> 「きゅい! きゅいい!」 > 『怖い! 怖いよう!』 > >  イーブイは、鳴き声をあげる。 >  目いっぱいに涙を溜めて、イーブイは座り込んでしまった。 >  何もしていないキャタピーたちは、ただただ右往左往するだけである。 > > 「ぴー? ぴぴー?」 > 『なんで? なんで泣いてるの?』 > > 「ぴ、ぴぴぃ?」 > 『わかんない、悪いことした?』 > > 「ぴぃぴぃ、ぴぴぃー!」 > 『誰だよ、こんなかわいい子を泣かしたのは!』 > >  ざわざわ……。 > >  キャタピーたちの間に、騒々しいさざめきが起こる。 > > 「……?」 > 『……?』 > >  イーブイはうつむいていた顔を上げて、キャタピーたちのさざめきに聞き入った。 > > 「……きゅうぅ……?」 > 『……なんにも、しない……?』 > >  小首を傾げて、イーブイはキャタピーたちに聞いた。 >  しばしの間、お互いに硬直していた。 >  だかやがて、堰を切ったように。 > > 「ぴぃぃぃ!」 > 『当たり前!』 > > 「ぴー、ぴぃー?」 > 『なーんだ、そんなこと怖がってたの?』 > >  キャタピーたちは一斉に答えた。 > > 「「「ぴぃー。ぴぃー」」」 > 『『『安心して。僕らは君の味方だから』』』 > >  高音低音大きい音小さい音。 >  何十匹のキャタピーが唱えるそれは、イーブイに勇気を与えた。 > > 「きゅう!」 > 『ありがとう!』 > > > >  何十匹のキャタピーに囲まれて、イーブイはこれまでのことを話した。 >  これまでのこと、といっても、なにせ生まれて間もないポケモンだ。 >  ほんの十分程度で話を終えた。 > > 「きゅう、きゅうぅ……」 > 『だからボクは、ご主人様を探しているんです……』 > >  天性の才能か、イーブイはお涙頂戴といわんばかりに話をまとめた。 >  何匹かの涙もろいキャタピーは、決して涙は見せまいと、イーブイに背を向けていた。 > > 「ぴぃぃいぃぃ……」 > 『泣かせるねぇ……』 > > 「ぴ、ぴぴ……」 > 『うう、涙出てきた……』 > >  キャタピーたちの心に、「なんとかしてこのイーブイを助けなければ!」という、使命感が生まれた。 >  もっとも、そうしなければならない理由はないのだが、 > この純粋無垢な小さなポケモンには、そう思わせてしまう力があるらしい。 > > 「ぴぃ!」 > 『よし!』 > >  一匹のリーダー格であるキャタピーが、突然何かを決意したように声を上げた。 > > 「ぴぴぴ、ぴぴぴぃ!」 > 『そういうことなら、任せなさい!』 > > 「きゅ……?」 > 『え……?』 > > 「ぴぴ、ぴいぃぃ」 > 『虫ポケモンのネットワーク、なめちゃいけないぜ』 > >  別のキャタピーが、不敵に笑って見せる。 > > 「ぴー、ぴ。ぴぃーぴぴぴ」 > 『話を聞いて、ご主人の特徴はわかった。こちらでも探してみよう』 > > 「きゅ!?」 > 『本当ですか!?』 > >  イーブイは、まるで花が咲いたように笑った。 >  その笑顔に、キャタピーたちは「いいことをした!」と、心から思った。 >  だから。 > > 「ぴい! ぴ、ぴ! ……ぴぃ」 > 『任せて! さあ、行って! ……元気でね』 > >  キャタピーは優しく言った。 > > 「きゅう! きゅい!」 > 『ありがとう! がんばるね!』 > >  イーブイはまたナップサックをくわえて、歩き出した。 >  どんどん遠くなるイーブイの背中を、キャタピーたちはじっと見ていた。 >  イーブイがご主人様に会えることを願って―――。