ほんの1日、いっしょにいただけなのに。 どうして、こんなに気になるようになったんだろう。 異世界から来たキミのことを。 キミは話してくれた。レギスタンのことを。 その時ボクが、キミの過去に同情したから? 違う。 きっと答えはそうじゃなくて。 指切りをした時から、うすうす気付いてはいたんだ。 Lint・・マモルベキヒト。 「ミノル、サキ・・やっぱりボクも行って来る! 行って来なきゃ!」     POKE IN ONLINE2 #20    「たとえオオスバメが現れようと」 「やああぁぁッ!」 背中の翼から光の粉を撒き、電光石火でゼロスに襲い掛かるリント。 しかしなお、呪われし闇の力に及ぶ攻撃とはならなかった。 「うざいんですよね・・抵抗されるとね!」 ゼロス。 彼が横にヒュッと避ける。 直前までの立ち位置の後方・・リントが数瞬後に突っ込む先の空間がうねり、歪む。 「・・!?」 この部屋から、ビルの外までを隔てる壁を全て消され、何重かの穴が出来上がった。 その向こうは・・4Fの空中。 「リント!」 誰かが叫ぶが、どうしようもない。 つきすぎた勢いを止められぬまま、リントはビルの外・・何も無い空へ弾き出されてしまう。 「クククッ・・単純ですねぃ。 怒りに身を任せることが、どんなに愚かな行為か分かりましたか?」 直後に、元に戻る壁。 リントはレインと違う。背中の翼による飛行は不慣れ。 最悪、相棒のピジョンを繰り出すことさえできぬまま、地面に叩きつけられてしまうかも知れない。 「サンプルが1人死のうと、もうかまいませんねぃ。 なぜなら、リントのデータを元に作られた、さらに優秀なサンプル個体が今や僕の目の前にいるのですから・・」 「あんた・・あんたって奴はあッ・・!」 「・・オレが、行く」 レインが怒りに身体を震わせ、リオンは静かに前へ出る。 「いいでしょう。今度こそ焼き尽くしてあげましょうか」 その・・時だ。 「ほーぅ。じゃあ俺もまぜてもらおっかな」 「!?」 ゼロスは思わず、我が耳を疑った。 誰かの声・・レイン、リオン、リー、イル以外・・この場にいるはずのない人物の声が、彼のすぐ背後からかかったのだから。 今さっき改めて閉じた、壁であるはずの背後。敵に回りこめるはずもない背後から。 「誰です!?」 「カーム様だよ」 「ビィィッ!」 「きゃう!」 無防備に放り出されたリントを、空中で優しく受け止めたモノがあった。 「こ・・れは?」 花。 そらに咲いた、大きな花だ。 めいっぱいの星の光を浴びて、金でも銀でもない美しい輝きをたたえ、リントを守って咲いている。 「キミを死へは行かせない」 直後、あおむけに倒れていた彼女は、見下ろすように立っているキレイハナ、そして・・ライの姿をとらえた。 「ライ!!」 「やぁ、リント」 「どうして・・」 「そうだね・・『オオスバメの前のケムッソ』だからかな」 ケムッソ。けむしポケモン。 オオスバメによって捕食されるポケモンの代表格。 「風前のともし火・・ってこと?」 「違うよ」 いたずらっぽく(できるだけリントを安心させることができる表情で)ライは笑ってみせる。 リントの運命を考えた上での、どこかぎこちない笑いではない。 ――ボクにできること、今ここで。後で後悔だけはしたくない―― 「ケムッソは、ただ成す術なく食べられるわけじゃない。時には毒針を振りかざしてオオスバメを追い払う。 彼らにとって、オオスバメとの戦いは、人生で必ず1度はぶつかる、生死の審判なんだ。 『オオスバメの前のケムッソ』ってのはね、どんな人間にだって、1度は勇気を出して、ぶつかって行かなきゃならない困難がある・・ってことわざなんだ。 そして・・今がその時だと思った。だから来た」 「その時・・なんて・・! ライは関係ないよ! お願い、ライ、こんな所でライを危険にさらさないで・・!」 「無理だよ。もうボクを止める事はできない」 「どうして・・」 ――好きだ・・とストレートには言えなかった―― 「さ、リント・・行こう」 ――守るって決めたんだから、言ってもよかったかな?―― 「よぅ、お2人サン!」 再びゼロスの部屋へ踏み込んだ2人を、普段と変わらぬ口調で、カームが出迎えた。 「カーム!?」 「カーム!!」 ほんの一瞬、2人の目が点となる。 カーム、レイン、リオン。 そして、少し距離を置いてイルとリー・・の5人が、ゼロスを包囲するように対峙していた。 「お2人サン、ここは俺らに任せときな」 「うん、みんなは早く上へ!!」 カームに同調し、レインが2人、そしてイルとリーを急かす。 「こいつはオレたちが潰す」 リオンもだ。 「でも・・」 リントが言いかけた時、彼女の両肩に手がかかる。 誰かの両手ではない。 2人の片手。 「行くぞ」 「・・行こうよ」 静かに言い放つイルと、優しくつぶやくライ。 「リントさん・・私たちは、こんなにたくさんのヒトに支えられて、この道を開いてもらっています。 その気持ちを・・ここで無駄にはできませんッ!!」 次のフロア【5F 社長室】へ続く階段付近から、リーが叫ぶ。 強い決死の意思を、その顔に滲ませて。 ――仲間を残して行くつらさ、リーはわかってたはずだよ―― 「リント、ここはあたいらに任せて! 行って! ライも!」 「・・分かった!」 ――リーにとっても、あの時がオオスバメを迎える時だったんだよね―― 「ようやく思い出したぜ、ゼロスさんよ」 4人が上のフロアを向かったのを見届け、カームはゼロスに言った。 いつものノリで。 それでいて、いつもよりずっと重い声で。 「何を・・ですかね?」 「とぼけんな。お前の顔、どっかで見た事あると思ってた。 で、思い出した。ウチの親父とお袋が死んだ時の事をな。 俺がまだガキだったあの日、ウチに客が来た。俺は2Fへ上げられた。 しばらく経って下りてったら、どうだ・・ 親が死んでて、客はいなくなってたっていうのはよ・・ ゼロス! お前のツラが、その客にそっくりなんだよ!! つうかお前なんだろ!!! 犯人はよぉ!!!!」 「両親・・ランドと、エナの2人ですか」 「あぁそうだ! 覚悟しやがれ!」 カームの声を進軍の合図にしたかのように、レイン、リオンのモンスターボールからポケモンが登場する。 それぞれのベストパートナーである、ヘルガーのレイルと、カイリューのリュー。 そして、カームのセレビィ。 「・・プテ、リド! 今度こそ止めを刺しましょう」 対するゼロスも、レインリバーの時と同じ顔ぶれの2匹を繰り出す。 「あんたの野望、今こそついえる時ヨ!」 レインの右手が、ゼロスを指して・・ 戦いの火蓋は、切って落とされる。 Thiel Systems 4F Lain,Karm,Reon vs Zeloss.    続    あとがき いやぁ、ポケライン2もいよいよ20台に突入ですね。 このあたりから、メインクラスの仲間と、そうでない仲間の出番の差が顕著になって来たような気がしますが(汗) 13人ですからね、さすがに平等に活躍させるのはツライものがありまする。 ともあれ、今回はライが、主人公としての面目をバッチリ回復しましたねぃ。 どうせなら、タカマサ社長を倒すほどの更なる活躍を期待したいものですよね(爆) ではではっ。    次回予告 タカマサの元へ向かう4人。 待ち受ける存在・・原初の者。 第21話「世を統べるもの(仮)」