時刻はお昼過ぎ、川に落ちたマダラ少年とテマリ少女は210番道路の南方……背の 高い草が多い茂る道に差し掛かっていた。  背の高い草が生い茂っているので、マダラ少年のご自慢のチャリンコは使えない。  なのでマダラ少年は不機嫌そうだった。 「チャリンコ乗りたい」 「タイヤに絡まっちゃうから乗れないでしょう?」 「でぇもぉ」 「でもじゃないよ。物理的に無理なのよ」  ぶつくさ文句を垂れるマダラ少年をなだめすかして、テマリ少女はずんずん進んでいく。  テマリ少女の歩いた道を、マダラ少年はチャリンコを持ち上げながらついていく。  そんな2人を、影から見ている者がいた。 「ころころぉ……」 『あいつらだな……』  影から2人を観察しているのは、丸っこいシルエットのかわいらしい虫ポケモン・ コロボーシだった。 「ころころころころ」 『虫ポケモンネットワークの情報は正しいのだ』 「ころころ、ころこーろ」 『ハクタイの森のキャタピーたちに、あのカワイ子ちゃんのご主人様が見つかったと伝 えよう』  ガサガサガサガサ  コロボーシの間で、一連の騒ぎが起こる。  ある者は、虫ポケモンネットワークでキャタピーに連絡し。  ある者は、何かしらの連絡で右往左往し。  ある者は、草むらから飛び出した。 「!? コロボーシ……?」  唐突に目の前に現れたコロボーシに、テマリ少女は足を止めた。  反射的に手は腰のボールを掴んでいた。 「ころころろ」 『待っていました』  コロボーシは恭しく頭を下げる。  やはり突然のことで、テマリ少女は唖然とする。  そこに後ろから追いついてきたマダラ少年は。 「待っていた? どゆこと?」  コロボーシの言うことを完全に理解し、マダラ少年は的確にそう聞き返した。 「え? なんでわかるの? なんでポケモンとしゃべれる……の?」 「ころころこここ、ころころ」 『あなた様のポケモンのことを、承っております』 「ポケモン? タマゴのことか!?」 「ねぇってばぁ? マダラ、なんでポケモンとしゃべってるの?」  テマリ少女そっちのけで、マダラ少年はコロボーシと話を続ける。 「ころ」 『ええ』 「今どこに!?」 「……こ」 『……それが』  コロボーシは言葉を詰まらせる。  マダラ少年の鈍感頭は、恐ろしい想像を思い描いてしまう。 「まさか?」  マダラ少年がただただ脱帽しているとき、イーブイ一行は絶望的な状況に置かれていた。 「くぁ!? なんなの? なんでスピアーが!?」  トロピウスの空を飛ぶで、上空からマダラ少年を探していたナタネたちに、スピアー の大群が襲い掛かっていた。 「びぃー! びぃー!!」 『この野郎! カワイ子ちゃんをかえせぇ!!』  スピアーたちの言い分はこうだ。 「イーブイを狙ってる?」  ナタネは驚愕したようにそう小声で言った。  あながち間違いではないが、明らかにずれている、すれ違っている。 「きゅい?」 『キャタピーさんたちの?』  近くまで来た1匹のスピアーに、イーブイは聞く。 「びびび!? びびぃ!」 『なんだ!? 知ってるのか?』 「きゅ」 『うん』 「びびびぃー、びぃ!」 『なんだそれなら話が早い、来い!』  スピアー軍団は全体的に気が短いらしい。  だから、ちゃんと状況を確認する前に、ナタネに奇襲をかけてしまったのだ。  そして、ちゃんと説明する前に、ちゃんと返事を聞く前に、イーブイを連れ去ってい ったのだ。 「ああ!? イーブイ!!」 「きゅい、きゅいきゅいぃ〜」 『大丈夫だよ、この人たちはいい人だから〜』  スピアーに連れ去られながら、イーブイは言った。  その内容が、ナタネに理解できたかどうかは、また別の話だが……。