垂直落下を水平飛行に変えると同時、 手を伸ばせば触れることができるほどに近い水面が、風圧を受けて水しぶきを立てる。 「戦闘終了条件は・・倒すか逃げ切るか、やられるか・・だ!」 「フッフッフッ・・分かっているじゃありませんか!」 レイン、リオン、ヤミカラス、オニドリルに数秒遅れ、リザードンと、男の乗ったプテラが水平飛行に入った。 「地形効果とは・・こしゃくな作戦を・・! このゼロス様に逆らったことを後悔させてあげましょう!」 ゼロスと名乗った男のプテラは口を開き、照準を前方に合わせる。 「『ソニックウェーブ』!」 「なんだと・・!? レインとリントを巻き込んで・・!?」 どこからか取り出した耳栓で音波を防ぎ、リオンは驚きの声を上げた。 「攻撃対象は、君達ではないのですよ」 ――アイツの不敵な笑い・・ぜったい許さないって思わせた――    POKE IN ONLINE2 #11    「リバーチェイス」 「ひぇっ!」 「げぇっ!?」 その時、一行は何を見ただろうか。 これから全速で飛び抜けようとしている前方で、両岸の岩が、派手に砕け散り、落ちてくる! このまま突っ込めば、潰されてしまう。 「ソニックウェーブ・・超音波!?」 素早くカームは察した。 「そ・・そうだ! どこかで読んだよ! 超音波は、1秒間に何万回も空気を振動させて・・て、鉄でも砕くことができるって!」 と、ミノル。 先刻舌を噛んでしまい、喋りにくそう。 「あいつの狙いは・・あたいらじゃなくて、岩・・うひっ!」 翼による飛行にまだ不慣れなレインは、一瞬水面に身体をバウンドさせてしまい、あわてて上昇する。 「止まらないと・・つぶされるよ!」 「けど・・後ろはアイツが・・」 何人かは、この時点ですぐに気付いた。 「・・しまった! 罠だ! オレ達を止める為だ!」 絶体絶命という言葉を分かりやすく表すなら、きっとこんな状況を言うのだろう。 ――ダメだと思った。けど、それは可能性を自分から否定する行為だったんだね―― 「・・突っ切るッ!」 数瞬の後、レインが意を決したように言った。 「なっ!?」 「スピード上げれば、抜けられるッ!」 「待った待ったまったマッタ!」 あくまで安全を重視し、ライは食い下がる。 「ライ・・どうせ止まれば、ライ達みんな殺されるよっ!? だったら・・突破に失敗してつぶれた方が、少しはマシじゃない?」 「・・レインは! リントはッ!? ボクらはともかく、失敗したら2人は無駄死にだよ!」 「うふふふふ・・」 何がおかしいのか。 スピードを落とすどころか逆に上げ、レインは風を全身に受けながら笑う。 「失敗するわけないジャン?」 リオン、カームもうなずいて見せた。 「なんというマネをッ・・!」 予想外の展開だったらしく、顔をしかめるゼロス。 そのまま、一行は限界速度で、正面へと飛び込む。 岩が彼らの上空に入り、月明かりが遮られた。 「こりゃ・・賭けかな」 強く、冷たく吹き付ける風を受け、すっかり鼻水が止まらないカーム。 ライからティッシュをもらって鼻をかんでいる辺り、緊張感がない。 「ぎゃああっ! おねーちゃああん!!」 「間に合わないぞ・・ッ!」 上を見たミノルとリオンが叫ぶ。 岩はもう、すぐ頭上。 「えーーーいっ! レインちゃん根性よっ!」 ――レイン・・根性でどうにかなることと、ならないことが・・―― 岩の塊がライ達を押しつぶす瞬間。 天使の翼が羽ばたき、光が飛び散った。 ――死ぬ瞬間まで希望を捨てちゃいけない・・みんなには、そう教わったなぁ―― 巨大岩に頭をかち割られる・・と思って目を閉じていたライに当たったのは、どういうわけか、大して痛くない、無数の小石の破片。 「あ・・あれ?」 