「フッ・・完敗だな」 崩壊した3Fでもまた、ひとつの戦いが終了していた。 チェリーvs虚焔。 チェリーの作戦勝ちで・・だ。 「これほど嬉しいことはないぞ、チェリーよ。ここまで戦いに燃えたのはしばらくぶりだ・・」 しかし・・ チェリーの顔に、喜びはない。 「あんたを倒しても・・両親は帰って来ない・・」 ただ、どうしようもない虚無感のみ。 『嬉しい』も『悲しい』もなかったのだ。 ・・虚焔の、次の言葉を聞くまでは。 「・・貴様の両親だが・・生きている」 「・・えっ?」 ふわっ・・と空気を揺らし、フードを下ろす虚焔。 戦っていた時とまるで印象の違う、面倒見のいいお姉さんのような素顔がそこにあった。 「私が望むことは、弱きを殺すことにあらず。ただ強きと戦うことのみにあり」 「ちょ・・ちょっと! あんたさっき『あれは仕事だった、仕方のないこと』って言ったジャン・・?」 「おお、それか」 わざとらしく手を叩き、孤高のバウンサーは笑って見せる。 「貴様とはどうしても『本気』でやり合いたかったのでな」 顔を真っ赤にしたチェリーが彼女に殴りかかったのは、1秒後のことであった。    POKE IN ONLINE2 #23    「最終決戦T」 「リー記者。望むならメモの準備をしたまえ」 レギスタンの時と同じスーツ、同じ格好で・・彼は、4人を品定めするように見つめている。 武器を向けられていても全く怯むことなく、むしろ逆に、聞く者をひきずり込むような静かな口調で、語りかけて来るタカマサ。 そこからにじみ出る、不気味なまでのカリスマに、ライとリーは、ある種の恐怖すら感じていた。 「リントよ『大塩湖』という場所を知っているか?」 「大・・塩湖?」 レギスタンの民ならば、聞いた事はあるであろう地名・大塩湖。 ノルテス山脈の麓に位置する、その名の通りの大塩湖だ。 「かつてその下流には、フィッシャーマンズ・ホライズン・・通称『F・H』と呼ばれる小さな漁村・・私の故郷があった。 何もない村だったが、私はそこでごく普通に、そして幸せに育ったつもりだ。 しかしある時、国の政策によって、湖の大規模な灌漑工事が行われた。 湖の水が減少した結果、塩分が風に乗って飛散し、F・Hを直撃した・・ 漁業資源は枯渇し、村はたちまちに滅びた。30年ほど昔のことだ」 当時を思い出すように、タカマサは遠い目で、昔話を語って行く。 真意がうまく読み取れず、正直リントはいくらか戸惑っていた。 「同情を誘うつもり? 無駄よ」 それを振り払うかのように、自分自身に気合いを入れるかのように、できるだけ低い声で言い放つ。 「世界中の戦争地に兵器を輸出し、刃向かう人・・わたしの・・ううん、チェリーやリーさん・・みんなの親の生命を奪っていった『死の商人』タカマサ・・ あなたに殺された人たちが、あの世で復讐の時を待っている」 「そうだな・・」 少し笑い、タカマサは、内ポケットからハイパーボールをいくつか取り出した。 「そこまで言うなら多くは語るまい。私を裁くならば、この戦いを制して見せるがいい! お前達にとって、これが最後の戦いだ!」 この物語をロールプレイングゲームに置き換えてみたなら・・ 激しい戦闘曲のイントロと共にバトル画面に切り替わるのは、この瞬間が最も適当だったであろう。 4つのハイパーボールがフラッシュし、キュウコン、リングマ、サンダース・・タカマサ選りすぐりの精鋭部隊が召喚される。 そして、もう1匹。 「な・・」 「何ですか!? あのポケモンは!?」 身長約2m。凶暴な目つきをした、人型のポケモン。 ほのかにピンクがかった、冷たいパープルの体色が、4人に何かを思い出させる。 3本の彼(?)の指の間には、時空が歪められ、いつでも撃ち出せる重力弾が生み出されていた。 