「あああああぁぁぁぁぁ!」 「きゃああああああっ!」 「ひ〜〜〜〜〜〜〜ん!」 キノコ岩を出発してしばらく後、一行は早速災難に見舞われていた。 凶暴な野生のサイドンに目をつけられ、追われているのだ。 「レイン! 飛ぶのズルイ!」 「いたいいたい! だからってハネ引っ張るな〜〜〜〜!」 「おねーちゃん! 走って!」 「むり・・」 知らずサイドンに追い詰められ、次第にガケ際に後退していく4人。 そして、遠くでそれを見つめる謎の少女・・ 最悪のタイミングでダメージと疲労が爆発し、その場に崩れるリント。 「リントーーーッ!」 同時にライがボールを取る。 「レイナ!」 フラワーポケモン・キレイハナ。最高のパートナーポケモン。 ・・と、その時であった。 「凍てつく大気の刃よ、我が僕となりて降り注げ・・」 誰かの・・声。魔法詠唱。 彼らの旅は、この時狂わされた。    POKE IN ONLINE2 #5    「FATE to FATE」 場に冷たい疾風が吹き抜け、次の瞬間、サイドンの足元は凍りついた。 「水の魔法・・!」 つぶやくレイン。 確かに、水の魔法能力のひとつに、氷を操るというカテゴリーもある。 「けど・・これだけの出力なんて・・」 少なくとも、ライ達の常識の範囲ではないレベルの冷気魔法だった。 ライ、レインならば、同じ冷気を操っても、ポケモンの技でいうところの『こなゆき』頑張ってみて『こごえるかぜ』がせいぜいなのに。 ――信じられなかった。圧倒的で、目を疑うっていうのかな・・そんな感じ―― やがて、1人の少女が4人の前に現れた。 青く長い髪に、淡いグリーンのワンピースを着た少女。 「1つ、貸し・・だね」 すごく透明感のある声。 「き・・キミは?」 ライの声も、うわずっている。 が、彼女自身は無表情のまま。 「・・ドラグーンの末裔。名前はミト」 言って、少女ミトは、ゆっくりサイドンを見据える。 下半身を氷付けにされた相手は、腕を滅茶苦茶に振り回して抵抗しているが、それに全く動じずに。 「厳寒に浮かぶ星々・・」 魔法を集める言葉の力・・呪文。 サイドンに向けてかざした右手に、青い光が集束。 「・・さっきのヤツの何倍も大きい魔法だ!」 同じ水使いであるライ、レインには分かるのだろう。彼女に集まる魔力の大きさが。 「哀れなる者のもとに集いて制裁を下せよ!」 詠唱完了。 振り抜かれる右手。 そして、それはまたもや一瞬の出来事。 「うそ・・」 足元などという小さな範囲ではない。 サイドンそのものが完全に凍り付いている。 「一般相手用自己流攻撃魔法・最上級『ブリザガ』」 ミトは満足げに天を仰いだ。 ――あのでっかいサイドンが、一瞬で氷の彫刻になるって・・信じられないよね―― 「バイバイ」 ミトが指をパチンと鳴らすと同時に、サイドンの氷像は音を立て、粉々に砕け散った。 サイドンだったものは、ほどなく緑色の光と化して大気中に消え、あとには散乱する氷の塊だけが残る。 ・・ライもレインも、ミノルもリントも、言葉が出なかった。 「珍しくないよ。ただのフェイト分解。 ポケモンの身体を構成する力『フェイト』に分解しただけ」 「ま・・待って!」 背を向け、立ち去ろうとするミトに、ライは叫ぶ。 「かわいそうだよ、何も殺すことはなかったと思う」 「かわいそう・・? そうだね・・」 そのまま、ミトは場を去って行った。 「かわいそうだから、こうしている・・のかな?」 【トラベラーサイト〜レインフォート街道  レインフォートまであと少しの地点】 「わかんない・・わたし、何もわからない・・」 と、リント。 「そう言われても・・」 「あのミトっての、あたいらにもよくわかんないや・・」 分からないのは、リントだけではない。 少女ミトの言動は、ネバーランド出身である彼らにも解せない。 「でも・・ミトの魔力・・あれはほんの一部だってわかる。感じる」 「本気を出せば、小さい町のひとつくらい氷付けにできそうな・・」 想像してしまったのだろう、ミノルの顔がさーっと青ざめる。 「ま・・まあまあ、そう青くならないで、忘れよう! さあ、この坂を登りきれば、レインフォートが見渡せるよ!」 (こういう時、ムードを回復させるのはライの仕事なんだ・・) リントの知識が1上がった。 120→121。 「だねっ! じゃ、リント歩ける?」 「うん・・歩ける・・」 ようやく、目的地レインフォート! 4人の気持ちも自然と弾む。 すぐに、ライが真っ先に坂を登りきった。 「この坂の上って・・」 「ああ、ここはねぇ、レインフォートの全景が見渡せるグッドなスポットなのよ〜ん☆」 「ライにーちゃん、レインフォート見えるぅ?」 「あ・・ああ・・見えるよ・・」 なぜかライの声は震えていた。 「どーしたのよ、声が震えて・・」 次に登りきったレインもまた、大きくのけぞった。 (何・・何なの?) リントとミノルも到着し、そこからの眺めを見てみる。 ・・なるほど。 美しい湖の上に建てた水上都市レインフォート。 その、北部というべき部分一帯が、氷付けになっているのだ。 「・・」 ミノルも口あんぐりだ。 ――レインフォートの半分が氷付け・・なんて、考えられる?―― 「ミト・・」 「・・ねーちゃんの・・」 「仕業・・」 「だよ・・ね」 ライ、ミノル、リント、レインの順に一列横並びで、呆然と言葉を交わす一行。 ふと気がつくと、ミノルとリントの間に、見知らぬ少年が混ざり込んでいた。 「で、お前らミトに会ったのか?」 「うわっ!?」 「だ・・だれ!?」 少し長めの黒髪に、暗い色の服を着た、14、5歳くらいの少年。 「ああ・・自己紹介してなかったな。オレはリオン。ミトの兄だ」    続    あとがき かあらさんのリオン。そして、設定当初は弟だったはずの、妹ミト初登場〜! でした。 リオンの方の出番はかなり微妙でしたが(爆) 今回は、これから重要になってくるかも知れない用語『フェイト』をチェックです。 あとは、感情の起伏がないミトの外面とか。 さりげにミトは、自分の魔法に『ブリザド系』の名前をつけているようですね(笑) ではではっ。          次回予告 竜の民リオンの口から語られる秘密。 ミトのこと、そして・・ 第6話「竜の民として(仮)」