大地に数条の地裂が走り、星はその地形を大きく引き裂かれた。 「わぁぁッ!」 「なっ・・何なの!?」 ティール前広場。 衝撃が走った瞬間、咄嗟にサキをかばうミノル。 ファイフシティのすぐ横・・ネバーランド平原・・に、大きく、深く、真っ直ぐな傷跡が刻み付けられていた。 「ミノル・・これ、一体・・」 「う、うん・・」 恐怖の余り無意識に震える身体を起こし、ミノルは空を見上げる。 煙を吹き上げるビル。そして、その遥か上空に輝く星々。 「きっと・・ライにーちゃんやおねーちゃん達が、あそこで戦ってるんだよ・・」 ・・この美しい星を、今日で見納めにはしたくなかった。    POKE IN ONLINE2 #27    「最終決戦X」 「見たか。これがミュウツーの力ですよ」 不気味にうつろう空の下。星の塔の天辺に、大量のフェイトが集まって来る。 それは全て、この一瞬にミュウツーが放った光によって分解された、ポケモンであったモノ達。 「ポケットモンスター、という束縛から解放され、今ドラグーンは蘇る! そしてこの僕こそが・・全ての存在、全ての時間を飲み込み、この星を救うのです! フハハハハッ!」 イルの・・否、ゼロスの笑い顔が、フェイトの発する光に照らし出されていた。 「お前が神だなんて、星は認めない!」 ライが叫んだ。 「たとえどんな正当な理由をつけたって・・どんな事情があったって・・破壊は悲しみにしかならないんだよ!」 「・・僕が破壊するのは、星の生命を、未来を救う為。偉大なる星の裁きの前に、屁理屈など聞きたくはありませんよ!」 ゼロスが合図を送り、掲げたミュウツーの手にエネルギーが集束する。 フェイトはなお、塔に渦巻き続ける。 「ポケモンというイレギュラーな存在を消し去り、神は復活します! さぁ、君達を倒して、新時代到来の宴としましょう!!」 ――確かにポケモンは、イレギュラーなのかも知れない―― 「やめるんだ、ゼロス!!」 ――だけど、それはみんなが望むイレギュラー。消させは、しない―― 「・・?」 ライ一行と、ゼロス、ミュウツーとの間に、静かにリーが歩み出た。 両手を広げ、仲間をかばうように。ゼロスに何かを語りかけるように。 「・・イル君」 その表情は、とても穏やかだった。 「リーッ!」 「待て!」 慌てて止めようとするレインを、リオンが制する。 「・・何のつもりですか?」 フェイトがうねる音の中に、ゼロスの意思を伝えるイルの声が響く。 「・・もう、イル君の良心に頼るしかないんだよ・・」 「良心・・? バカな。僕にイルの心が残っているとでも?」 「・・ほんとうのイル君は、こんなに弱くないはずだよ」 星の命運を賭けたこの場におよそ似合わぬいつもの声で、彼女は語り続けた。 「最初に会った日・・私を野良ポケモンから助けてくれたあの日・・。あの日からずっと変わらない。 どんな困難にも・・どんな強い相手にも、イル君は剣を掲げて立ち向かって行ったじゃない・・」 「僕はゼロスだと、まだ分からないのですかッ!」 漂うフェイトの一粒がゼロスの指示で飛び、リーの頬をかすめる。 「リー!」 紅い色のしずく・・血が散った。 しかしなお、彼女は怯まない。 「お願い、取り戻して! イル君の誇りを!」 ――大切な人への、熱い想い。背中に、消え行くリントの生命を感じながら・・ボクはふるえた 。ふるえていた―― 「う・・ぐぐッ・・」 イルの身体もふるえ始める。 「なに? 何が・・」 「取り戻すんだよ・・イルが、イルの誇りを!!」 ふるえながら、ゆっくりと剣の柄に手をかけるイル。 剣を抜こうとするイルの意思と、させまいとするゼロスの意思が戦っているように見えた。 「バカな・・! 僕を・・人形が・・人形の身体が僕を拒むのかッ!?」 