――信じられない光景が、目の前に広がっていた―― 一行は、その光景を、ただ呆然と見つめていた。 満月の下。 凍りついた町の中心で。 3人の少年が、もの言う間もなく・・死んだ。 先に手を出したのは相手だった。 魔法とポケモンで襲い掛かって。 その時リントの手が動いた。 急角度の握りがついた、小さな筒のようなもの・・ 銃。 それが3度音を立て、場は鮮血に染まった。 静かに惨劇を見つめるは、永久氷壁に封じられた別の少年達。 「ごめんね。ヒトは、自分が生きる為なら、いくらでも他人を殺せるんだよ・・」    POKE IN ONLINE2 #7    「Outsider」 事件の少し前。 一行はリオンに先導され、凍った町の、暗い裏通りを進んでいた。 「ね〜〜、リオン! どこまで行くのさ〜〜〜〜〜!?」 「見せるモノがあるんだよ」 黙々と歩くリオン。 どうも彼の意図がわからない。 「わたし・・帰れるのかな・・」 「おねーちゃんの・・世界?」 リントの独り言を、ミノルが聞きつける。 「・・おねーちゃん、違う世界から来たんでしょ?」 「・・ライとレインから聞いたんだね」 「うん。どんな場所?」 「いい所と悪い所、どっちから聞きたい?」 「う・・僕、いい所だけでいいよ・・」 「そうだね・・」 リントは夜空を仰いだ。 ――星がきらめく夜、キミはいつでも空を見ていたね。綺麗で・・少し悲しい目で―ー 「大きな町。ここの何倍・・何十倍かな? どこでもいつでも、お店と人であふれてて・・夜になっても、いつでも明るくて・・ キャンディーカフェ『クラブ・オーバル』! あそこのキャンディー・・すごくおいしくて・・お金をためて、たまに買って食べるの・・」 ミノルの目が光った。 「おねーちゃんっ!!!!!」 「な・・なに!?」 「それ・・僕も食べたいよ」 「わ・・わかった。買ってあげるよ・・今度ね」 「わーい♪」 「あ・・あはは・・」 終始、ミノルに引っ張られるリントなのであった。 「ゼッタイだよ」 「うん・・」 「あ〜〜! そこ! このレインちゃんを差し置いて、そーいう話をしな〜い!」 ――笑いながら、リントは何を考えていたんだろう? つらかったのかな・・どうだったんだろ―― リントの境遇を先刻知ったばかりのライは、彼女の心境を言い出すことができない。 ――とても・・レインとミノルに喋れなかった・・―― 「ここだ」 やがて、リオンが足を止めた。 「ここ?」 レインフォート氷結の中心地と思われる場所であった。 ひとつの巨大な氷の柱から、円状に氷のクリスタルが形成されている。 どれだけの冷気が、その時吹き抜けたのだろう。 空気中には、ダイアモンドダストがキラキラと舞っていた。 (※ダイアモンドダスト・・酷寒時に、空気中の水分が、キラキラと輝いて浮かぶ現象) 「さむぃよぅ〜・・」 自分の肩を抱いて、ゲーム機の振動装置もビックリの速度で震えるレイン。 「・・温度計の下限、ふっきれてるよ・・」 ミノルが見ている温度計は、一体どこから持ち出したのだろうか。 普通の少年が携帯するアイテムとして、温度計は考えにくいが。 「見るんだ、あれを」 言って、リオンは、中心の氷柱を指す。 「『あれ』?」 「・・って・・」 「げっ!」 「うわっ!?」 「いや・・っ・・」 見た者のうち数名は、思わず視線をそらした。 ――だって・・人だもん。氷付けの―ー 氷の中に、人が3人。 ライやリオンより、少し年若い少年達。 いずれも、この世のものとは思えないすさまじい形相で。 「奴らごと、ミトは町の一角を凍らせた。