スピアーに連れ去られた(?)イーブイと、コロボーシの助言を得て走るマダラ少年 (とテマリ少女)は、今初めて同じ土を踏もうとしていた。  そこは。  ズイタウン。 「ありがとう……コロボーシ。ここにいれば、タマゴに会えるんだね?」 「ころころ」 『おそらく』  210番道路からズイタウンに入ったマダラ少年は、神妙な顔つきでコロボーシに聞く。 「ねぇマダラ。どうして、コロボーシの言ってることがわかるの? ねぇ」  テマリ少女は急に走り出したマダラ少年に後から追いついて、さも不思議そうに聞く。  マダラ少年にそれを説明するだけの技能はない 「オレは、この村で育った。この、ズイタウンで」  ――かと思われたが、この地に来て、マダラ少年の鈍感頭の回転はかなり速くなって いるようだった。 「テマリ、ズイタウンにはなにがある?」 「え? ポケモンセンターと、新聞屋と……育て屋?」 「オレのじいちゃんとばあちゃんは、育て屋をやってて、オレは小さい頃からポケモン と遊ぶ機会が多かった。そのせいか、いつの間にかポケモンの言ってることがわかるよ うになったんだ」  テマリ少女の頭の中で、なにかがつながる。 「じゃあ、卵をくれた人って……」 「じいちゃんとばあちゃんだ」  さらに、チャリンコをくれたのも、寝袋をくれたのもマダラ少年の祖父母だったりする。  さらにさらに、マダラ少年がジムリーダーと仲がいいのは、この育て屋という特殊な 仕事を解して知り合ったからでもある。  この騒動を治めるために役に立ったのもまた事実。  マダラ少年は育て屋に感謝していた。  その感謝をそのままに、マダラ少年は育て屋の戸を開けた。 「じいちゃん、ばあちゃん!!」  育て屋には、囲碁をたしなむマダラ少年の祖父(と近所のおじさん)と、カウンター でお茶をすするマダラ少年の祖母が。  急な孫の帰宅に、少々戸惑った様子だった。 「……マダラかえ? 随分速いのう。大陸横断とは、そげに簡単なものかの?」  マダラ少年の祖母はゆっくりと首をかしげる。 「ばあさんや。違かろうぞ? 後ろにおるベッピンさんを紹介に来たんだろうぞ。 ほっほっほ」  マダラ少年の祖父は軽快に笑って見せる。  それに反論するのは、顔を赤くしたテマリ少女。 「ち、ちちちち……違います! マダラのもらった卵が……」 「あのタマゴって、なにが生まれるはずだったんだ? じいちゃんは知っているよなぁ?」  テマリ少女が話そうとするのをさえぎり、マダラ少年が聞く。  祖父の顔が、一瞬凛々しくなる。 「……うむ……」  蓄えた顎鬚をなで、言い放つ。 「忘れたぞ」  静寂とは、こういうことを言うのだろう。  育て屋の外にいるはずの、ポケモンたちの楽しげな声が聞こえてくる。  普段は聞こえない210番道路のコロボーシが鳴く声も聞こえる。  静寂は、長く空間を支配するのだった。