「同じ宇宙〈そら〉にいるのに、決して逢うことが出来ないものってなぁーんだ?」  旅の途中、今はじめて会った少女にこう聞かれたら、あなたは答えることが出来るだろうか。  この、目を輝かせた少女の満足する答えを。 「逢える、なんて難しい言葉を知ってるね。なんだい、それは」  今年で16になった僕は、少しだけ大人ぶった口調で聞いてみた。  すると少女は輝いていた目を少しだけ逸らして、話し始めた。視線は、はるか遠くの流星の滝を見ているようだった。  その話し声は、少女のものとは思えないくらい大人びていて、話すというより語るというほうがしっくりくるほどだった。  そしてその大人びた声は、思いもよらない“むかしばなし”をつむいでいくこととなる。  それほど昔のことじゃないの。  水滴が石に穴を空けるくらいの年月ほど前のこと。  空には変わりばんこにお日様とお月様が昇っていたの。きっと、ワタシ達を見てくれているんだね。  いつも変わりばんこにしか昇らないお日様は、いつもより少し早く空に昇ってしまったの。  お日様は、西の空に沈んでいくお月様を見たの。  青白い空に沈んでいく白いお月様。とてもきれいだったんだね。  お日様はお月様に一目惚れをしたの。  でも、お日様とお月様は一緒に昇ることはないでしょう?  お日様はあれっきり、お月様を見ていなかった。  同じ空にいるのに、逢いたくても逢えなくて、お日様は悲しかった。  そんなお日様を、気の毒に思ったポケモンがいたの。  そのポケモンは、洞窟のてっぺんで、『たいようのいし』をお日様にかざしたわ。  そうしたらお日様は一瞬だけ光って、『たいようのいし』と入れ替わってしまったの。  お日様は、見たこともないポケモンになっていた。丸くてオレンジ色の体に、黄色いとげが生えたポケモン。  お日様をうれしかった。  夜になれば、お月様に会えるから。  でも、「それは出来ない」と『たいようのいし』を持ってきたポケモンは言ったの。 「この洞窟から出ることはできないし、『たいようのいし』は明日になったら、ただの石ころになってしまう。 お月様をつれてきてあげるから、半日ほど待っていて」  お日様は、おとなしく洞窟の中で待っていた。  入り口のそばにある凹んだ大地が、お日様はとても気に入ったわ。  約束どおり半日たつと、『たいようのいし』を持ってきたポケモンは、三日月形の、黄色いポケモンをつれてきた。  お日様には、一目でそれがお月様だとわかったの。  うれしくてうれしくて。それはそうだよね。ずっと逢いたかった人に、逢えたんだから。  お日様は、もう少ししたら夜が明けてしまうことも忘れて、お月様にいろいろなことを話したわ。  お月様もそれをうれしそうに聞いていた。  もしかしたら、お月様もお日様に会いたかったのかもしれないね。  楽しい時間は、すぐに終わってしまうんだね。  お別れのときがきたの。  仲良くなった2人は、そのお別れがとても悲しかった。  でも、もうすぐ『たいようのいし』はただの石ころになってしまうから、お日様とお月様は、サヨナラをするしかなかったんだ。  お日様が大好きになっていたお月様は、涙がかれるまで泣いたわ。  お日様のお気に入りだった凹んだ大地で。  お月様の涙は、やがて洞窟の中を水浸しにしてしまった。  そして洞窟の中に大きな滝が出来るころ、お月様はまた空に帰っていったの。  お日様とお月様をあわせてあげたポケモンは、涙の滝を見て、前よりもっともっと悲しくなった。  もう二度と、お日様とお月様は逢えない。だって、『たいようのいし』も『つきのいし』も、もうないんだから。  だから、その優しいポケモンは、お日様みたいなポケモンと、お月様みたいなポケモンを生み出したの。  もう二度と、離れ離れにならないように。  『流星の滝』と名づけたこの洞窟に。  『ソルロック』と『ルナトーン』というポケモンを。  少女は、静かに視線を僕に戻した。  その目は落ち着き払っていて、もう輝いてはいなかった。 ――この子はいったい――  僕は、少女を凝視した。  少女はくすりと笑って、あの『なぞなぞ』の答えを言った。 「お日様と、お月様」           〜END〜