沈んでいく夕日は、もう一筋の光しか残していなかった。  その一筋の光も、消えようとしていた。  こういうときこそ。  三度目の正直。  七転び八起き。  二度あることは三度ある。  ……影でマダラ少年をサポートしてきた、神の使いの出番ではないか?  ゆけ、クヌギダマ。  少年とポケモンの明日のために。 「くぬくぬ!?」 『僕の明日はなし!?』  クヌギダマの抗議のむなしく、いつもどおり天よりクヌギダマは落ちてきた。  いつもと違うのは…… 「ぬっ……!?」 『なっ……!?』 「のぉーん!」 『おどき!』  着地する前に何者かに吹っ飛ばされたことだろうか。 「のぉーん! のぉーん!」 『はやく! 持ち場について!』 「のぉん!」 『わかってるよ!』  クヌギダマを強制退場させたのは、ズイの遺跡を住処とする、シンボルポケモン・アン ノーンの群れだった。 「タマゴ! どこなんだ、なぁ!?」 「きゅう、きゅう!!」 『ご主人様、どこぉ!!』  なおもすれ違い続ける1人と1匹の頭上で、青い光が放たれた。  それは、アンノーンの群れが放つ、めざめるのパワーの光だった。 「――!」 「――!」 『――!』  2人は、違う場所で同じ空を見上げた。 「『ZUITAUN NI HUTARI HA IRU』」  アンノーンは隊列を変える。 「『SODATEYA NO MAE DE AERU』」  ずいたうん に ふたり は いる  そだてや の まえ で あえる  それが、1人と1匹の読んだ夜空に浮かぶ文字だった。  1人と1匹は、走る。  育て屋の、前へ。 「君が……タマゴ、なのか?」  イーブイを前にしたマダラ少年は、驚きを隠せず聞く。 「きゅ……きゅう、きゅ?」 『アナタが……ご主人様なの?』  紫髪のマダラ少年を前にしたイーブイは、嬉しさを隠して聞く。  先に笑ったのは、マダラ少年だった。 「そうかぁ、そうかぁ……タマゴ、なんだな?」  再確認するマダラ少年に、イーブイは飛びついた。 「きゅぃぃ……きゅぃぃ!」 『会いたかった……会いたかったよ!』 「オレもだ。ずっと会いたかった! もう、離れ離れにはならないからな……!」  翌日は、旅立ち日和のすがすがしい晴天。 「じゃ、じいちゃん、ばあちゃん、行ってくるな!」 「もうすこしゆっくりしていけばいいのに……。若いもんはせっかちでいかんのぅ」 「そうじゃのぅ、ばあさん。ほっほっほ」  チリンチリ〜ン♪  マダラ少年のチャリンコのベルが鳴る。  背中には、青いナップサック。  そこからイーブイが顔を出している。 「ま、待ちなさいぃ〜! マダラ!」  チャリンコが揺れる。  荷台には、先ほど飛び乗ったと思われる、テマリ少女。 「ハクタイまで、送ってってもらうんだから!」 「じゃあ思いっきり遠回りしないとな!」 「きゅいい!」 『あはは!』  1人と1匹が大陸を制覇するのは、もうすこし、先のおはなし……。