に、 光が戻る。

「ブルー!ブラック!イエロー!……ローゼ、ヴィオレ!
 ……俺と一緒に、戦えるか?」

 背後に向けられた言葉に、返されたのは小さな笑い声。

「もちろんだ、レッド」

「……当然のことだ」

「こうなったらもーやるしかないっしょ!」

「……私たちも、共に」
「戦うわよ!!」

 仲間一人一人の掛け声が、勇気のみなもと。
 それに同意するかのように鳴き声をあげたそれぞれのパートナーポケモンは、力のみなもと。
 レッドと呼ばれた少年はぐっと拳を握ると、目の前の悪夢を睨み据えた。

「俺達が……止めてみせる!!」

 その一言に、大宇宙帝王ゴクリンが大きく笑った。
 笑った声もまたおそろしく、大地が震える。
 ……しかし、それにひるむ者はもういない。

『よろしい。……止められるものならば、止めてみよ、人間!!』


 激しい戦いの火蓋が、今、切って落とされる……!!




 ―― 完 ――






    ご愛読ありがとうございました!
        大宇宙帝王ゴクリン先生の次回作にご期待下さい!!







































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「なにこれ?」と混乱しているだろう皆様のための元ネタというか発端の説明。
ある日チャットで、コメディ小説的例文を組み合わせて「前衛的な小説のあらすじ」を作った。

↓それがこれ。
『宇宙帝王ゴクリンがクトゥルフっぽく描写された登場シーンでモンスターボールから出てきて、
それをフシギダネが超絶技巧幻想光線を繰り出して倒し、
「これからも地球を守る!」と気合いれて、
そのあとパートナーポケモンとめぐりあってハッピーエンド。終わり。』


なぜか「書いてみろ」っていわれた。なぜかノリ気になった。
クトゥルフなんて見たことすらないんだけど……?
まあ適当でいいか。

そして書いたのが上記。
中途半端なのは途中で力尽きたのでむりやり打ち切ったから。
シリアスな描写の練習にはなった……のかもしれない。
2007.8.23 Misty