「ねぇ! そろそろ時間時間時間!」 不意にそんな声が飛び、1人の少年が部屋に現れた。 まだあどけない顔だちの、9歳くらいの少年。 少し長めの髪は金髪。緑色のチェックブラウスの下に着たTシャツにプリントされている犬のマークが特徴的だ。 「あっ・・ミノル!」 「もう時間〜!?」 とたんに慌て始めるライとレイン。 「うんうん、もうみんな集まってるよぉ!」 「うっそー!」 3人の動きがあわただしくなる。 (え・・なになに?) この時、何も知らないリントは、何を思ったであろうか。 (えーと・・  @ テロ決行  A 近所のティールショップのタイムサービス  B 学校?  ・・どれだろう・・?) まぁ、どれもハズレなのだが。 刹那、リントはライの手に引っ張られた。 「とりあえずリント来る?」 「はいぃ!?」 「来るんだね、わかった!」 ずるずるずるずる・・ 「『はい』じゃなくて『はいぃ!?』だったのにぃ・・」    POKE IN ONLINE2 #3    「世界の隔たり 〜機械と魔法と〜」 家を出た一行を待ち構えていたのは、黒山の人だかり。 ライ達4人の姿を確認するや否や、歓声を上げ、光を纏った手を上げ、振る。 赤、青、緑、黄・・綺麗で、少し不思議な光。 幻想的で、少し怖い光。 とにかく・・すさまじいまでの熱狂ぶり。 「がんばれ、ウィッシュスター!」 「応援しているわ!」 「レインちゃ〜ん!」 「ライさまぁ〜!」 人々の激励に答えるように、ライとレインは青、ミノルは緑の光を、彼ら同様右手に発生させて振る。 「ありがとうございまーす! ボク達、行ってきます!」 「・・あ・・」 ただ1人、立ち尽くすしかできなかったのは、リントだ。 よく見れば、至る所に『ウィッシュスター』という何かを応援するメッセージの書かれたバナー(横断幕)が。 (きっと・・ライたちだよね) 何も知らないリントの視点から見るに、ウィッシュスターとは恐らく、ライ、レイン、ミノルの3人組を指しているのだと思われる。 そして今は、彼らの旅立ちの時。 (ライたち・・なんなの!?) 考えられることは、ポケモントレーナーの修行の旅。 とすると、彼らは、これほどの激励を受けて旅立つほど、将来有望ということだろうか。 (わたしが・・一緒に立っててもいい場所じゃないみたい) そっと場を離れかけ、リントはひとつ思い出した。 自分は、ここがどこで、あの後どんな経緯でここに来たのか・・そういったことを何も知らない。 今ここを離れることは、無知ゆえの愚かな行為だ。 (やっぱり・・折角だからライたちにいろいろ聞いた方が・・) 思い直し、振り返るリント。 だが悲しきかな。3人がリントのことを気にかけるはずがない。 これだけの人数の中で。 (やっぱりだめか・・) 用心棒に斬られた脇腹だけでなく、胃もキリキリ痛むリントなのであった。 やがて、そんな現状が打破されることになった。 ライ達と、応援の人ゴミが、クラシックな町の出入口とおぼしき場所まで移動して来た時だ。 「わ・・どうしよう、ひどいよ・・」 と、ミノルに言わせたものがあった。 出入口の両サイドにそびえるガケの上から落ちたらしい、道幅いっぱいの巨岩。 「ついに落ちやがったか・・」 「ああ・・ライさま達の道をふさぐなんて・・」 「おい! さっさとどかすぞ!」 人々の声が交錯し、先刻までと違った騒々しさを呈する。 「あっちゃあ・・あたい達の魔法を束にしてぶつけても、どかせそうにないよぉ・・」 (・・まほう?) レインのつぶやきに、妙な感覚をリントは抱いた。 (まほう・・魔法・・そうだ、確か・・) ・・いや、それよりともかく。 