「あらあら、こんなところにイーブイが……。珍しいわねぇ」  マダラ少年がカンナギタウンを出発した、あくる日の朝。  朝日の降るお花畑の真ん中で、「フラワーショップ いろとりどり」の店員とおぼし き女性は、イーブイを発見した。  それも、目を回してぶっ倒れているあのイーブイを、である。 「お腹がすいたのかしら?」  女性はポケットから、なぜか潰れていないモモンの実を取り出す。  小さくちぎって、イーブイの半開きの口に放り込む。 「……きゅ……?」 『……甘い……?』  イーブイはうっすらと目を開けた。  そこには、自分を覗き込む女の人が移っていた。  さて、ここで注意したいのは、イーブイは――マダラ少年以外の――人間に対して、 いい思いではないということ。  生後1日にして、トレーナーにゲットされかけ。  果てない恐怖を味わっている。  そんなイーブイのとった行動は。 「きぃーー!!」 『寄るなぁーー!!』  飛び上がり、体を反転。  歯を食いしばっての威嚇。  女性の反応は!? 「……元気になったぁー。よかったわぁ」  ……効果はないみたいだ。 「誰かのポケモン、よね? こんな珍しいポケモン、野性なわけないしぃ……」  しばらく女性は考え込み。 「そうだ。ジムリーダーさん。ヒョウタさんに聞けばいいんだわぁー」  威嚇するイーブイを恐れることなく抱え上げ、「フラワーショップ いろとりどり」 へ入っていった。 「きゅいきゅい!?」 『ボクの威嚇ってなに!?』  さぁ、なんでしょうね?  イーブイの連れて行かれた花屋の中には、他にも2人の店員と1匹のシャワーズがいた。 「あら? アヤメさん。そのポケモンは?」  カウンターにいた女性店員が、イーブイを抱える女性に聞く。 「ああ、お花畑で倒れていたんですよぉ。誰かのポケモンだろうと思うんですけど……」 「ふぅん。お尋ねポケモンのチラシは入っていたかしら?」  カウンターの下をごそごそやりながら、チラシを探す。 「サクラさん……これ……」  カウンターから離れたところで、シャワーズとみずやりをしていた店員は、カウンタ ーの下を探す店員に声をかけた。 「なぁに、スミレさん。今ちょっと手が離せない……」 「あの、だから……その……」  サクラ店員は、ふと、顔を上げた。  真っ先に目に入ったのは、スミレ店員――の持っている一枚の紙切れ。 「ここ……卵から生まれたポケモンの……お尋ねが……」  スミレ店員の手には、最寄りのジムから発送されたお尋ねポケモンのチラシ。  他でもない、ナタネの手により書かれたものだ。 「イーブイは進化していないポケモンだもんねぇ。可能性はあるわぁ」  アヤメ店員は持ち前ののんびりさを前面に出して笑って見せた。