> 「待ってろよぉー! タマゴォー!!」 > >  マダラ少年の乗るチャリンコは、エンジンがついているかのように、速い。 >  え? 坂道だから? >  いやいや違う。それだけではない。 >  坂道でもこの加速は出せるものではない。 >  坂道+チャリンコのギア6(一番重い)+大陸横断の旅によって鍛えられた、 > マダラ少年の強靭な足腰だからこそ出せる速度なのだァ!! > > 「あぁ! アレはっ……!」 > >  マダラ少年が前方に何かを見つける。 >  あの驚きようから見ると、卵を見つけたのだろう。 > > 「タマゴッ!!!」 > >  キキィキキ〜ッ!!!! > >  マダラ少年は、力いっぱいブレーキをかける。 > > 「うぅぉぉぉぉぉ〜!!」 > >  ガシャンッ! >  大切なチャリンコをためらい無く地べたに叩きつけて、マダラ少年は卵の元に駆けつけた。 > > 「タマゴ!」 > >  喜び勇んで、マダラ少年は駆け出す。 >  なぜなら、旅色紙のようにさまざまな応援メッセージが書かれた卵が見えたからだ。 >  しかし、次の瞬間、マダラ少年の顔から笑顔が消える。 > > 「……―――!」 > >  卵は、もうその場に無かった。 >  あるのは「少年ガンバ!」と書かれた卵の殻だけ。 >  それもそのはず。 >  もうイーブイは生まれて、今ここで愕然としているマダラ少年を探しているのだから。 >  しかしそれを、マダラ少年は知る由もない。 > > 「……。……え」 > >  たった一欠片しか残っていない卵のかけらを手にして、マダラ少年は途方にくれていた。 > > 「まだ少しだけ、あったかい。ということは、昨日の夜、生まれたのか?」 > >  珍しく、マダラ少年の鈍感頭が冴えた。 >  一欠片の卵の殻を丁寧にタオルにくるんで、何か決心して立ち上がる。 > > 「ぜってぇー見つけてやる! それまで待ってろよ、タマゴ!!」 > >  澄み切った青空に、照りつける黄金の太陽。 >  大きな夢と大陸を旅する少年・マダラは、 > おんなじ太陽をどこかで見ているポケモンに、雄叫びを上げて誓うのだった。 > > > >  同じ頃、進化ポケモン・イーブイは、 > > 「きゅいぃー!」 > 『か、囲まれたぁー!』 > >  森にはびこるキャタピーに囲まれていた。 >  ピンチとも言えなくはないピンチ。 >  しかし幼いイーブイには、この上ないピンチだった。