その日俺は二度目の進化をした。  まばゆいばかりに包まれたあと、俺の背中には青い翼が生えていた。  俺の意思で、その翼は翻った。耳に心地いい、力強い音が聞こえた。 「よくやった、リザード。リザードンに進化したな」  俺の隣にはいつもどおりブルーがいた。  珍しく――俺が見るのは二回目だけど――顔全体で笑っている。  このときばかりはブルーの鋭い目つきが穏やかだった。瞳でさえ、闘志を掻き立てる 色が影を潜めた。  それから、俺は思った。  俺のこの身体が、ブルーの瞳と同じ色をまとっているんだ、と。 「どうする、リザードン。バトルしないか?」  そう言うブルーの目に、影を潜めていたあの光がよみがえる。  俺はその光を見ると、やっぱり「戦いたい」と強く思う。  その問い掛けに、俺はいつもどおり強くうなずいた。  ブルーは俺がうなずくのを確認して、あたりに目を馳せる。  より強い相手を探すことに全神経を集中させているみたいだ。 「……バトル、願えますか?」  しばらくして、ブルーに目に適う相手が見つかった。  ブルーが差し出した手の先にいるのは、ブルーよりも年上の女の人だった。  紫のタンクトップを着こなす女の人だ。  ブルーの言葉に、その人は微笑みうなずいた。すぐに距離をとり、バトルの体制に入 る。  正直、あんまり強そうに見えない人だった。俺は思わずブルーに目配せした。  ブルーにはすぐに俺の言いたいことが伝わった。 「リザードン、油断するなよ。あの人は強い。モンスターボールを見ろ」  さして大きくもない声。しかし落ち着き払っていて、すべての不安要素を一瞬で取り 除いてくれた。  ブルーに示されて見たボールには、細かい傷がたくさんついていた。 「ピクシー、行ってちょうだい!」  ブルーが目をつけたボールから、まつげの長いピクシーが飛び出した。  ブルーはほんのりと笑顔を浮かべて、俺に指示を出した。  その指示は、きりさく。  進化してより鋭くとがった爪を、ピクシーに向けて振り下ろす。 「受けなさい、ピクシー!」  相手の指示は予想だにしないものだった。  ならば、と俺は容赦なく腕を振り下ろす。  赤い2本の筋が、ピクシーの腹に走る。  その瞬間、俺の視界が染まった。頭がくらくらして、立っているのも辛くなる。 「リザードン、メンタルハーブを使え」  そうだった、と俺は首に下げていた白いハーブを口に入れた。  くらくらしていたのがウソみたいに消え去る。 「メロメロ状態は治ったか? かえんほうしゃだ!」  王手をかけたとき、予想外の切り札を使うのは、相手のメンタル面において絶大な効 果を与えると、ブルーは言っていた。  その通りだった。相手はひるんだように身動き一つとらない。  俺の吐き出した炎は、ひるんだピクシーをとらえ、焼き尽くす。 「ピクシー!?」  女の人は声を荒げた。  ブルーはというと、何かを捜すようにカバンの中を見ていた。  しばらくして、ブルーは火傷治しのスプレーを手に対戦者の元へ歩いていた。  ブルーなりの気遣いだろう。  敵に情けをかけるなとは言うけれど、ブルーはバトルのあとはいつも決まってこうし ている。  俺は、そんなブルーを見るたびに感じる。  ブルーに会えた幸せを。