今、ライ達に話し掛けられなければ、もう機会はない。 そんな直感に動かされ、彼女はライに声をかける。 「ねぇ・・壊せないの?」 「うーん・・少し時間がかかりそうだよねぇ・・」 「わたしに、やらせてくれる?」 「!?」 ライとレインがさっと引いた。 「壊せる? おねえちゃん?」 と、ミノル。 「だいじょうぶ・・多分」 言って、リントはモンスターボールを取った。 「パルス!」 じしゃくポケモン・コイル。 岩(地面)相手に、電気ポケモン。 『バカだ・・』場にいた人の一部は、そう思ったに違いない。 「リント・・ホント?」 「わたしは本気だよ・・で、これをこうして・っと」 素早い手つきで、岩に何かをセットし、そこから2本の線を引く。 「リント印の即席起爆装置、完成!」 「単語が意味不明だよ・・」 「ん・・とにかく物陰に隠れてください、皆さん!」 人々が身を隠したのを確認し、リントは、引っ張ってきた2本の線・・ケーブルを、コイルに渡した。 「パルス、起爆!」 どぉん! ライ達も、人々も、開いた口がふさがらなかった。 ――いや、だってボクらの2倍くらいの岩が、木っ端微塵だし―― 「おねーちゃん、すごいすごい! それ、なんていう魔法!?」 ミノルが真っ先に沈黙を破った。 「魔法・・じゃないよ。機械の力」 「機械・・かぁ。よくわかんないや」 ライは空を仰ぐ。 「やっぱりリント、違う世界から来たんだね?」 「うん・・そうみたいだね」 周囲の驚きを見て、リントもそう確信せざるを得ない。 「『魔法の民』ネバーランドじゃない世界の人・・かぁ・・」 「へー、それじゃあおねーちゃん、魔法できるの!? 僕、あのね、おねーゃんの魔法が見てみたいなぁ♪」 「え・・」 リントは後で聞いたことだが、ネバーランドの人間は『魔法の民』という別名があるらしい。 だからミノルが、ネバーランドの民でないから、魔法ができるのか・・という質問をしたわけだが、これは子供ならではのものだろう。 レインやライのように、もう少し年齢が上がれば、その分感性を失ってしまう。 自分達が魔法ができる=リントもできて当然・・という方程式が頭の中に出来上がってしまう。 実際には、この方程式は通用しない。 「わたしは・・できない」 「ゑ!?」 「エ!?」 2人の目が、みたび点になる。 「へぇー、めずらしいなぁー!」 ミノルの感性の勝利だ。 「あ、でもっ」 慌ててリントは言葉をつないだ。 「魔法がどんなものかってことは、だいたい知ってる! 炎、水、雷、風、土・・の5つの力があって、それを自由に使うことができて・・」 「ヴー」 レインが手でバツを示した。 複雑な発音とともにだ。 「んー・・確かにその5つの力で合ってるけど、あたいらネバランの民が扱えるのは、たいていその中の1つの力だけよん。あたいは水」 「え・・?」 「遺伝とかとは関係なく決まるらしいんだ。2つ以上の力を使いこなせる人だってそういないのに、5つ自在なんて無茶だと思うよ・・で、ボクも水だよ」 「僕は風だよ、おねーちゃん☆」 「・・ひとつ・・だけ?」 ひとつだけ。 リントの知識とは、それは大きくかけ離れた答えだった。 (じゃあ・・ミーミルさんって・・)    続    あとがき またKのキャラ(リント)が目立って! なんて声が聞こえそうです、あはは(ヲイ) リントの出番は、序盤と終盤に二極化してます。 他のキャラは、違う見せ場構造してますから、気長に待ってて下さい。 例えばレインは、終盤になればなるほど見せ場が多く・・ ではではっ。    次回予告 リントの力に助けられ、ついにライ達は旅立つ。 ウィッシュスターの冒険が始まった。 第4話「Wish(仮)」