210番道路の上空を、イーブイを抱えたスピアーが旋回している。 「び、びび」 『ふぅ、この辺だろう』  スピアーは先ほどまで抱えていたイーブイを、そっと地面に下ろす。 「きゅ、きゅきゅ」 『スピアーさん、ありがとう』 「びび。び」 『いいってことよ。じゃあな』  ぶぅーん  スピアーは羽音を残して飛び去っていった。  スピアーの大群も、いつの間にかいなくなっていた。 「きゅう……」 『ご主人様……』  イーブイは憂い帯びた目で、夕日が沈みかけた空を見上げるのだった。 「――ゴー……」  ふいに、イーブイの長い耳に何か懐かしい声が聞こえた。  これまでイーブイが出会ってきた、誰の声でもない声だ。  しかし、イーブイは確かに“懐かしい”と感じた。 「きゅう……?」 『ご主人様……?』  声に出すと、イーブイの目には涙があふれてきた。  景色がにじんで、夕焼け色一色に見える。 「きゅうううう!!!」 『ご主人様ああ!!!』  イーブイは、力の限り、叫ぶ。 「――! いま、“ご主人様”って……」  イーブイの声は、ズイタウン周辺でイーブイを探すマダラ少年の耳に届いていた。 「どこ、どこなんだ、タマゴ!」  がさがさ  マダラ少年は声のしたほう、210番道路の草むらに入っていく。  ちょうど、そのとき。  ――なぜ、そのときでなくてはいけなかったのか。  マダラ少年が爆睡しているときに、卵が孵ったように。  ハクタイの森で、真逆の道を選択してしまったように。  ……イーブイは、210番道路の背の高い草むらを通って、ズイタウンへ入った。  マダラ少年とは、足元ですれ違っていた。  見えなかったのだ。  高い草むらに隠れて、イーブイの姿が。  視界を高い草むらに覆われて、マダラ少年の姿が。 「タマゴ……」 「きゅう……」 『ご主人様……』  夕日は、無情にも沈んでいく。  やがて夕日は沈みきり、あたりは暗くなるだろう。  そうなれば、互いを見つけることなど、出来なくなる。  そしてそれは、今、現実のものになろうとしていた……。