かくして一行は、リオンサイド湖から流れる川・・森の真ん中を突っ切る『レインリバー』へやって来た。 10メートル程の、切り立ったガケの下を流れる急流。 それも、今まで茂みをかきわけて来たと思ったら、いきなりだ。 水の音から、川が近いとは分かるだろうが、この夜の闇、走っていたとすれば、足を踏み外して初めて、ここに川があったと気付くだろう。 「まさか・・」 ひたすら、大きな歩幅で(走っていた?)森を進んでいた、リントのものと思われる足跡は・・そんな場所で切れていた。 「リ・・ント?」 これらの状況から、最も早く考え付く可能性は何だろうか。 恐らく、聞くまでもない。 「・・落ちた!!?」 4人の顔が、一気に青ざめた。    POKE IN ONLINE2 #9    「Wheel of Fortune」 ――リント! って叫んだよ。だけどさ・・返事、ないんだ・・―― 【実はこの時、ライ達の頭上の大木では・・】 「ん・・ぐっ! んーーーーーーーーーーーーっ!!」 黒いローブの男が、リントの口と両手を封じ、下を見下ろしている。 「おっと・・追いついて来ちゃいましたよ、お友達が」 うわべだけ愛想のよい、冷たい声。 「ん・・ぐっ!」 「おっと」 自由のきかない手で、リントは銃を取り出す。 が、刹那、男の魔法に弾き落とされた。 「いいですかっ!?」 リントの目前に、バッと顔を持ってくる男。 「ん〜〜〜〜〜〜〜!?!?!?!?!?」 怖い。 「キミをもう逃がすわけにはいきませんよ! なぜならリント・・」 男の生み出した、闇色の魔法光がリントを包むと、フッと眠るように、その場にリントがくずおれる。 「なぜなら・・キミは、大事なプロトタイプですから・・」 (わたし・・が・・プロ・・ト・・?) 意識がブラックアウトする直前、リントはかすかにその言葉を聞いた。 視界に、野生のコイル達が舞っていた。 ゴスッ! 「ぎゃあ!」 鈍い音と共に、ライの頭に、固いものが直撃した。 「いたいよ〜・・」 「なにぃ?」 いかにもマンガ的で非常識なタンコブをさすり、落ちてきた何かを確認するライ達。 見ればそれは・・ 「これって・・」 先刻、リントが人殺しに使っていた道具・・銃ではないか! 「リントの!」 「ってことは・・」 全員の視線が上へ。 「おねーーーちゃあーーーーーーん!」 「リントォーーーーーーーーーーー!」 「返事して〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!」 「おーーい!」 そして、全員の声が飛ぶ・・ が、返事はない。 「リントってばぁーーーーー! 聞こえてんのかワレェェーーーーーーーーーーー!」 もう1度、息をいっぱいに吸ったレインが叫んだ・・ その時だ。 フワッ! 上空から風が吹き、草木が弱くざわめいた。 「リント!?」 人間が、ゆっくりと・・重力の束縛を感じさせぬ動きで降下して来る。 リントではない。 「ふふふ・・」 黒いローブを纏い、ぐったりしたリントをかついだ、おかっぱ頭の男。 暗がりで、それ以外の特徴はわからない。 「見つけました! 見つけましたよ! プロトタイプ&タイプA!」 声のイメージは、まさしくクール系の悪役そのもの。 「リントに何をしたんだッ!」 と、ライ。 ふんわりしたライには珍しい、怒ったような声だった・・と、後のレイン達は語る。 ――もしかして、リントを狙ったティールの人かもって思った。だけどさ―― 「可愛いサンプルに、サンプルらしくなっていて欲しいだけですよ」 ニコニコ顔で、しかし冷たく、男が言う。 「サンプル・・?」 「そう。 今や『竜の民』にさえ使える者のない『アレ』を持った生命体・・ ・・と言っても、皆さんはご存知ないはずでしょう」 「アレ・・だと? まさか・・」 思い出したようにリオンがつぶやく。 「いいでしょう。教えてあげましょう。