ボクの目標は、とあるポケモンの写真を撮ることだ。  そのポケモンとは。  ミュウ。  151匹目の幻のポケモンとして、随分前に学会に発表されたポケモンだ。  ボクは今まで、ポケモンが発表されるたびに、生息地まで出向いて写真を撮り続けてきた。  野生の、生き生きとしたポケモンの表情は、たとえ動かない写真の中でも、躍動感に満ちていた。  そのポケモンの生き生きとした姿を、写真に収めることが大好きだからだ。  今まで400匹あまりのポケモンの写真を撮ってきたボクだけれど、いまだにミュウを撮ってはいなかった。  調べてみると、ボクだけじゃなく、歴史上誰一人としてミュウを写真に収めた者はいなかった。  ワタシの目標は、この命をまっとうすることだ。  そのためには。  ニンゲンに見つかってはいけない。  不覚にも、151匹目として随分前にガッカイに発表された。  ニンゲンから逃げ延びるためには、いち早くその行動を認識する必要があった。  ワタシがニンゲンからどうすれば逃げ延びれるのかと仲間に聞くと、ニンゲンが来たら教えてあげるといわれた。  ワタシはその言葉を信じることにした。  それでも何度かニンゲンに出会った。  赤と白のボールを投げてくる者や、四角い箱に丸い筒を取り付けたキカイを向けてくる者がいたが、私を捕らえられる者はいなかった。  ボクはその日、最初にミュウが発見されたというジャングルに来ていた。  ワタシはその日、ニンゲンが初めてワタシを見たジャングルに来ていた。  ミュウは、ピンクの体をしているらしい。  耳は三角形、長い尻尾を持っているらしい。  大きな瞳は、蒼いらしい。  ニンゲンは、2本の足で歩く。  耳は小さく、顔の横についていて、尻尾はない。  目はワタシよりずっと小さい。  かさかさ。  葉がこすれる音がした。  ボクはカメラを構えて茂みを見た。  かさかさ。  ああ、尻尾が葉に触れてしまった。  ワタシは茂みから飛び出した。  !!  アレは……  ミュウだ!     ニンゲンだ!  ボクは、カメラのシャッターを切った。  ……撮った……!  ワタシは、カシャ、という音に驚いて、脱兎のごとく逃げ出した。  ……撮られた……!  ボクは、カメラから出てきた写真を手にとった。  真っ黒な画面から、ピンク色の見たこともないポケモンのシルエットが浮き出てきた。  そのポケモンと、写真の中で目があった。  ワタシは、ニンゲンから充分離れたところで、木に腰掛けた。  四角いキカイを構えたニンゲンが、ワタシの頭に焼きついていた。  そのニンゲンと、記憶の中で目があった。  そのポケモンの目はひどくおびえていて、驚いていて。  ボクの心は痛んだ。  そのニンゲンの目は嬉々としていて、でもがっかりしていて。  ワタシの心は痛んだ。  ボクはそのときわかった。  このポケモンは、人に知られちゃいけないんだ。  このポケモンは、静かに暮らしていたいんだ、と。  ワタシはそのときわかった。  このニンゲンは、見つけたくなかったんだ。  このニンゲンは、目標を失いたくなかったんだ、と。  ボクは、歴史上・初といえるミュウの写真を誰にも見せていない。  あのポケモンには、静かに暮らしていて欲しいから。  ワタシはあれからニンゲンを見ていない。  それはきっと、あのニンゲンが誰にも言っていないからだ。  もう2度と、人間に会いたくはない。  けれど。  あのニンゲンにはもう一度だけ会ってみたい。    END