【3日目 午前0:03】 静かな夜が、警報音で破られた。 ファイフシティのレンガ造りの町並みに明らかに浮いている機械仕掛けの建物から、無数の光・・サーチライトが夜空を照らす。 「・・行っちゃった」 続々とヤジ馬が集うティール入口前広場で、呆然とミノルは呟いた。 「・・うん・・」 うなずくライの声に、覇気はない。 「・・ふぅ」 「リオン・・私の・・お兄ちゃん・・」 そして、カームとサキも。 「夕方、レインはね、話してくれたノ。自分の記憶が、知らないうちに自分自身で作っていた『偽りの記憶』だったってネ。 ・・ミトさんから生まれた私の、今までの記憶も似たようなモノ・・もしかしてレインは、私の正体、あの時伝えようとしたのかナ・・?」 潤んだサキの瞳が、サーチライトの光を映し、美しく輝いていた・・    POKE IN ONLINE2 #18    「星に呼ばれた者達」 「もう気付かれたか!」 ティール・システムズ内部。 壁の『非常事態』ランプが点滅し、廊下を赤色に染め上げる。 「いたぞ、曲者!」 「邪魔しないで!」 ぱん。 「ぐはッ!」 突き当たりの角から登場した数名の警備兵は、侵入者の人数を把握するより早く、その頭をリントに撃ち抜かれ絶命した。 「・・ッ!」 「人は誰だっていずれ死ぬ。奴らは少し早かっただけだ・・」 目前に突きつけられる『死』に思わず顔を背けるリーに、イルは平然と言って聞かせる。 「侵入者を排除しろ!」 「あ・・後ろ!」 「任せろ!」 続いて、背後から現れた追っ手に、リオンが炎の魔法を浴びせ掛ける。 「ぎゃあッ!」 「とどめはこの子よ!」 「あたいだって!」 さらに続けて、チェリーのブラッキーと、レインのヘルガーによる波状攻撃。 どう見ても『潜入取材』と言うより『テロリスト』である彼らは、圧倒的な強さを見せつけ、一路、上のフロアを目指して進んでいた。 復讐にその身を捧げたリント、リオン、リーとチェリー。 自らの運命・・存在意義に、決着をつけるレイン。 世界でたった1人の・・大切な人を守るイル。 どんな恐ろしい兵器をもってしても奪う事のできない、ヒトの持つ力・・心の力。 他の誰より強いそれを、彼女達は持っていたのだ。 【3F】 やがて一行は、広く開けた一室に出た。 「ここは・・?」 これまで続いた激戦がウソのように、人気の無い、静まり返った薄暗い部屋。 コンピューターや、あらゆる機械が散乱している。 「研究・・ルーム・・パパとママが、昔ここで・・」 言って、チェリーが天井を見上げた・・ その時だった。 「よくぞ来た、ティール・システムズ放棄ラボへ」 フッ・・と、ローブをかぶった人間が、天井から床・・メンバーの10mほど前方・・へと飛び降りて来た。 「ゼロスか!?」 「違う・・! あいつ・・は・・!」 素早く銃を『あいつ』に突きつけ、先陣を切ってリントが叫ぶ。 「アナタは・・!」 続いてチェリー。 「黒山羊!」 「黒山羊!」 2人の声が重なった。 「フッ・・いかにも。私の名は黒山羊・虚焔。久しぶりの顔が多いな・・会えて嬉しいぞ・・と言っておこう」 黒山羊・虚焔。 レギスタンでリントを負かした、凄腕のバウンサー(用心棒) 「どうして・・ネバーランドに!?」 銃を握るリントと、ボールを握るチェリーの両手が震えている。 どこか・・恐れが、間違いなくあった。 あの時受けた痛みを、リントは忘れていない。 「知らぬのか・・いいだろう。ならば、これを見るがいい」 まるで幻想のように、ふわりと虚焔は動き出し、舞いを舞うかのようなステップを踏んで見せた。 「・・!!」 「あッ!」 すぐに気付いたのは、レイン、リー、リオンの3人。 「その舞いは・・」 「ライの!!」 そう。 ウィッシュスターのリーダー・ライがこなす、ネバーランド伝統の舞踏。 