冥土の土産に・・」 「あのねぇ、冥土の土産ってのは、あげる方が先に冥土へ行くって、昔から相場は決まってるもんだよ〜?」 「うっ・・」 レインのツッコミに、知らずひるむ男。 何気にほほえましい。 「さぁ・・僕の話だけを聞きなさい・・」 瞬間、水の流れやポケモンの鳴き声、草木のざわめき・・男の声以外の音が、全てシャットアウトされた。 一体・・何者だろう。 「はるかな昔、この星を支配していたのは『ドラグーン』と呼ばれる存在でした。 絶対的な力を持った・・そう、神」 「・・オレ達の・・一族・・!」 リオンは、何かを知っているようだ・・。 「ドラグーンは、自らのしもべとして、我々人間を生み出し、同時に、自身の力を我々に分け与えた・・その力こそが、魔法の力。 しかし・・皮肉なことに、数を増した人間は、やがてその手で、ドラグーンを倒してしまうのですよ」 少なくとも、ライ、レイン、ミノルは初めて聞く、この世界の始まり。 この時点では、恐らく3人とも、リントのことはしばし忘れていた。 「ドラグーンの力を失い、それ以来、人間の魔力は次第に弱まっていきました。 ・・かつて人間が使えた魔法は、5大属性だけではなかったのですよ」 ――こいつが誰なのかとか、なぜそんな事をとかいろいろあって、あの時何を考えてたか覚えてない―― 「光。 最も上級にして、最もドラグーンに近い聖なる力・光! 僕の目的は、この現代に、光魔法を持つ存在を復活させること。 リントはそのプロトタイプなんですよ」 ――けど、リントを渡したくない! って思ってたのは覚えてるよ―― 「しかし、リントは何者かによって研究室から盗み出され・・ 僕は、もう1度作らねばならなかったのです。 その2号機・・すなわち、タイプAこそが・・」 男はパチンと指を鳴らす。 すると、気絶したリントの背中に、白く光る翼が現れた。 「僕のサンプルである証は、背中の翼」 リントの翼に共鳴するように、ある人物の背中の羽根が光り輝く。 「ねぇ、レイン」 その人物とは、まぎれもなくレインであった。 「なっ・・!?」 「あ・・あたい!?」 かすかに震え、自分を指さすレイン。 背中の羽根は、リントのそれと共鳴を続けている。 「ウ・・ウソばっか! あたいにはそんな記憶ないもんね! 親に捨てられて、優しい人に助けられて、そこを出て、ライ達と会って・・ ・・あれ!?」 レインが・・止まった。 「・・レイン?」 「ねーちゃん?」 「おい・・?」 かすかに・・などではない。 レインは震えていた。 「あ・・ あの人と暮らしてた家は・・ネバーランドのどこにあるんだろう!? あそこからトラベラー・サイトまで・・そういえば、どんな道を歩いて来たんだっけ・・!?」 「レイン、落ち着いて! 忘れちゃっただけだよ!」 「そんなわけないでしょう」 ライをぴしりと止め、男は笑う。 「レインは、生み出されてすぐに、研究室から脱走しました。 その記憶は・・いわば現実逃避の為にキミの精神が創り上げた、偽りの過去・・」 「そんな・・!」 冷たい風が、両者の間を吹き抜けていく。 ――作られた存在は、意思さえ持たずにいられたら、どんなに幸せだっただろう・・って、たまに思う―― 「冥土の土産はこの位でいいでしょう、男性諸君?」 ――けど、レインがボク達と出会えたことは、決して間違いなんかじゃなかった――    続    あとがき どうでしたか? 衝撃の#9! カーム登場が次回に先延ばしにされましたが(汗) ロックさんのゼロス初登場。 (ここまで開き直ったパクリキャラ・・もうこっちも開き直るしかないネ) ともあれ、リント&レイン、衝撃の事実発覚! ですね。 実はゼロスって少女趣味・・(やめぃ) この時点では、彼の真の目的は分かりませんね。 これからカーム、んでミト再登場・・という予定です。お楽しみに! ではではっ。            次回予告 2人の仲間を守り、戦いを繰り広げる一行。 その時、森がざわめいた・・ 第10話「飛来(仮)」