ブロロロロロ……  お昼過ぎ、クロガネシティに1台のオートバイが走っていった。  オートバイには、「フラワーショップ いろとりどり」。  操縦するのは、少々挙動不審のスミレ店員。  後ろには色とりどりの花とシャワーズ。  前には、イーブイ。 「……ちょうど、配達があるから、ヒョウタさんのところまで、連れて行ってあげる」  そう言って、スミレ店員はソノオタウンを後にした。  3時間もせぬうちに、目的地に到着した、というわけである。  スミレ店員はクロガネジムの前にオートバイを乗りつけると、きちんと整頓してオー トバイを置いた。  ジム戦の途中でないことを確認して、戸を叩く。 「「フラワーショップ いろとりどり」です。配達に来ました」  しばらくすると、戸が開き。 「あー♪ オツカレー」  陽気なその声はクロガネジムのジムリーダー・ヒョウタのものではなく。 「……? ナタネ、さん?」  ハクタイジムジムリーダー・ナタネだった。 「あのう……ヒョウタさんは不在でしょうか?」  スミレ店員は、呟くように聞く。  対するナタネはスミレ店員の2.5倍の声で言う。 「クロガネ炭鉱よ、クロガネ炭鉱! 毎日毎日化石化石化石……飽きないのかしらねぇ?」  やれやれ、とナタネは首を振る。  スミレ店員は面を食らったように、ポカンとしながらもうなずく。 「……。花の宅配に来たのですが、ヒョウタさんがいらっしゃらないなら、どうしよう もありませんね……。 ところでナタネさん。このチラシは、各ジムから、近隣の町に届けられているんですよ ね?」  スミレ店員は花束の中から例のチラシを取り出す。 「ああそれ。アタシが書いたのよ。 知り合いの子がね、『タマゴがなくなったー!!』って。で、優しいアタシがこうして 各ジムにチラシを配ったってわけ」  ナタネはマダラ少年を思い浮かべて笑って見せる。  それを聞いて驚いたのはスミレ店員……  ではなく他でもない、イーブイだった。 「き、きゅいいいぃぃ!!?」 『た、たまごぉぉ!?』  そして、イーブイは確信した。 (きゅきゅい、きゅきゅきゅい!!) 〔この人、ご主人様のことを知っている!!〕  イーブイは必死な表情で、ナタネを見つめる。  ナタネもすぐそれに気付き、イーブイのくりくりした黒目をじっと見つめる。 「ねぇ、この子は……」 「そのこともあって、来たんですが……。 店の前の花畑で、倒れていたんです。珍しいポケモンなのに……辺りにトレーナーらし き人もいなくて。 お尋ねポケモンを探したら、卵から生まれたばかりのポケモンが……」 「ふうん……」  ナタネは短く返事をすると、イーブイを抱えあげた。  腰のモンスターボールから、バナナを首からはやした四本足のポケモン――トロピウ スを取り出す。 「ありがとう。たぶんこの子だわ。あの子が言ってたの」  ナタネは微笑んでスミレに礼を言うと、トロピウスに飛び乗った。 「エ?」 「アタシだってトレーナーだもの。たとえ自分のポケモンじゃなくたって、目を見れば 何を言ってるか位わかる。 この子は、自分の“おや”が自分を探してるって言ってる……。 ほんと、ありがとね。名前は?」 「スミレ……です」 「スミレ……。いい名前ね。あたし、花とか大好きだから……! トロピウス、空を飛ぶ!」  トロピウスの背中に生えた4枚の葉がはばたき、風が巻き起こる。  スミレ店員は、思わず目を閉じた。  再び目を開けたとき、ナタネの乗ったトロピウスはすでに、空高く飛び上がっていた。 「きゅいーーー!!!」 『ありがとーーー!!!』  スミレ店員の耳には確かに、イーブイの声が聞こえた。