「俺の・・俺の身体・・! 好きに・・させるか!」 同じイルの声で、しかし違う人物の心で、彼は叫ぶ。 誇りを取り戻す。 「イル君ッ!」 「リー・・悪いけど・・、こいつの支配から・・完全に抜けられそうにない・・。だから・・」 イルは剣を抜き放ち、天へ向けて掲げた。 「だから、お前の為に俺ができること、やるしかないんだ!!」 フェイトの粒が剣にまといつき、刀身が光り輝く。 さながら・・時空を越えた剣士が操る時の剣・・エターナルソードのように。 ポケモン達の、ゼロスへの制裁のように。 「イ・・ル・・」 ライの背中越しに、リントは悲しい瞳で彼を見つめていた。 これから何をする気か、気づいてしまったから。 「や・・やめろ! やめるんですッ!」 イルのものではない、正真正銘のゼロスの命乞いの直後。 「うおおぉぉぉっ!!」 「・・! イル君ーーーーーーッ!!」 光の剣を、彼は自らの胸に突き立てた。 ――愛する人の為に、彼は生命を捨てた。だけど・・だけどそれじゃ・・死んじゃったらダメだよ・・!―― 「ギャアアアアアアアア!」 光が飛び散り、ゼロスの断末魔が空を切り裂く。 やがて、剣が刺さったまま、ゆっくりとイルは前方へ倒れた。 とても・・とても安らかな顔で。 「・・ッ!」 泣きながらリーが駆け寄り、彼の身体を支える。 「イル君、どうして!!」 「俺・・は・・。俺はお前を・・守ろうとした。それだけ・・さ」 「もう・・無茶ばっかりなんだから!!」 「・・へっ。知ってるクセに・・よ」 ――背中に、あたたかいしずくを感じた。リントも泣いていたんだね―― 「イル君、聞いてる? イル君!」 「・・・・・・・・」 「ちょ・・イル君?」 やがてイルは、何も喋らなくなる。動かなくなる。 「嘘でしょ! ねぇッ!」 リーの悲痛な声が、空へと吸い込まれる。 「イルくーーーーーーーーんッッ!」 彼女は泣き出した。 泣いて、泣いて、泣きまくった。 「お願い、目を開けてよ!!」 イルは行って・・逝ってしまったのだ。 二度とは戻れない場所へ。 レインがわっと顔を覆い、リオンも深くうなだれる。 ――ボクだって、普通なら泣くさ・・。でも―― ――ボクにはまだ、やることがある―― 「お待たせ、ミュウツー」 心配そうに見つめるリントをそっと床に降ろし、ライは、忘れられかけていたミュウツーと対峙する。 「・・待たせすぎ、だ」 「・・ごめん」 「私は、私の生まれ持つ運命に従い、世界を壊す」 「・・ボクが、それを止めてみせるよ」 彼は笑って見せた。 「・・バカ! お前まで死ぬ気か!」 「ライ!」 「・・大丈夫」 走り寄ってくるリオン達を、振り返らずに手で制した。 「ミュウツー。主人を失っても、やるの?」 「私がこの世に生まれた理由は、それしかないのだ。忌まわしき運命よ」 「そっか・・」 2、3歩前へ進み、目を閉じるライ。 リントの世界。 大切な仲間達。 そして、大切なヒトを守る為。 ミュウの望みを果たす為に、彼に失敗は許されない。 「ミュウ。みんな。ボクに・・ボクに力を」    続    あとがき シリアス度3割増しでお送りしました、最終決戦X。いかがでしたでしょうか? イルの熱い生きざまと、ライの静かな情熱。Kとしても、非常に印象に残る回となりました。 一応断っておきますが、今回でゼロスは完全消滅しました。もうこれ以上復活しません(爆) フェイトを纏った剣の描写の所で、某テイルズシリーズを意識して『エターナルソード』という名前を出してみましたが、ちょっと突飛ですね(笑) さぁ、いよいよ最終話が近づいて来ましたね。 星の行く末を、是非見届けて下さい。 ではではっ。    次回予告 『キミ』vs『ボク』。 戦いの果てに、彼らが見る夢とは。 第28話「いつまでも(仮)」