POKE IN ONLINE2 #17    「そらをみにいく」 ――2日目の夜、ボクは社内を歩き回った。理由も特になく―― 「ね、そういえばさ」 取材班の部屋からチェリーが去って、リー1人になったのを見計らい、ライは話を切り出した。 「何ですか?」 「前に会った時・・あの2人・・いなかったよね」 「チェリーさんとイル君・・そうですね」 視線を、机の上から窓の外へと向けるリー。 ――外は・・星空か―― 「イル君には、以前ライさん達に会った直後の頃、出会いました。 凶暴化した野生のポケモンに襲われていた私を助けてくれたイル君・・きゃっ☆」 「・・ずいぶん、ラブラブだね」 もしこの場のミノルやカームがいたら、リーはいいようにからかわれていたことだろう。 「チェリーさんは・・」 と、再び彼女の表情が曇る。 「両親が・・自殺したんです」 「・・そうなんだ」 「モンスターボールのキャプチャーネットや、げんきのかけら等に使われる魔法物質X、通称『Ena』を開発した、ティールの研究員でした。 それが・・ある日、突然・・だったそうです。 前日に『タカマサに騙された』ともらしているのを、チェリーさんは聞いています」 月の光が部屋に差し込み、室内の小さなランプの光と溶け合い、不思議なコントラストを作り出す。 ――淡いグリーンの光・・幻想のような光景だった―― 「両親のその言葉が、彼女をここへ走らせたんです。 私たちは・・知る権利に基づき、この計画を成功させなくてはいけないんです・・!」 ――あの時リーは話してくれた。自分の両親の死のことを―― 「わかってる・・わかってるよ、ボクだって・・」 ――ティールに行って、帰りに『事故』で死んだ・・って―― It was not only they. Thiel changed my destiny, too... (ティールは彼女達だけじゃない。ボクの運命をも変えていた・・) 部屋を出て、ライは、廊下の壁に寄りかかって立っているイルに出会う。 「ライ・・だったな。まるで女のような奴だ」 (・・厳しっすね) 苦笑するライに、イルの方は表情を変えなかった。 変えずに、言った。 「お前には、守るべきモノ・・守るべき人がいるのか?」 と。 「守るべき・・人・・?」 「生命を賭けても、守りたいと思えるモノ、人。それがあるから、ヒトは強くなれる。 お前のようなコドモには、ためになる話だろう?」 『守るべき人』 イルの並々ならぬ覚悟が、その言葉からは感じられた。 「俺の守るべきは、リー。お前なら、リントじゃないのか?」 「・・!」 唐突にリントの名を出され、慌てるライ。 これではコドモと言われても仕方ない。 「ククク・・」 面白そうに眺めるイル・・なかなか強者だ。 「お前の守るべきは?」 ――ボクの・・守るべき・・は―― 建物屋上へと通じる階段の下には、ミノル、カーム、サキの3人が集まっていた。 「どしたの、みんな?」 「しーーーっ」 「静かに、耳を澄ましてみそ」 「ヒミツのデートみたいナノ」 「デート・・?」 とりあえず3人に従い、息を潜め、耳を澄ましてみる。 ・・上。 階段の踊り場から、レインとリオンの声が聞こえて来る。 「レイン・・何の用だ?」 「・・リオン・・これ」 「これは・・メッセージボール・・ミトのだ・・」 (・・??) そう。この時レインは、ミトの遺言が記録されたあの石を、リオンに渡そうとしていた・・のだ。 もっとも、ライ達にその事情は知る由もないのだが。 「サキと出会った・・あの場所で拾ったんだろう?」 「え? それを・・どうして?」 「知ってるさ・・」 どこか、リオンの声は切なく響く。 「何もかも・・そう、サキがミトだってこともな・・」 「・・!!??」 その言葉は、どんな驚きをもって、下の死角に潜むライ達に・・サキに受け止められたであろうか。 サキに・・何を思わせたであろうか。 「ミトはゼロスに殺された! レインリバーのあの時・・オレ達の前を通り過ぎて行ったあの光がミトだった! ゼロスの野郎は・・ミトを追って行って・・殺した・・サキが倒れていたあの場所で!! そしてミトは・・『サキ』として、オレと平和に生きることを望んだ・・ ・・会った時から、分かっていたさ。オレだって、気付かない程落ちちゃいない・・」 「リオン・・」 「けれど・・あいつがサキとして、オレに接しようとするなら、オレはそれでよかった。 だからオレは・・ゼロスをぶっ潰して・・あいつと一緒に・・」 恐らく・・涙を流しているリオン。 カタカタ震え、言葉の出ないサキ。 顔を伏せた彼女から、堪えきれない嗚咽が漏れた。 「お・・にぃ・・ちゃん・・」 それは、ミトが人形に託した、かすかな記憶のかけら。 「ゼロ・・ス・・! 許さない・・!」 ――怒りって呼ばれる感情を覚えたのは、多分これが最初のことだった―― 【午後11:03】 リオン、レインがいなくなった後、どうにも落ち着かないライは、屋上へと登ってみる。 「・・リント?」 果たして。 星の降るような夜空の下、リントは立っていた。 胸の前で両手を組み、空を見上げ、神に祈るような姿で。 (邪魔しちゃ・・悪いよね) そう思い、気付かれないうちに去ろうとするライ。 「普段は・・」 リントが祈りを止め、静かに口を開いたのは、その時だった。 「普段は、神様なんて信じないんだけどね」 いたずらっぽく笑う声。 ライの中に・・いろいろな気持ちが一度にこみ上げる。 「・・行くんだね。もうすぐ」 「うん。わたしの・・決着をつけに・・行かなきゃならない」 「・・分かってる・・」 しばし間を置き、ライはリントの側へ歩み寄り、再び言葉を紡ぐ。 「リントにね、言いたいことがあるんだ」 「・・なに?」 「でも今は言えないよ。だって・・その言葉は、キミが倒すべき相手に奪われているから。 リントは・・そいつから、ボクの言葉を取り返して来なきゃならないんだよ。 その時・・ボクは、その言葉を初めて、キミに伝えることができる」 「ライ・・」 刹那。ひとすじの光が空を駆け、流れ星が1つ舞った。 「流れ星!!」 「うん、見たよボクも!」 「ライ、何かお願いした?」 「ボクかい?」 ――Wishstar・・星に・・願いを―ー 「リントがもし危なくなった時、どうか助けて下さいって祈ったよ」        続    あとがき ティール突入前の最後の回となりました・・#17! チェリーが登場してないのが痛いですが、今回は、ライ視点で、決戦前夜のみんなとの会話を描きました。 ポケライン1でも、ポケモンセンターでの決戦前夜を書いてましたね、#17の辺りで。 もうティール突入・・ 決戦の時は近いですね。 ではではっ。    次回予告 ティールに突入したリント達。 残されたライ達は・・? 第18話「後悔はない(仮)」