氷付け事件のせいもあってか・・というか、もろに氷付け事件のおかげで、レインフォート・ポケモンセンターに訪れる人々は、みな一様に慌ただしい様子を見せていた。 「これが・・ポケモンセンター・・!?」 もちろんウィッシュスター3人組、リント、ライの5人も、その一部ではある。 「混んでるなぁ〜・・」 「だねぇ」 「ここが・・ポケモンセンター?」 リントの知るポケモンセンターとは、構造上の大きな違いがあった。 回復装置も自動ドアも・・そう、機械のたぐいが存在しない。 レインの家にもあった、魔法で球形になった水の中で、モンスターボール・・ポケモンが癒される場所。 宿泊施設もなく、どちらかというと、住民の集う場といったイメージが強かった。 「町、氷付けかぁ・・。公演、しばらく先になりそうだね」 「公演?」 ライがもらした言葉に、謎の少年・リオンは分かりやすく反応した。 「そうだけど・・?」 「なるほど・・お前達、ウィッシュスターのメンバーか」    POKE IN ONLINE2 #6    「変わらない世界、異質な存在」 恐らくリオンは、リントもウィッシュスターのメンバーと見なしていただろうが、それは置いておく。 「オレは・・なんだかいただけないんだよな・・その踊り」 いきなりのリオンの言葉。 町と同様、場に見えない冷気が渦巻き始める。 「ちょい待ってよ! それって・・」 「待ってレイン」 早速食ってかかるレインを制し、リオンを見つめるライ。 強い・・意思の瞳だ。 「それはボクの舞いが未熟だからだよ・・。師匠の舞いはバカにしないでくれよ・・」 おだやかな口調。 しかし、その裏に秘められた感情を、読み取ったのだろう。 リオンは素直に頭を下げた。 「ああ・・悪かった。これはあくまでオレ個人の考え。気にしないでくれ。 ・・でも、踊りを見ても生活がラクになりはしない。本当だぜ」 「うん・・でも、ボクたちは・・」 「みんなに希望をあげたい。そして前へ進んでほしい・・それがウィッシュスターだヨ」 言い合うリオン、ライ、レイン。 互いの腹を探るようなミノル。 全く入っていく余地のないリント。 『踊りを見ても生活はラクにならない』 リオンの声が、胸の中にこだまする。 (わたし達がまず必要なのは・・生きる為のもの・・) 「あぁ〜ら! そこのキミ、ケガひどいじゃな〜い!」 不意にポケセンのお姉さんに声をかけられ、リントはふと我に帰った。 「ほらほら、ポケモンとまとめて回復してあげるわ! こっち!」 ずるずるずる・・ 「え? えっえっ!? ポケモンと一緒って・・ええぇ〜!?!?」 「おねーちゃん、がんばれ〜♪」 【同日夜 レインフォートホテル5F 客室・テラス】 「ネバーランド・・知らないことだらけ。ミーミルさん・・あなたは・・ここの人・・」 1人テラスに佇んで、星空を見上げるリント。 星が美しい夜だった。 初めて見るネバーランドの星空には、見たこともない星座がいくつもあった。 「わぁ! あの10個をつなぐと『☆』の形だ!」 星座を探してはしゃぐ彼女は、まるで童女のよう。 「きれい・・。そっか、空気がキレイだからだね」 「うん・・そうだね」 と、背後から声が飛んだ。 ライだ。 「あ・・ライ」 「ネバーランドは変わらない世界。この空気も星空も、永遠・・ってわけだね」 てくてくと歩み寄り、ライはリントの隣にやって来る。 「ねぇ、隣、いい?」 「うん」 「ありがとう。じゃあ、質問いいかな?」 「・・うん」 「あのさ、ここに来る前、リントはレギスタンで何してたの?」 「・・それは・・」 直後ライは気付いた。 リントの反応からして、この質問は彼女にとってタブーであった。 「それは・・」 視線を落とし、小さな声で答えるリント。 