「まさか・・ミュウ!!」 気づき、誰からともなくミュウの名を叫ぶ。 「ミュウ(Mew)に連なる者(Two)・・名づけて、ミュウツー(Mewtwo)! さぁ、ファイナルバトルのスタートだ!」    ティール・システムズ ラストフロア          vsタカマサ ――ボクの力で、どこまでできるのかは分からない・・けど!―― 「ここまできたら、もう後には戻れないんだ!」 ライの唯一のポケモン・キレイハナのレイナが飛び出し、キュウコンへとぶつかって行く。 「行け、リザードン!」 イルのリザードンは、リングマに。 「リール! お願いッ!」 リントのピジョンが、サンダースの懐へと飛び込んだ。 「あ・・あっ・・」 繰り出される斬撃の応酬。 飛び散る火炎。弾け飛ぶプラズマ。 あまりにも壮絶なポケモンバトルに恐怖し、言葉を失うリー。 ここで負けてはいけないと・・頭でわかっていても。 そんな彼女を見、タカマサは言った。 「リー記者、残念だよ」 「・・え・・」 「これだけのモノを見せられれば、君ならきっとすばらしい記事を書けただろうに。 しかし・・君は、このことを記事にはできないのだよ。 今この場で、生命を落とすのだからな!」 「・・」 タカマサの言葉を聞き、何かが、彼女の中に生まれたようだった。 「タカマサ社長☆」 恐怖を、振り切って。 とびっきりの営業スマイルを作り、リーはタカマサを見つめ返した。 「あいにくですが、スクープ・ポケライン『ティール取材班』のメンバーは、精鋭揃いなんですよ」 「何・・?」 次の瞬間、タカマサは何を思っただろう。 キュウコン、リングマ、サンダースの3体が、戦いに敗れ、モンスターボールに戻るその瞬間を見た時。 「・・アッシュ、ナルミ、キルア!!」 「・・あとは、そいつ(ミュウツー)だけだ」 ミュウツーを睨みつけるイルを見、初めてタカマサの表情が歪んだ。 「・・さすがだ、リー記者。君の部署には、最高の人材が揃っている。 しかし・・私は・・こんなところで立ち止まるわけにはいかないのだよ」 戦いを終え静かになった室内に響く、何とも形容しがたい不気味な重低音を、ライは聞き逃さなかった。 「みんな・・避けるんだ!!」 思わず、叫んでいた。 そう。 これまで戦いを静観していたミュウツー。 腕を振りかぶり、重力弾を今にも放たんとしている所であった。 「間に・・合わないッ!」 もう、ポケモンバトルだなどとは言っていられない。 反射的にネバーハートを抜き、マガジンに残っていた弾を一気にミュウツーに撃ち込むリント。 しかし、弾はミュウツーをとらえることはできない。 ――目を疑った・・ってのは、ああいうのを言うんだ、きっと―― バリアーと呼ばれるものであろうか。 明らかにミュウツーの数十センチ手前で、銃弾の軌道がそれた。 彼(?)を通り抜け、背後のガラスを砕いて行った。 「そ・・そんな・・」 「チェックメイトだよ・・諸君」 狼狽するリント達の瞳に映る重力弾が・・ミュウツーの手の中で、急速に膨れ上がっていく。 「『ギャラクシーフォース』!!」 3F、4Fに続き、最上階もまた吹き飛んだ。    続    あとがき ギャラクシーフォースは、ミュウツーの↑スマッシュ技ですよ(笑) というわけで、#23でした、Kです。 今回から終わりまでは、もうずっと『最終決戦』がサブタイトルになります。 いやぁ、ポケスペ14巻・・サブタイトルを見た時結構驚きましたよねぇ(爆) ポケライン2のシンボルとなるポケモンは、結局ミュウでしたね。 詳しくは次回以降に。 さぁて、星の塔やらドラグーンやら、そろそろ出さないとですね。 ではではっ。    次回予告 圧倒的な力を見せつけるミュウツー。 リント達にとれる術は・・ 第24話「最終決戦U」