背後を振り返り、岩が小石の雨に変わっているのを確認した時、その声は彼の耳に飛び込んだ。 「危機・・一髪・・だね」 「・・!」 いつの間に、自分の手の中から離れていたのだろう。 「リント!」 光の翼を広げたまま(多分本人は気付いていない)ピジョンに乗り、コイルを従えたリントが、前方に。 風を受けて、踊る髪。 バンダナをつけていない彼女は、なんだか新鮮に見えた。 「なるほど『毒を以て毒を制す』か」 「その通り!」 すぐに事態を理解するリオンに、カームは自分のエレキッドを自慢して見せた。 目を覚まし、目の前の状況を把握したリントが、コイルに超音波を放たせたのだ。 超音波によって砕かれた岩を、超音波によってさらに粉砕する。 上手い作戦と言えよう。 「おねーちゃんっ! よかったぁ・・」 「ミノル・・ごめんね・・荷物になってて」 「よっ! リント!」 ミノルとリントの会話などお構いなしに、エレキッドを頭に乗せて、リントに話し掛けるカーム。 「俺も粉砕手伝ったぜ!」 本当だろうか。 「うん・・ありがとう、知らない人」 「し・・知らない人って・・」 凍りつくカーム。 多少ショックだったらしい。 「リント〜! 気を抜くのはまだ〜〜! 後ろ見てよ〜ん!」 「うん!」 後方で追跡をするゼロスを指し、レインは叫んだ。 「行け! リュー!」 と、リオンの合図で、ゼロスの背後で光が放たれ、たちまちドラゴンポケモン・カイリューを形成する。 「な・・何ですって!?」 さすがのゼロスも驚き、バランスを崩してプテラの背中から飛ばされかけた。 「直前に、真下にボールを落としていただけさ。 次の瞬間には、お前の後ろになるからな、そこは。 さて、反撃させてもらうぜ」 カイリューの大技『はかいこうせん』が放たれ、対応が遅れたリザードンを綺麗にとらえる。 「やった!」 「いいぞ、リオン!」 ・・だが、喜びはつかの間。 「キミ、生意気ですよ?」 リザードンは、それ程ダメージを受けてはいない。 ゼロスの低い声と相まり、リオンをわずかに怯ませた。 「この地形を利用して技を制限。こちらと同じ攻撃を使ってピンチを脱出・・本当に、がんばりましたね。 しかし・・」 言って、前方を指すゼロス。 「リバーチェイスは、ここまでのようです」 ――200メートルほど前方を見た瞬間、リント以外のみんなが顔をくもらせた―― 「うそぉっ!!?」 ・・そう。 崖は終わりだった。 これまで両サイドが崖だったレインリバーは、その地点・・森の出口を境に、ただの平原を流れる川となっている。 ・・崖がなくなる。 「レインリバーは、森を流れる距離、短いんだよォ!」 知らなかったの!? というように声を上げるミノル。 森を抜けるまで、リオンやカームがゼロスを倒してくれるのだと信じていたのだろう。 「・・仕方ない! 崖がなければ、上の方がまだマシだ!」 「・・うん!」 結局一行は、再び夜空へ舞い上がった。 ゆっくり見ている余裕のない星空の下。 「フフフフ・・」 わざとらしく笑い、ゼロスが高度を上げて来る。 「くそっ・・!」 言いかけ、その瞬間、リオンはハッと息を飲んだ。 振り向くと、レインフォートが完全な氷付けになっていたのだから。 ――その時、青い光がきらめいた――    続    あとがき コンバンハ、Kです。 見せ場であるリバーチェイスも、ひと通り終了。 バトルシーンらしいアップテンポで書けたかは不明ですが、なかなか気合いを入れて書きました。 ここまで正統派なバトルシーンは、ポケラインシリーズでは相当レアです(笑) ポケアナ意識でやりました。 ではではっ。    次回予告 一行の前に姿を現したミト。 全員の前で語った内容とは・・? 第12話「Broken Heart(仮)」