「人を・・殺そうとしてた・・」 「!?」 「ティール・システムズ社長、タカマサ。わたしの両親をむごたらしく殺した男・・ッ! わたしの・・」 ――声、震えてた。辛くて、悔しいことだったんだって、すぐにわかった―― 「・・ごめんよ・・」 「いいよ・・ライ、悪気があったわけじゃないから」 「でも・・」 ――でも、この時リントには、ひとつ黙っていたことがあったんだっけなぁ―― 「相討ちでもいいの! タカマサをこの手で・・!」 ――ティール・システムズって名前で、タカマサって人が社長やってる会社は・・ネバーランドにもあるって―― どうしても、ライは話せなかった。 タカマサという男が社長の、ティール・システムズ。 それは、レギスタンのそれとの関係の有無はともあれ、ここネバーランドにも存在する企業ということを。 ――教えたくなかった。できればリントには知って欲しくなかった―― リントは自分の生命と引き換えにでも、タカマサとやらを殺す覚悟を決めている。 ――だって・・行ったらリントは死ぬんだ・・死ぬ気だ―― イヤだ。 ――イヤだ。心のどこかでそう思った―― 「ねぇリント、もう1つ質問いいかな?」 これ以上リントに、両親のこと、タカマサのことを喋らせるのは、まるで『くろいまなざし』→『どくどく』、いや『くろいまなざし』→『どくどく』→『そらをとぶ』→『まもる』→『そらをとぶ』→以下エンドレス・・のようにひどいことだと思ったからだ 「さっき言ってた、ミーミルさんって?」 「うん・・2年前わたしのスラムに来たジャーナリストの人。魔法の世界から来たって言ってた。きっと、ここだね」 「ネバーランドから!?」 ――ネバーランドと、リントの世界。どこかでつながってる。決定的だったね―― 「優しい人だった。5つの力の魔法を見せてくれた。 大人たちは気味悪がって、あまりいい顔はしなかったけど・・でも、わたしと・・もう1人、イルっていう人は、ミーミルさん好きだったよ」 「へぇ・・5つ全部の力を扱える人が本当に・・?」 「特にイルは、自分の剣に魔法をかけてもらったりして、すごく仲良くなって・・。でも・・」 リントの声が急に落ちた。 「死んじゃった。ううん・・殺されちゃった」 「・・」 「大人たちに。 みんな怖かったんだよ・・自分たちと違う存在が・・わたし、分かるよ・・」 「リント・・」 「イルは・・悲しかったし、怒った。スラムを半分消し飛ばして、それからどこかへ行っちゃった。 そんな感じ。だからわたし、みんなが5つの魔法ができるって思ってたの」 「そうなんだ・・」 続ける言葉が出ないライ。当然といえば、そうであるが。 「人は、自分達と異なるモノを恐れるんだ。リントの世界も変わらないね・・」 「うん・・そだね・・」 と、その時であった。 「ね〜〜ぇ、2人してデート中??」 唐突にレインとミノルが登場したのだ。 「デ・・デートッ!?」 「ボ・・ボクたちは・・その・・」 「僕は、お似合いだと思うよ」 ボソッと放たれたミノルの一言で、2人の顔はたちまち真っ赤に。 もしや・・わざとだろうか。 いや、確信犯だ。 「あのねー、リオンが来たのよ〜」 「えっ!? リオンが?」 「うん、ミトねーちゃんについてだって」    続    あとがき 今回は、ポケラインシリーズでは非常に珍しい、カップル2人きりの長時間の会話シーンがありました! 別に、カップリング根性100%というわけでもないですよ。 リントの事情を、そろそろネバランサイドの誰か1人でも知っておいた方がいいと思いまして。 さて、次回はややダークかもです。 ではではっ。        次回予告 リオンに案内された場所。 そこは、悲劇の中心地であった。 第7話「正当防衛(仮)」