ドラグーンの民だけが持つ、この凄まじい魔力でな」 リオンの声が静かに響く。 「『魔女』・・こいつらには、ミトはそう呼ばれていたようだな・・」 ――魔女・・つまりは『異質な存在』?―― 「遺伝子の悪戯か。ミトはあの、非科学的な青い髪を持った。その上、オレ達には『翼』がある。 だから、オレ達兄妹は、迫害と追放、放浪の中で育った」 淡々と、感情を殺した声で語るリオン。 ライは、その中のリントの影を見たような気がした。 「リオン・・」 「・・ここ何年かは、いい感じになって来てたんだぜ? 旅して、働いて、稼いで・・生きてきて・・ けど、ミト・・この町で、こいつらに目、つけられたよ・・」 「『いじめ』・・ってヤツ・・?」 「髪、青いってだけで・・・・クソッ!!」 リオンに殴りつけられた氷のカベが、ピシッと鋭い音を立て、ヒビを生む。 こんな時、リオンに何と言えばいい? 一行の頭の中に浮かんだ言葉は、いずれも発されることなく、巡り続ける。 「ミトが奴らにどういう事されたのか・・それは分からない・・ けど・・オレは妹を守れなかった! ・・アイツ・・キレちまったんだな・・」 「リオン・・リオンは悪くない。ミトさんも悪くないよ。 悪いのは・・こいつら」 同じような境遇で育ったからか、どこか重みのあるリントの言葉。 「ありがとよ・・でも・・ミトがここからどっかへ行ったとなると・・ ・・ポケモンが危ない」 「えっ?」 ――『ポケモンが危ない』って。人ごとだった事件が、いきなりボク達にのしかかって来た―― 刹那。 「そこまでだ! ここで死ね!」 「ミトの仲間だな!」 「これ以上、兄キ達を痛めつける気か!?」 背後から少年のような複数の声。 同時に、ミノルの身体が、火花を散らし飛んだ。 炎の魔法。 「!!」 意識を失ったミノルを協力して受け止め、ライとレインは水の治療を施し、向き直る。 氷付けの3人と同年代ほどの少年が、さらに3人立っている。 血走った、異常な目つきでこちらを睨みながら。 「ミトの仲間め・・今度はオレ達をやるつもりだろ・・!」 「やられる前に、やってやる!」 それは、一種の狂気だったのかも知れない。 彼らは完全に、一行を『自分達に危害を及ぼす、ミトの仲間』と認識していたのだ。 「ま・・待ってよ・・」 「るっせェ!」 「痛・・ッ!」 弁明しようとしたライに突き刺さる、風の矢。 「殺されてたまるか・・! オレは兄貴達のようにはなりたくない!」 「死ねェェェェェェ!」 魔法弾とモンスターボールを振りかぶり、ライ達の生命活動を止めるべく襲い掛かる3人組。 この時、少なくともリントは、ある判断をしたのだ。 『シニタクナイノハ・・ワタシタチダッテオナジダヨ』 銃声が3度、夜の街に舞った。 氷に音を反射させ、不思議な共鳴音を発しながら。 額を撃ち抜かれた3人組は、もの言う間もなく倒れ、永遠に動くことはなかった。 出しかけたモンスターボールが、掌から転がり落ちる。 「リ・・リント・・?」 動かぬ少年の骸をただ見つめ、銃を握った少女は、平然と立っていた。 「ごめんね。ヒトは、自分が生きる為なら、いくらでも他人を殺せるんだよ・・」    続    あとがき 恐らく、過去最高クラスにダークですね(汗) 微妙ですが、今回の話はポケモンに関わっています。 さて、カーム、サキ、チェリーの登場も、近いかも知れませんね。 あとはイルとリー。 そして、タカマサと虚焔とゼロス・・ さぁ、これからの展開を乞うご期待(核爆) ではではっ。    次回予告 人を殺すことがなぜいけないのか。 それは、育った環境の決定的な差。 第8話「相違(仮)」