俺はNO.4。  わかりにくいけど、俺はずっとそう呼ばれている。  そうそう、でももう1つ呼び名があった。  ヒトカゲ。  火のトカゲなのか人の影なのか、よくわからない変な名前だ。  まぁ、変な名前の事は考えないでおこう。  なんだって今日は、俺の旅立ちの日なんだから。  なんでも、ブルーっていう少年らしいけど……どんな奴だろう?  少なくとも、『研究所』にいるような人間じゃないだろうなぁ。 「ヒトカゲ、君に決めた」  息が詰まりそうな狭いボールから解き放たれたのは、その声が聞こえたとき。  白、白、白……。  冷え冷えとした真っ白い空間。俺の知っている研究所とおんなじ色だ。  俺の尻尾に灯ったオレンジ色の炎が場違いみたいで、この空間は嫌いだ。  でも、今日は1つだけ違う色がある。少年の服の色だ。  見たことのない色だけど、冷たい印象を受ける色だけど、白とは違う、凛とした色。  冴え冴えとしたその色を見ると、頭の中で昂ぶっていたものが、知らないうちにおさ まっていく。  それに何より……俺のこの尻尾の炎が、映える色だった。 「へぇ……これが、ヒトカゲ」  近づくこともしないで、俺と対立したまま少年は言った。  鋭い瞳の輝きは、余計な動きをまるでしない。ただ、俺を真っ向から見ていた。  その輝きを見ていると、おさまった昂ぶりがまたもどってくる。  爛々と輝いているわけでもないのに、俺の「戦いたい」気持ちがふつふつと湧いてく る。  研究所では会うことのなかった、鋭利な輝きだ。  この輝きを見続ける為だけでも、この研究所を出る価値はあるだろう。  そう思わせるくらい、この輝きは俺を魅了した。 「なかなか……」  小さくつぶやき、少年はうつむいた。  本当は、うつむいたんじゃないかもしれない。  違うかもしれないけれど、俺の知っている言葉で表すなら……笑い?  研究所で見たそれとはどこか違うけれど、口の形が同じだった。  こんな表情があることを、俺は不思議に思った。  きっとこれは俺に向けた表情だけれど、どうしてこの表情を向けられているんだろ う?  少年はその不思議な表情を必死に消そうとしながら、白髪の老人を見た。 「……強そうですね。こいつなら、俺の旅も大丈夫だと思います」  身を引くように頭を下げながら、少年は言った。  白髪の老人は深くうなずいて、少年とは違う笑顔を浮かべていた。  少年よりもはっきりとした笑顔。これも研究所では見たことのない笑顔だ。  その笑顔が、少年から俺に向け変えられた。  俺は急なことで、びっくりした。 「気をつけるんじゃぞ」  初めてかけられた言葉。意味はよくわからない。  ただ、俺はこの人に期待じゃない何かをされているんだってことはわかった。  老人は裏のない笑顔を俺にもう一度しっかりと向けて、今度は少年のほうを見た。 「連絡はなるべく欲しい。……君はしっかりしているから、それほど心配はいらんかも 知れん。じゃが、用心に越したことはない。気をつけて行っておいで」  その言葉に響いたのは、俺に向けられたのと同じ気持ち。  正体のわからない、温かい気持ちだ。  その声に答えたのは、少年の凛とした返事。  ワクワクする俺の気持ちを代弁するような、力強い声だ。 「行こうか、ヒトカゲ」  あくまでも静かな少年の声とともに開かれた扉。  扉の向こうに広がっていたのは、少年の服の色。  昂ぶる気持ちは静められるはずなのに、いつまでも、その昂ぶりは消えなかった。