あまりにも、残虐な光景。 「おまえ・・いくらなんでも・・ッ!」 リオンが叫んだ。 「殺せなければ・・今まで生きて来れなかった・・」 虚ろな目で、空の一点を見つめながらつぶやくリント。 「・・あ・・ああ・・」 ライ、レイン、ミノルは、言葉すら出なかった。 「レギスタンのスラム。 そこでは、生きる意志がなければ、わたし達の生命なんて、3日ともたずにかき消されてしまう・・」 リントは、自分のモンスターボールを出してみせる。 「この子達の為にも! 敵討ちの為にも! わたし、死にたくない! ・・もう・・もう、人の死を見ることに・・慣れすぎちゃった・・」 「こらっ、お前達!」 「こんな夜中に、そこで何をしている!」 駆けつけた2人の警官の声と、リントの言葉の最後が重なった。    POKE IN ONLINE2 #8    「いつか終わる夢 〜序章」 「うっ・・これはッ!」 「お前達・・殺したな!」 「勘違いしないで!!」 声を張り上げ、リントは警官を睨みつける。 「こいつら3人を殺したのは、わたしよ。 こっちの4人も、これから同じようにしてあげようとしてた所・・ ウフフ・・わたし、血、好きでね・・あはは・・あはははッ!」 ――嘘・・だったよね。それは、リントの優しい嘘―― 彼女の冷たい、冷たい瞳に、知らず後退する、2人の警官。 「・・みんな、今日1日だけだったけど・・・・ありがとう」 小さく言って、直後、リントは走り出した。 ライ達の反対側にある、町の西口めざして。 「さぁ、ゲームの始まりよ! わたしを捕まえてごらんなさい! アーーッハッハッハッ・・」 「あ・・あの娘・・!」 「追うぞ!」 リントが、続いて数秒遅れ、警官が。 立ち尽くすライ達の横を通り過ぎていく。 「あたいらを・・かばった・・?」 ――みんな、自分で引き受けて―― ようやくレインが口を開く事が出来た時、すでに視界に3人の姿は無かった。 星の輝く夜に、冷たい風だけが叩きつけられ・・ 「なんで・・」 「・・ライ?」 「どうして・・ッ・・」 「・・ライにーちゃん?」 「・・リント、ネバーランドのこと、何も知らないのにさぁ!!」 瞬時のできごとだった。 叫び、ライが、リントを追って駆け出したのは。 ――何かに、突き動かされて。不思議だよね。出会ったばかりの女の子だったのにね―― こういうのは、理屈じゃない。 身体が止まらない。 自分がお人よしなことなど、ライはしっかり知っている。 けれど、何故リントを追う? ――この気持ちは・・何だったんだろうね―― 彼女が、自分達を濡れ衣から守ろうとしてくれたから? あの子の決意を、知っているから? 寒空に、満点の星が輝く夜だった。 【レインフォート西口/すぐ外の森】 「これは・・」 「うっ・・」 ライ、リオン、レイン。 そして、目を覚ましたミノル。 4人共、それを見て目をそらした。 何てことはない。先刻の警官2人だ。 ――ただし、死体―― 痛みを感じる間もなく息絶えただろう。 足元に転がる、2つの『ヒトだったもの』・・ 「お・・ねーちゃんが・・?」 「99.99%な」 魔法の炎で足元を照らし、冷静にリオンが答える。 「リントの言う事、オレは分かるけど・・お?」 セリフを切って、彼は死体の手から、あるモノを取った。 「こいつは・・」 「あ〜〜っ!」 「それって!」 「あ・・!」 同時に発される、一同の驚きの声。 ・・赤い、バンダナ。 リントを『かっこよく』演出するアイテム。 ――ボクには・・死んでいく生命の・・最後の炎に見えた―― 「リントのだ・・」 「・・ッ!!」 くずおれ、ライが両手で地面を叩く。 「リントは・・この世界のこと、何にも知らないのに・・! 助けてあげないといけないのに! それなのにボクは・・」 「待ってよ!」 ライを遮る声の主は、レイン。 「あたいにだってそれは同じだよッ!  それなのに・・なんでライ・・1人だけ後悔するなんて、ズルイよ!」 上空に、最近増えたという、野生のコイルが舞っていた。 幻想的な光に包まれ、何匹も。 子供の頃読んだ本の中の光景・・蛍の幻想のよう。 「いろいろ面倒見るよって・・あたい約束したんだよ!?」 コイルの群れに向けたかのような、悲痛な叫び。 ――そう・・コイルは、リントのポケモンの1匹だったね―― 「ねぇ・・2人共、変だよ」 「オイ・・お前ら、おかしいぞ」 ミノルとリオンが、その言葉を重ねた。 「何で・・どうして、もうおねーちゃんのこと、あきらめムードなのさぁっ!」 「過去形にするのは、まだ早いんじゃないか?」 「・・!!」 ライとレインにとって、この一言はどう響いただろう。 『目からウロコ』 ありがちな表現をすると、そうなるだろうか。 「どうして・・どうしてそんな簡単に、終わったなんて信じられるのさぁッ!!」 ミノルが声を荒げる。珍しい。 「僕は・・信じたくないよ!」 ――ミノルはね・・昔、相棒のイーブイを何者かに殺されたんだ。だから・・なんだろうね。きっと―― 「だから!」 ビシッと向き直るミノル。 「みんなにも、おねーちゃんを探すの、手伝って欲しいなぁ」 いちなり甘え口調になるのは、いかにもミノルらしい。 先刻リントにキャンディーをねだった時と同じ、母性本能をくすぐる甘い声だ。 ――ミノルだって・・あれは、生きる為の手段なんだ。孤児であるミノルの・・さ―― 「ファル!」 ミノルはブースターを繰り出した。 「おねーちゃんを探そうよ!」 炎が、リオンのそれと合わさり、より広範囲の明かりを生み出す。 結果、地面に、ひとつづきの足跡が現れた。 「リントの!」 「・・行こう!」 「うんっ!」 森の、奥の方へ続いている。 コイル達の生み出すホログラフ。 虫ポケモン達の鳴き声。 それに混ざって、水の流れる音が、かすかに聞こえていた。 「リント・・1人で行かせないからね!」 バンダナを握りしめ、ライは3人の後に続いて行った。 ――そういえば、レインフォートは湖上の町。湖の水は川になって、どこかに流れてるんだよね―― 生命を育む水は、時にその生命に、自ら裁きを下す。    続    あとがき ポケライン2症候群にやられてるKがお送りする、#8でした(汗) 今回は、情景と心理とセリフの対応がありましたね。 ・・そうそう、#2以降、文中多々ある『――○○――』となっている1行のメッセージは、ライがこの時の心境を、回想として語っているものです。 名づけて『回想メッセージ』(笑) ポケライン2の打ち上げ人気投票では『回想メッセージ部門』も新設する予定でいます。 ではではっ。 レス待ってます☆    次回予告 リントが転落? 焦る一行。 そこに現れる、獣人の少年。 第9話「精霊の守り人カーム(仮)」