「さぁ・・」 ゆっくり男が近づき、一行との距離を詰める。 「く・・」 2、3歩後退し、ライは、後方に足場がないという事実に気がついた。 レインリバーだ。 落ちれば、今のこの状況からは逃れられるかも知れない・・だが、この川の流れは速い。 結局、死ぬのが今か少し後かの差だろう。 「プラ、レインを確保せよ。リド、邪魔者を始末せよ!」 男のモンスターボールから光が放たれる。 咆哮、そして爆音と共にこの次元に呼び出されたのは、プテラとリザードンという、凶悪極まりないポケモン。 「ひぃ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜っ!」 刹那。 「そうはいかないぜ!」 どこかの木の上から、少年のような声が。 「カーム様が助けに来たぜ!」    POKE IN ONLINE2 #10    「死線」 金髪の少年が派手に飛び降り、直後、地面と仲良くなっているのを全員確認した。 「・・キミ、何?」 「ははは・・失敗失敗」 「・・ん!?」 よくよく見れば、カームと名乗ったこの少年、まるで犬のような耳と尻尾を持っている! 亜人種だろうか。 「とにかく! 弱い者いじめは俺が許さない! 行くぞレビィ!」 ライ達があっけに取られて見ていると・・何ということだ。 「えっ!?」 「うひ!?」 「何ッ!?」 ――リントが・・浮いた!―― 気絶したままのリントが、男のもとを離れて浮遊し、すっぽりと、ライの腕の中へ収まったではないか。 「ど〜〜〜なってるの!?」 レインとミノルが、驚きの声を上げる。 「まさか・・エスパーの力ですか!?」 一瞬たじろぐ男の反応を見届け、カームは笑みを浮かべて見せた。 「そうそう、そういうこった」 いつの間にか、彼の頭の上に、緑色のポケモンがちょこんと乗っている。 「な・・何だ・・あのポケモンは!?」 と、リオン。 「セレビィだ。覚えときな!  ・・っと、それよか、ここはやばいぜ!」 カームが見上げた先にいるのは・・ そう、見るからに強そうなプテラとリザードン。 「フフフ・・僕のジャマはさせませんよ・・ 苦しまぬよう、一瞬で焼き殺してあげましょう・・」 男が右手を天にかざし、リザードンの口に白い炎が集束する。 「僕の目的であるリントとレインはすり抜け、それ以外のメンバーだけを焼く・・名づけて『せいなるほのお』!」 場の全てが、真っ白に染まった。 ――死んだかと思ったよ。でも・・ここでは死ねないよね―― 4つの翼が翻る。 「何っ!?」 『せいなるほのお』が消えた直後、すぐに男は、何が起こったのかを理解した。 「へへ〜ん! あたいは捕まらないからね〜!」 約10メートル下の、レインリバー水面ギリギリだ。 リントのそれと同調し、光まで放っているおかげか、普段と違って自由自在に飛ぶレイン。 「わ〜っ! すごいよ! これ!」 カームのオニドリルに受け止められたカーム、ライ、リント。 ミノルを受け止めたのは、レインのヤミカラス。 そして・・ 「わっ!?」 「リ・・リオン!? 何それ〜〜〜〜〜〜!?」 まるでプテラのような、巨大な翼を広げて飛ぶリオン。 彼らは下へ回避していたのだ。 「・・この翼は、人前で使いたくなかったが・・」 苦々しげにリオンがつぶやく。 「あんたなんかの言いなりにはならないからね〜だ!」 距離があること幸いに、言いたい放題のレイン。 「リントおねーちゃんは、いい人って顔だけど、お前は悪人面!」 ・・ミノル、これはひどい。 「どうせ渡しても殺されるし・・」 「リントもレインも渡さないッ!」 言って、ライがキレイハナを繰り出す。 「『みだれざき』!」 ライがいかに、ポケモンを大事に、丁寧に育ててきたかは、その技が雄弁に物語っていた。 撒き散らした光る粉が、男の周囲で急激に花となり、美しく咲きほこる。 もちろん、1枚1枚が鋭利なソーサーとなっている。 「くっ・・リド! 焼き切るんです!」 花が燃やし尽くされた時、すでにどこにも、ライ達の姿はない。 まさに芸術的。 「逃げられるとは不覚・・しかし、まぁいいでしょう・・」 男はキッと、夜空の一点を睨みつけた。 「そこですか!」 【レインの森/上空】 「あー・・びっくりしたなぁ・・もう」 「ホンっと! あーいう奴、最悪〜! あたいを・・あたいを作っただなんてッ!」 「でも、逃げられてよかったね」 男から逃れた一行は、しばし気を緩めていた。 「あんた達、何者? 見たところ、ただの旅人じゃないよなぁ?」 と、カーム。 そりゃあ確かに、こんな寒い夜にわざわざ森の中・・しかも、足元危険なレインリバーの岸にいて、しかも、怪しい男に追い詰められている旅人など、普通いないだろう。 「やっぱり・・」 カームが言いかけた。 その時だ。 「・・危ないッ!」 リオンの声が響く。 同時に、巨大な光線が、彼らの上方を通過する。 狙って撃ったものだとしたら、わざと外したようである。 「・・『はかいこうせん』!?」 飛んできた方向は森の中。 つまり・・ 「フハハハハ・・」 そう、謎の男。 「うっそ〜〜〜!」 リザードンとプテラ。 2匹の飛行ポケモンを駆り、さっそうと現れる。 「逃げるぞ! 下だ! 森へ入れ!」 怒鳴り、リオンは地面と直角に急降下を始めた。 「下に行って・・わわっ・・どうするの・・ぎゃっ! 舌かんだ!」 リオンに従って降下するヤミカラスに必死につかまり、声を張り上げるミノル。 「あの2匹はヤバイ! あの野郎に何らかの強化をされている! このまま戦っても勝てる望みは薄い!」 「ちょっとリオン! だからって下に行っても・・」 「奴の狙いはリントとレイン・・つまり、全体を巻き込む恐れのある攻撃は使えない! そして、先刻の『せいなるほのお』は・・見た感じでは、次を撃つまでには、しばらく時間がある!」 瞬時にそれだけの分析をしていたリオン。 ・・実は、相当な強者なのではなかろうか。 「つまり、相手の使用できる飛び道具はかなり制限される! もっと言えば、奴は格闘戦に持ち込まざるを得ない!」 「・・ってことは!」 カームは、リオンの作戦に気付いたようだ。 「そうだ・・レインリバーの水面スレスレを逃げる! 両岸が切り立った崖という地形上、ここで戦うより、相手の技を制限できる! そして、こちらは飛び道具で集中砲火を浴びせる! とにかく、障害物のない空では、圧倒的に不利だ! スピードもパワーも、相手の方が数倍上だ!」 レインリバーの水面が、ものすごい速さで迫ってくる・・ ――とんでもない戦いが始まった・・―― 同時刻。 レインフォートの街を、2度目の猛吹雪が襲った。    続    あとがき ポケライン2の更新でした! Kです。 今作のアクション見せ場の1つである『リバーチェイス』が始まりました! ポケラインシリーズには珍しいバトルシーンですよ。 カーム登場! ゼロスにどう立ち向かっていくのか!? 次回もたぶんハチャメチャです(爆) ではではっ。    次回予告 地形条件を活かした、決死の戦い。 その時、一行の前には・・ 第11話「レインリバーが凍った日(仮)」