「「あああああああああああああああ〜〜〜!!!!?」」  210番道路には、叫び声が響いていた。  いつも霧が立ち込めているこの道は、アップダウンの激しい道路として有名だ。  なお、カンナギタウンとズイタウンをつなぐ道でもあったりする。 「マダラーーー!? 無理よ無理! 霧払い覚えてるポケモンいないのに、この道は!」 「だあああ!! テマリ、もっと早く言ってくれぇぇぇい! スピードがついて、うあ あああああ!!!?」  あられもなく絶叫しているのは、マダラ少年&テマリ少女だった。  しかも。  全力疾走で階段を下っている、である。  ……もちろんチャリンコで。 「ああ!? み、道が道が道がッ!」 「わあってるよ! 道がな……ぁいぃぃぃ!!!」  ひゅうるるるる〜…… だぱーん!  階段から落ちる勢いはそのままに、道にまたがるように流れる川へダーイブ!  かなりしぶきを上げて川に落ちた2人だが、霧が立ち込めているせいで、周りのトレ ーナーは気付かない。 「がぼごぼ……死む……オレ、泳げな……」  マダラ少年は情けなく浮き沈みしていた。 「ハ、ハ、ハ……ハスボー、助けてぇー」  テマリ少女は決死の思いでボールを開く。  飛び出したのは、蓮の葉っぱを頭に乗せたポケモン――ハスボーだ。  テマリ少女はハスボーに掴まり、ついでにマダラ少年の手も引く。  そのまますぃーと泳いで、岸までいく。 「お、重い、わ。マダラ……。そんなに重そうに見えないのに……って?」  肩で息をしていたテマリ少女は、息をするのも忘れてマダラ少年を見る。  正しくは、マダラ少年の手を。 「ア、アンタは……。どうりで重いはずだわ! チャリから手、離せよ、こういうとき くらい!」  マダラ少年は、しっかりとチャリンコを掴んでいた。  そりゃ重いはずである。 「うう、だって……大事なんだもん……」  マダラ少年は力なく反論した。  テマリ少女はあきれて、全身から力が抜ける。  しぃーん  しばし……というには長すぎる沈黙。  わかりやすく言うならば、マダラ少年が足し算と、引き算と、掛け算と、割り算の入 り混じった計算式を解くのにかかる時間の沈黙。  勿論最後は、すべての計算式をかっこでくくって×0、である。 「…………」  テマリ少女はハスボーをボールに戻すと、立ち上がり、ツインテールを絞った。 「…………」  マダラ少年もチャリンコを立て直して、自分も立ち上がり、ボサボサ頭の水気を飛ば した。 「「ついてない……」」  2人がそういってうつむく頃には、あたりに立ち込めていた霧が、跡形もなく消えて いた。  ある、霧の晴れた昼下がりのことだった。