ここはハクタイシティ。  昔と今をつなぐ町。  ポケモンリーグ公認のハクタイジムがある、それなりに大きな町だ。  ハクタイジムを収めるは、草ポケモン使い・ナタネ。  ここのジムリーダーに勝利するとフォレストバッジが手に入るのだが、 マダラ少年にはあまり関係ない。  あくまでも、ハクタイジムには。 「ナタネさん! 協力して欲しいのですがッ!!!」  マダラ少年はハクタイジムに駆け込むなりそう叫んだ。  ナタネはハクタイジムの挑戦者とのバトル中だった。  マダラ少年の乱入により、ナタネに隙が生じた。  挑戦者のポケモン・ブースターが放つ「ひのこ」が、ナタネのロズレイドにクリーンヒット。  ロズレイドは体制を崩すとともに、大きなダメージを負う。 「……! ―――ロズレイド、マジカルリーフ!!」  しかしさすがはジムリーダー。  ロズレイドは起死回生のマジカルリーフを展開。  挑戦者のブースターは避けられない攻撃を前に撃沈。  ジムリーダー・ナタネの勝利だ。 「ふぅ。まだまだフォレストバッジはあげられないわね」  ナタネはロズレイドをボールにしまうと、挑戦者に笑いかけた。 「くそ……」  挑戦者は金髪に赤いメッシュという、なかなかお目にかかれない髪色を翻しジムを出て行った。 「……さて。どうしたのかな、マダラ君。もしや君は字も読めなくなったのかい?」  ジム戦を終え、少し息を荒げながらナタネが聞く。  ジム戦の最中は、ジムの扉に張り紙がしてあるのだ。 「ごめんなさい……。急ぎのようで、その、字読む暇が無くって……」  マダラ少年は悪びれて舌を出した。  マダラ少年とナタネは、昔からの顔なじみだ。  何を隠そうマダラ少年は最年少でポケモンリーグを制覇した猛者……  などというわけも無く。  マダラ少年の家で行っている仕事の関係で、全国のトレーナー、 とりわけジムリーダーとは顔なじみが多いのだ。 「まぁいいわ。バトルは勝ったんだし。 で、急ぎのようてなに? もしかして、やっとポケモントレーナーになる気になったの!? よかったー……。ようやくわたしの長年の悩みが……」 「何度も言うようだけど、オレはポケモントレーナーになる気、ないからね! カントー、ジョウト、ナナシマ、ホウエン、そしてオレの生まれたシンオウ大陸…… オレはこの世の全ての大陸を横断するんだ!!」  マダラ少年夢を語る。  ナタネはまたかと半ば聞き流しつつも、ちゃんと返事をした。 「あっついねぇ……」 「いや、って! そうじゃない!! オレ今最大のぴんち!」 「あらやだパンク? ハクタイシティには自転車屋さんあるからそこで……」 「ちっがぁぁぁーーーうっ! タマゴ! なくなった!」 「うーん。卵はトバリシティで1パック198円よ。このごろ値上がりしたのよ」 「うがぁぁぁーーー!!! ポケモンのタマゴ! 今日起きたらいなくって……もう孵ったみたいだけど。ナタネさん、探してよ!」  ようやく本題にたどり着き、肩で息をしながらも、マダラ少年は少しだけほっとした。  一方、いきなりそんなむちゃくちゃなお願いをされてしまったナタネは、 腕を組んでどうするべきかと頭を抱えた。 「……一応、他のジムリーダーにも声をかけておくけど……見つかるかどうかは……」 「ありがとナタネさん! 頼んだよぉぅっ!」  マダラ少年はもはやその場にいなかった。  開けっ放しのハクタイジムの扉の向こうに、 赤いチャリンコにまたがるマダラ少年の後姿が見えていた。 「ま、いいか……」