「許さないんだからね、あんた・・!」 「任務であった。仕方のないこと。しかし・・今、私は嬉しいぞ」 外界と切り離されたかのように静まり返った、3F・放棄ラボの一室で、怪盗と用心棒は対峙する。 用心棒・・虚焔は、チェリーに睨みつけられ、かすかに笑みを浮かべていた。 「私が負かした者が、こうして強くなり、再び私の前に立ちはだかる・・貴様がこうして私の元へ戻って来たこと、嬉しく思うぞ!」 「言ってくれちゃって・・もう負けないんだからね! 行くのよッ、ネール!」 チェリーから繰り出されたポケモンは、イワークの正当な進化形・・てつへびポケモン・ハガネール。 そこに存在しているだけで、敵対者を立ちすくませるほどの威圧感溢れる巨体のポケモンだ。 「ハガネール・・か。ならば私はこれでいこう! ・・烈風火斬・華月ッ!」 烈風火斬・華月。 炎を宿す早馬、ギャロップ。 2人の裏稼業同士の対決は、チェリーの相性不利から幕を開けることとなった。    POKE IN ONLINE2 #21    「ツラナルモノ」 【5F 放棄ラボ・上層】 「最上階・・タカマサの元へ!!」 それを合言葉とし、あらゆる物が散乱するラボを突き進む4人。 リント、ライ、イル、リー。 仲間達に開いてもらった道を・・ただひたすらに、がむしゃらに上を目指して。 上・・そら? 自由? 全てのコタエ? 全ては『上』に待つ。 『真実を知る人・・この世界を変える人・・』 「!?」 不意にどこからか響いた第3者の声に、思わずリントは足を止めた。 「リント?」 「どうしましたか?」 「・・聞こえる」 「何が!?」 辺りを見回してみる。 すぐ左、ある光景が彼らの視界に飛び込んで来る。 『待っていたよ・・』 それは、緑色の怪しい液体と共にカプセルに閉じ込められた1匹のポケモン。 ほのかなピンク色を帯びた、小さい、人型の、尻尾を持つポケモン。 眠っている? それとも生命活動が停止している? 目は閉じていて、動く気配はない。 およそこの世のものと思えない・・なんと神秘的なポケモンだろうと、一行は思った。 「この子・・?」 「MEW・・ミュウ・・か」 近くについていたタグが、ミュウというこのポケモンの名を示す。 「話し掛けているのは、キミですか?」 戸惑い気味に、ミュウに話し掛けるリー。 どこからともなく(テレパシー?)帰って来た答えはこうだった。 『お願い・・倒して。ゼロスを、タカマサを・・そして、ボクに『つらなるもの』を・・ ボクと一緒に・・マサラ・・へ・・』 「言われなくても・・そのつもりだよ」 銃に弾を込め、優しく・・リントは言った。 「キミもわたし達と同じ・・犠牲者なんだね。大丈夫。もうすぐ・・自由に・・」 ――マサラとは、白。汚れなき色。純粋・・無垢・・そして、はじまりの色―― 「親子の血と仲間の絆が、時を越えて結びつく・・クククッ、実に美しいじゃあありませんか!」 乱れ飛ぶ炎とエネルギー波を俊敏にかいくぐり、ゼロスは笑う。 「美しい、だと? そんなものはオレにはどうでもいい・・ミトの為に、ただ貴様を殺すだけだ!!」 瞬間、リオンのカイリューの前に、ゼロスのリザードンは倒された。 「!!」 レインリバーの時とまるで違う『強さ』を見せ付けられ、ゼロスの慇懃な笑顔が、わずかに引きつったようだった。 「何言ってるか知らねぇけどよ・・とにかくお前をブチ殺す!」 その隙を逃さず、カームのセレビィが仕掛ける『やどりぎのタネ』が、黒いローブの下にのぞく、ゼロスの左足を絡め取る。 「何言ってるか・・というと、ご存知ないようですねぃ。 僕が殺した、君たちの両親の物語・・リント、カーム、チェリー、リーの4人が結ぶ『血の記憶』を・・ね」 「血の・・キオク・・?」 意地でプテラを撃破し、満身創痍のレインとヘルガーも、何とかゼロスを注視した。 リント、カーム、チェリー、リー。 4人共、両親をティールに殺された、あるいはその可能性の強い仲間達。 「つながりが・・ある」 「そうですとも。万能魔法物質『エナ』を開発したのは、他でもない彼らの親たちなのですからね。当時、このラボのクルーだった8人! そして、光のサンプル・・そう、レイン! 君の身体を構成する物質こそが『エナ』! どうです、皮肉なつながりでしょう? ハハハハ・・」 「あんた・・!」 知らず、唇を噛みしめるレイン。 言うべき言葉など、見つからなかった。 「おしゃべりはそこまでだ!」 刹那、リオンのカイリューが、ゼロスへ向かって、低空飛行で飛び込んで行く。 「リュー『すてみタックル』でブチ殺せ!」 「そうだ! やっちまえ!」 「いけーーーっ!」 『やどりぎのタネ』に足をとられているゼロスへの、直接攻撃。 いかに彼が奇人であろうと変人であろうと、まともに受けて生存できるとは思えない、カイリューの巨体でのタックル。 レイン、カームの応援をその力に上乗せして、カイリューはゼロスへと迫る。 しかしなお、ゼロスは笑っていた。 狂ったのか、それとも勝算があるのか。 聞くまでもない。後者だ。 「さっきのリントのこと、もう忘れましたかね?」 再び、壁が歪み、無へと変化する。 ゼロスの背後から、ビルの外までの直線空間を隔てる物が、全て消滅したのだ。 「ほれ」 上体を大きく反らし『すてみタックル』を難なくかわすぜロス。 「動けなくとも、ラクなものです」 「それはどうかな?」 「!?」 勢い余って外へ飛び出たカイリューを確認した直後にかかる、リオンの叫び声。 その時、ゼロスは何を思い振り返ったであろうか。 「本当の狙いは・・これだ!」 カイリューと続けざまに、竜の翼を広げ、高速飛行するリオンが切迫していた。 「な・・!!」 ゼロスといえども、ただ狼狽するほかなかった。 リオン渾身の飛行タックルがゼロスを捉え、宿り木のツタを引きちぎり、壁の穴から2人共空へ飛び出す。 そのまま、リオンは羽ばたかない。 ゼロスと組んだまま、十数メートル下の地面めがけて落下していく。 「リオン・・あんたまさか、あいつを道連れに・・!!?」 素早く足場の縁に身を乗り出したレインに、リオンはOKサインを送って見せた。 4Fの戦い。 決着の時は、近い。    続    あとがき コンバンハ、Kです、#21です! いろんなシーンに切り替わって、思ったより下書きに時間がかかっちゃいまして・・ とにかく、今回のキモは、元祖幻ポケモン・ミュウの登場。 vsゼロス第2回・・ですね。 ゼロスとの戦闘場所は、狭い室内なので、本来カイリューのタックルなどは無理ありすぎなんですが・・ でも、設定ではカイリューは2mぽっち。 結構イメージより小さいんですよね(爆) ではではっ。    次回予告 その血に連なる者が目覚める時。 世界は結末へ向けて動き出す。 第22話「暗黒のカタストロフィ(仮)」