「これ位はできなくちゃ、リントのガードなんてつとまらないよ」 キレイハナをボールに戻し、ライは笑って見せた。 社長室のドアを開けた瞬間、そのドアの向こうから現れた、銃を持った5人の警備兵。 さすがのリントさえ『やられた』と思った。 しかし、彼らは攻撃に移る間もなく、ライのキレイハナ・・レイナによって倒された。 彼はワナを察知し、事前にモンスターボールを床へ落としていたのだ。 「ライ・・すごい!」 「助かりましたよぉ!」 「・・ひとまず、礼を言っておく」 メンバーから褒め称えられ、微妙に得意げなライの表情が面白い。 「とにかく・・」 「着いたね、社長室」 赤絨毯の敷かれた社長室に、4人は足を踏み入れた。 不自然なまでに薄暗い室内。天井から下がる悪趣味なシャンデリア。 奥の机は・・公務用のものだろうか。 「来たか・・リントよ」 やがて室内に、リントにとっておよそ48時間ぶりの声が響き渡った。 「・・タカマサ・・ッ!」    POKE IN ONLINE2 #22    「決着を!」 チェリーはポケモンを交代しなかった。 「行け『だいもんじ』!」 敵のギャロップが放った、最大級の火炎撃『だいもんじ』が、ハガネールの目前まで迫っても。 「ヤバイ感じ・・だけど・・」 炎の熱か、あるいは緊張のせいか、知らずチェリーの拳が汗ばむ。 「気合いでHPを残すのよッ!」 直後・・ハガネールの巨体が炎に包まれた。 しかし、チェリーは焦らない。 そう。 ハガネールにあえて弱点攻撃を受けさせる理由があるから。 「なぜ交代しなかった・・いや、まさかっ!?」 ゴーグルで瞳を覆うチェリーを見、虚焔はようやくそれを察する。 瞬間。 部屋中が、まばゆい光に包まれた。 「しまった・・目が!!」 全てを真っ白に染め上げる光。秘伝05『フラッシュ』など比にもならない。 その光の前に、虚焔とギャロップの攻撃の手・・否、動きさえも完全に止められてしまった。 「怪盗の極意その1『光で目くらまし』! 鉱山の石を高熱であぶると、たまにメチャクチャ光るヤツがあるでしょ? そして、このネールの身体も鉱物・・」 レギスタンの科学的視点から見れば、この現象の説明はつく。 マグネシウム。 高温で熱した時、猛烈な光を放つ鉱物。 ハガネールの身体も鉱物である以上、マグネシウムをその身に含む個体がいても不思議ではない。 チェリーは知っていたのだ。自分のハガネールがそうであることを。 「今だよ、ネール!」 光をやり過ごす為に閉ざされていたハガネールの瞳が、キッ、と見開かれる。 「『アイアンテール』!!」 ティール・システムズ3Fの南半分が、轟音と共に吹き飛ばされた。 「フフフフ・・ハハハハハッ!」 リオンに押さえつけられ、地面へ真っ逆さまに落下しながら、やはり笑うぜロス。 「何が・・おかしい!」 「こんなことをしても、僕が魔法をひとつ唱えれば、状況はすぐにでも逆転するでしょう? 君の捨て身の攻撃・・そのバカさ加減がおかしいんですよ!!」 ゼロスの指先に、闇色の・・魔法の光が灯る。 「オレがバカだというのなら・・」 魔法は発動しない。 数秒の後、ゼロスの表情は、余裕からうろたえへ、はっきりと変化した。 「貴様は救いようのない大バカだな! 何のためにセレビィが『やどりぎのタネ』をかけたと思っている!?」 「ま・・さか・・! 最初から僕の『動き』できなく『魔力』を奪う方が目的だったと・・!!」 地面・・ 騒ぐヤジ馬で埋め尽くされた広場は、もう近い。 「さぁ、一緒に逝こうぜ・・ゼロス」 「リオン兄ちゃん・・死ぬ気だよおおぉぉッ!!」 落下する2人の姿をはっきりととらえ、無意識のうちにミノルは叫んでいた。 そして・・サキの方を振り向いていた。 「お・・兄ちゃん・・」 両手で顔を覆い、ふるえるサキ。 ミト、という悲しい生命を受け継いだ『リオンの妹』・・ 「僕にできることは・・これしかない。これしかないなら、やるしかないんだ」 大丈夫・・と言うかのように、優しく、ミノルはサキの肩に手を置く。 リオンを見据える。 「いいかいサキ、落ち着いて聞いてね。 これから僕が、風の魔法に乗せて、リオン兄ちゃんへメッセージを飛ばすよ。 サキが伝えたいことを・・その時叫ぶんだ。僕の魔法に乗って、サキの声はリオン兄ちゃんに届く・・」 時間はない。 かざしたミノルの手に、緑色の光・・風の力が集束していく。 先刻リオンを確認してから、一連の会話の間・・もしかしたら、本当に時が遅く流れていた? 「ミノル・・」 立ち上がり、そっと、サキは両手をミノルのそれに重ねる。 「風に乗せて・・届け! 僕たちのメッセージ!!」 『お兄ちゃん!』 「・・!」 リオンに届いたサキの言葉は、わずか6文字。 しかしそれは、彼を思いとどまらせるのには十分な6文字でもあった。 「そうだ・・」 リオンの背・・翼に、再び力がこもる。 「サキがいる、オレは死ぬわけにはいかない・・ッ!」 羽ばたき。 「おおぉぉぉぉぉぉぉ・・ッ!!」 全身の力を翼に込め、ゼロスをつかんだ彼は、一気に運動のベクトルを、直角落下から上昇へと変えた。 地面に叩きつけられた風圧が街路樹を揺らし、人々をよろけさせる。 「ほ・・ほほほっ! やはり臆しましたか!」 「いいや・・悪いが・・」 再び2Fの高さまで上がると、ゼロスの背に、リオンのブーツの裏が押し付けられる。 「な・・!」 「やっぱり、死ぬのは片方だけで十分だ!!」 そのまま一気に、リオンはゼロスを地面へ蹴り飛ばす。 「があああああああッッ!!」 地面に激突するゼロス。 逃げる人々。 そんな光景を、ミノルは、自分でも不気味なほど冷静に見つめていた。 「か・・はっ」 レギスタンを滅ぼそうとした男の生命の灯が、消失していく。 あおむけに倒れ、上空のリオンを見上げながら。 この時彼は、何を思っていたのだろう。知る術はない。 「僕は・・この星を・・守ろうと・・しただけなのに・・」 それが彼の最後の言葉。 疲れ果てた様子で、サキとミノルの元に降り立ったリオンは、男の亡骸を見つめ、静かに言い放った。 「その為に・・とっていい方法と、悪い方法がある・・」 そして、照れ笑いを浮かべ、サキにこう言ったのだった。 「これからよろしくな、サキ」 ティール・システムズ4F  vsゼロス スクープ・ポケラインチーム 勝利。    続    あとがき いよいよゼロス戦にケリつきましたね、#22です。 漫画や小説やアニメって、実時間数秒の間に、かなりの量のセリフのやりとりがある場合が多いですが、今回のはいい例でしたね(笑) 久々に出て来たミノル・・リオンが落下するまで、実時間はそう何秒もないはずですよ、4Fからですから。 でもまぁ、なかなかかっこよくミノルを書けたので、作者としてはいいかと思ったりしてますね(爆) ではではっ。    あとがき ついにタカマサと対峙する4人。 社長の切り札とは・・? 第23話「世界を開くもの(仮)」