2日目 午前6:32。 登った太陽が、リントの前にはっきりと『ソレ』を照らし出した。 シティでもひときわ目立つ、大きなレンガの建物。 そして・・ その天辺にきらめく、ティールのエンブレムを。 ――トクン、と、小さなリントの心臓の音が聞こえたような気がした―― 「みんな・・今度こそ・・さよならみたいだね・・」 「待ってヨ!」 走り出そうとしたリントの手を、咄嗟にレインが引っ張る。 「何なの!! あたいらに隠し事なんて・・隠し事なんてさぁ!」 「だって・・死ぬのはわたし1人で・・1人でいいから・・!」 ――ボク・・は――    POKE IN ONLINE2 #13    「約束だよ」 「ライ兄ちゃん・・知ってるんだね! 何もかも!」 あのミノルまでが、キッとライを見つめる。 「・・知ってるさ」 事情を知らないリオンとサキ、そして、戻って来たカームには入れない空間だった。 ――ボクは、覚悟を決めた―― 「リントは・・リントは・・!」 「いや・・いや! 言わないで!」 ――嫌がるリントの声が・・ボクの背中に突き刺さった―― 「リントの世界にも、ティール・システムズがある! そしてリントは、両親を殺されたんだ! ボク達もよく知ってる、社長のタカマサに!!」 レインとミノルが固まった。 言い切った直後、突風が、その場を駆け抜けて行った。 「偶然同じ名前とは思えない。2つの世界はどこかで・・どこかでつながってるんだ。 だから・・きっと、あそこに見えるティールが、リントの宿敵・・リントは自分が死んででも、仇を討つつもりなんだよ! 自分の生命を引き換えにしても!!」 「そんな!!」 思わず叫ぶミノル。 「僕・・僕言っちゃった・・おねーちゃんにさ・・レギスタンに連れてって! キャンディー買ってってさ! その時おねーちゃん・・笑ってたじゃんかぁ! レギスタンに帰って・・死ぬつもりだったくせにさぁっ!!」 こみ上げる涙が、ミノルの頬を伝い、足元に落ちて行く。 レインは、何も言う事ができなかった。 「僕・・おねーちゃんに何て事を・・」 そのまま、ミノルは地面にくずおれる。 ――知ってしまったんだ。リントの心の中―― レギスタンに帰っても・・彼女に残された道は復讐のみ。 自分の生命を賭してでもタカマサに仇を討つ・・リントが生きている理由は・・それだけ。 彼女の心の中には・・どれだけの重圧が、悲しみが渦巻いていただろう。 『自分の言葉が、そこを突いてしまった』 ミノルが気づいたのは、遅すぎた。 ――だけど・・リントは笑ってた―― 「ううん・・いいの。ありがとう、ミノル・・」 目線を合わせ、静かにリントは呟く。 「レギスタンにいる間、わたしの心はずっとピリピリしてた・・復讐のことばかり考えて。 ミノル・・ほんの少しでも、わたしの心をラクにしてくれた。 ほんの少しでも・・わたしを普通の女の子に戻してくれたじゃない・・」 とても優しく、そして、とても切ない声で。 「ライもレインも・・みんな・・みんな!」 ――わかってたんだ。旅を続けてれば、いつかはこの時が来る事―― 「ありがとう・・って言わなくちゃ」 「リント・・」 ――ボクは、それを拒否していた。変わることを―― 「どうしても・・行っちゃうの?」 「うん」 ライの確認に、リントはしっかりとうなずいた。 とても14歳の少女とは思えぬ、強い決意の光を、その瞳にたたえて。 彼女を止めることはできない。 もう、ライは知っていた。 「レイン・・いいよね。リントに教えても」 「・・仕方ナイよね」 一瞬うつむき、リントを見つめるレイン。 「リント・・あのネ。ファイフシティの『スクープ・ポケライン』っていう新聞社に行って。 そこの『ティール取材班』には、リントと同じように、ティールを恨む仲間達がいる。きっと力になってくれる」 いつもと違う・・涙を抑えたような声だった。 「うん・・ありがとう・・行ってみる」 「さようなら、みんな」 ――さよなら・・なんて言うなよ・・サヨナラなんて・・!―― 「待って!」 ライは、リントの背に向かって叫んだ。 「えっ?」 その時、振り返った彼女の視界で、ライの手に握られていたのは、何だっただろうか。 「忘れ物・・だよ!」 「あ・・」 レインの森でも、警官とのもみ合い。 その果てにむしり取られた。 この時まで、リントは取られていたことに気づかなかった。 『これからの女の子は、かっこよくなくっちゃ!』 忘れもしない、両親と一緒に過ごした最後の誕生日にもらった・・ 赤いバンダナ。 「かっこいいリントには、これがなくっちゃね!」 ――めいっぱい・・笑顔を見せた・・つもりだった―― 「でもね!」 10メートル程の間を挟み、さらに続けるライ。 「これを返すかわりに、1つだけ約束して欲しい!」 「約束・・?」 「必ず、生きて帰って来て!」 ――せいいっぱい、だった。それを言うのに―― 「約束だよ!」 「・・うん」 ――ホントは、バンダナ返したくなかった。だって・・もう二度と会えないかもしれないから―― 「・・指切り」 「・・??」 左手でバンダナを手渡し、ライは右手の小指を立て、リントの顔に近づけた。 「ネバーランドでは、約束を守るとき、こうやって小指を合わせるんだ」 「・・わかった」 ――指切り、げんまん―― 2人の小指が、しっかりと結ばれた。 ――ウソついたら、ハリーセンをのーます―― 「必ず・・帰って来てね」    続    あとがき コンニチハ、Kです。 いやぁ、今回は、本来の予定がズレて、ライ×リントになりました。 しかもポケモン出てきてません(爆) 『リントにバンダナを返すシーン』をどこかで入れないととは思っていました。 で、同時に『いつか、指切りのシーンを書きたい』とも思っていました。 ・・というわけで今回、どうせやるなら印象的にやってやりたいということで、進行予定表をずらして、この約束のシーンを入れたのです。 うーん、サキ達・・目立たなくてゴメンよぅ(汗) ではではっ。    次回予告 ティール取材班に到着。 待っていた仲間たちは・・? 第14話「あの人(仮)」