「ねぇ、ライ兄ちゃん!」 数人の子供が、夕暮れの土手にただずんでいる青年のもとへ、走り寄ってきた。 「何だい?」 普通ならばここで『もう陽が暮れるからお帰り』と言うところなのだろうが、青年はにこやかにそう答えた。 「何かまた、面白いお話聞かせてよ!」 「ねぇ、いいでしょ?」 「うーん・・ボクはいいけど、キミ達はもう帰らなくていいのかい?」 「いいよ! 今日は『ポケモン記念日』だし!」 「そうだったね」 にこりと微笑み、空を仰ぐ青年。 星がひとつ。またひとつ。光をたたえていく。 ・・今夜は綺麗な星空になる。 「じゃあ、ボクの昔の話を聞かせてあげようか。 ・・この『ポケモン記念日』にちなんだ話をね」 ――みんなに知らせておきたいな。今日は、ただの休日じゃないってことを――    POKE IN ONLINE #2    「Lint」 ――あの日も星空―― トラベラーサイトという町の広場には、その日、沢山の人とポケモン達が集まっていた。 「ひゃー! この人たち、み〜んなアンタを見に来てるんだね〜、ライィ〜!」 自称子悪魔、4年前にこの町へやって来た少女・レインが驚きの声をあげる。 「う〜ん、ボクも、どきどきしてるよ」 と、答えるライは、これからここで開かれるイベントの主役だ。 ――舞い手であるボクの、旅立つ前夜―― 星空の下、美しい着物に着替えたライが、パートナーポケモンであるキレイハナとともに、野外ステージに立つと、群衆のざわめきはピタリと消える。 やがて、風が吹き抜けるような、澄んだ旋律が響く。 同時に始まる、ライの神秘的な舞い。 演出のレインが水の魔法をもって作り出す霧は、照明灯の光を乱反射させ、舞いをいっそう神秘的に見せている 優雅に舞うライがひらめかせる扇から、魔力の光があふれ、霧散して・・ なんと心癒される光景なのか・・と、人もポケモンも、皆、酔いしれ、我を忘れるのであった。 ――彼女にとっても、旅立つ前夜ってことになったんだ―― 舞いが終了し、客の盛大な拍手が今まさに、巻き起こらんとした瞬間だった。 カッ! 「!?」 あふれた魔力が、ステージ上の一点に集束。 直後、すさまじいフラッシュ。 ライも、レインも、客も、場に居合わせた全員が、思わず目をふさぐ。 やがて目を開けた一同は、ステージ上を見て、どんな反応を示しただろうか。 まるで、探偵小説の、死体移動トリックのよう。 さっきまで確かにライとキレイハナしかいなかったステージに、傷を負った、赤い服の少女が倒れていた・・ ――びっくりしたなぁ。いきなりのことだったから―― 翌朝。 「様子、どうだい?」 一晩中、いてもたってもいられなかったライは、夜明けと同時に、レインの家のドアを16回ノックした。 「・・ノックばっかりしてないで、入ればいいような・・」 「そうだね」 とりあえず、レインの家・居間。 「この子は大丈夫だよ」 言って、テーブル上の、魔法水球を指すレイン。 中には、少女のものである、ピジョンの入ったモンスターボール。 「よかった・・。で、彼女の方は?」 「傷はそんなに深くないし、多分大丈夫だと思う。 あたいの部屋で寝てるけど・・見る?」 「うん、見るよ」 そして、2人はドアの前に立つ。 「気がついたかな〜?」 「さあね〜」 バタンッ! いざドアを開けてみる。 少女は起き上がってきていた。 レインのでは小さいので、ライのパジャマを着せられていた少女。 「あ・・おはよう」 無意識に、ライの口から、フレンドリーな挨拶が。 「あ・・おはよーございます・・」 少女の方も、同じだったようだ。 (あうっ・・次になんて言えばいいんだろうか・・!) 約3秒、かなり気まずい沈黙。 ふと、ライの目に、レインが食べかけのまま残しておいたポテチが目に止まった。 「そ・・そうだ! お腹すいてるよねえ? このポテチ食べたらどうだい?」 「いやぁ〜! あたいが苦労して並んで買った、納豆ポテチ〜!」 「い〜じゃないか〜! 彼女は多分、お腹すいてるんだ。 ね、食べさせてあげようよ、レイン!」 「うう・・わかったよぅ・・」 言い合っているうち、2人はハッと気付いた。 少女が下を向いていることに。 「あ・・ごめんよ! 気を悪くしたよね? ごめん・・」 そうではない。 少女はこの時、嬉しかったのだ。 レギスタンのスラムの民・・人間らしい待遇もされないような身分の自分に、こんなに優しく接してくれたことが、だ。 (うれしい・・な) 「ねぇ、キミ、名前はなんて言うんだい?」 「リント・・わたしは、リント」 初対面の相手だからか、遠慮がちな少女・・リント。 「それで、あのー・・ここはどこでしょうか?」 「ネバーランドの町・トラベラーサイトだよ〜ん! あたいはレイン、よろしくね!」 「で、ボクはライ! 舞い手なんだよ」 自己紹介もかねて回答するのはレインだ。 ついでにライも。 「・・トラ・・どこ・・?」 リントは、目をぱちくりさせた。 「ネバー・・ランド・・聞いた事・・ない・・」 「うそ?」 「ウソ?」 ライとレインの目が点になる。 「ネバーランドを知らないのかい!?」 「・・(こっくん)」 「リント・・頭を強く打つとか、した?」 「・・(ぷるぷる)」 「リント・・すっっごい世間知らずだよ・・それ・・」 ストレートな言葉に一瞬ひるんだリントだったが、今度は素早く質問する側に移った。 「あの、じゃあ、ここからレギスタンまでは、どの位離れてますか?」 「レギスタン・・?」 「れぎすたん・・?」 2人の目が、さらに点になった。    続    あとがき はい、#2です。 この物語を見れば分かるとおり、ポケライン2の冒険は、ライの回想というカタチで進んでいくことになります。 ラストのラストでは、回想で物語を語ってきたからこその演出を考えてますよ☆ だから、#1は、全体として見ると、読み手とリントの時間軸が一致しているため、異質な回でしたね。 前回のラストと同じセリフを、微妙に使ってました。 旧マサポケからの移動にあたり、レインの『〜だよん』口調を、一部直してます。 あまり日常会話で多用しすぎるとしつこいので。        次回予告 ライの旅立ち。リントの見知らぬ世界。 レインの助け。そして、4人目・・ 第3話「風を奏でる人(仮)」