彼や、彼の師を知る人間なら、すぐに気付くことができたはずだ。 目前のバウンサーの舞いが、ライのそれそのものであることに。 「・・古き時代、レギスタンとネバーランドはひとつであったと聞く」 少しの間を置いて、虚焔が再び喋り出す。 「ホ・・ホントですか!?」 新聞記者の性か、スクープメモを取り出してメモを始めるリーを見て、微笑を浮かべながら。 リー以外のメンバーは、意外にもそれほど大きな反応は見せない。 なかば、予想していたのかも知れない。 「ある時、世界は2つとなった」 リント達の武器が、全て向けられている中で、虚焔に全く怯む様子などない。 むしろ、威圧感のような物すら漂わせていた。 「しかし、2つの世界は、今なお、つながっているのだよ。 ・・この『星呼び』によって」 「星・・呼び?」 「星の力を呼び覚まし、遠き地までヒトの魂を送る、魔なる舞い。 レギスタンでは武道となり、ネバーランドでは芸能となった舞い。 すなわち・・片方の世界で誰かがこれを舞う時、他方でも舞う者あらば、魔の力が互いをつなぐ。見た者は、巻き込まれて運ばれることがある。 もちろん、ティールでは自由に行き来できる体制が整っている。 リントと言ったか・・小娘、お前はあの時、確かに私が舞う姿を見ていた筈。たとえ速さのあまり見えなかった・・としても。 その時、こちらの世界でたまたま舞っている者・・待っている者がいた。 そしてイル、貴様もそうだ」 「・・そういうことか。確かに、こっちで初めて会った奴は、舞い手だと言っていたな」 ポーカーフェイスを崩さず、静かにイルは呟いた。 「・・わたしは?」 銃のバレルで自分を指して、レインの方を向くリント。 虚焔から武器と注意をそらしたことと、銃を自分に突きつけている事、二重に危ない。 「リントはね・・あの日の夜中、あたいらは、コンサートツアーの出発式で・・その時だった。ライが舞いを始めたら、血まみれのリントが舞台にいきなり・・」 「フッ・・舞い手がもっと多かったならば、世界が2つという事実を、世はもっと早く知ったであろうな・・」 ・・じゃきっ! 虚焔の両手から、銀色に光る爪が飛び出す。 リントには、嫌な思い出のある爪だ。 「私としたことが・・無駄に話しすぎた。さて、そろそろ戦おうか」 「・・」 「イル君!?」 「待った!」 リーを振り切り、戦闘に出ようとしたイルを、チェリーが叫び、止める。 「このバトル・・私にやらせてってカンジ!」 「・・そんな、チェリーさん!?」 「・・私だって、こんなトコで戦いたくないけどさ・・イルには最後までリーのそばにいてもらわなきゃね! 女の子が泣くのは、私、ダメなんだ。 それに・・私はこいつに恨みがあるのッ!」 びしッ! モンスターボールを取り、チェリーは虚焔を睨みつけた。 「ふむ・・覚えているぞ、小娘。 いや・・今は『怪盗シェリー』と呼ぶべきかな?」 「どういうことだ?」 「こういうカンジよ」 リオンに答え、チャックを下ろして、上着のフリースを脱ぎ捨てるチェリー。 下に着ていたTシャツからのぞく、むき出しの腕には・・いかにも虚焔の爪に切り裂かれたような、痛々しい傷跡が刻まれていた。 「怪盗シェリーからの挑戦状! 今夜1:00、ティール・システムズ所属用心棒、黒山羊氏から『勝利』を頂きに参上致します!」    続    あとがき ついに決戦が始まりました、#18です。 ここからは、最終決戦までノンストップで突っ走ります。 ティールに突入したリントと、しなかったライ。 主人公とヒロインが、現在分断されていますネ(汗) それにしても、銃や剣がアリの世界観だと、こういう場面でポケモンが使いにくくて悩みます・・ ではではっ。    次回予告 チェリーを残し、上へと進む一行。 そこに現れたのは・・ 第19話「続・そらをみにいく(仮)」