『ここは、世界で一番ポケモンが汚されていない場所だからだ。 マサラとは白。汚れなき白、という意味だ』    POKE IN ONLINE2 #28    「イツマデモ」 カームの目の前で、カプセルの中のミュウが光り輝いている。 「まさか・・とは思うが・・」 彼は上を見上げた。 「最終決戦か・・。あいつら・・もう俺の手の届かない所へ行っちまったんだな・・」 少し、悔しかった。 自分が戦いに参加できないこと、分かっていたから。 「ライ、リント・・負けんなよ・・」 「ビィッ・・」 「うそ・・」 星の塔・天辺。 眼前の光景に、レインは思わず呟く。 フェイトに包まれたライの身体が、あの時ラボで見つけたポケモン・・ミュウへと変化を遂げたのだ。 「うそうそ!? どうなってるの!?」 「願い・・じゃないか」 「願い?」 対峙するミュウとミュウツーを見据え言うリオン。 「お前達のグループ名は『Wishstar』・・星に願いを・・だったはずだ。 今、この星のみんなが、星の・・ポケモンの存続を願っている。 願いは力になって、ここに集まったんだ。 夢は待っていても叶わない。だから・・叶える為に」 「リオン・・詩人だね」 「違うだろ」 「ごめんね」 と、ミュウは言った。 小さく、悲しい声で。 ライとも、ミュウともつかない声で。 「ボクのせいだ・・。キミが生まれてしまったのは・・全部ボクのせいだよ・・。 ・・ボクは、ゼロスに騙された。ボクは2つの世界に仲直りして欲しかった・・。そこにつけ入られたんだ。 世界を平和にする。だから力を貸して欲しい・・そう言って来たんだよ! レギスタンを滅ぼす・・なんて気づきもしなかった。 ボクは彼に力を貸した。 そして・・キミが生まれた。ボクのせいだ・・。 だから、ボクが終わらせる。ミュウツー、ボクと戦おう」 「・・フン」 ミュウ、ミュウツー。 両者の身体が、光と闇のエネルギーに包まれた。 「馬鹿者が・・」 「ごめん・・バカだった」 ――バカだった。だから償いをしたかった・・だったんだよね?―― 光と闇が。 激突した。 「ひゃあああ!」 「く・・ッ!」 瀕死のリント、放心状態のリー、そしてレインの3人を、翼を広げてかばうリオン。 背後から叩きつける凄まじいエネルギー波に戦慄し、片目を開けてそちらを振り返る。 光が闇を次第に押し、 やがて視界は白・・ 真っ白に染まって行った。 「帰ろう」 光の中で彼らは、そんな声を聞いた。 「一緒に帰ろう」 マサラとは白。汚れなき白。 つまりは無。 『オリジン』よりさらに原初の次元。 自らの消滅を以て、ミュウは罪を購おうとする。 ――さぁ、マサラへ帰ろう―― 光の中に2匹が飛び去るのが、一瞬見えた気がした。 「ライ!」 光が消えた時、そこにミュウとミュウツーの姿はなかった。 ただ、力を使い果たして倒れるライがいた。 「大丈夫か!」 「ライさん・・!」 「あはは・・」 駆け寄ってくる仲間達に、彼は笑って見せる。 「さすがに疲れたよ・・。でも・」 そして、リントにガッツポーズを決めて見せた。 「約束は守ったよ」 「・・うん。ありがとう・・」 「戦いの最中のこと、あまりよく覚えてないんだ。けど、ミュウツーの攻撃は、なぜかすごく弱かった。恐らく、フルパワーの半分以下・・。 もしかしたら・・ミュウツーは望んでいたのかもしれない・・自分の消滅を・・ね」 間もなく夜が明ける。 新しい日の朝日が、フェイトの漂う荒野を照らし出そうとしている。 「よかった、リントが無事で。これなら・・動かなきゃ何とか町まで持ちそうだね・・」 ライは言った。 悲しそうなリントの瞳を見て、すぐに後悔した。 「こらライ! 状況考えろ〜!」 (断っておくが、これはレインのセリフである) 「あ・・」 レインが指した先に見えたのは、物言わぬイルと、傍らにうずくまるリーの姿。 そう、イルは助からなかった。 「リー・・」 戦いが終わってから、ずっとイルを見つめ続けるリー。 「私・・大丈夫だすよ」 不意に彼女は、そう呟いた。自分の背中側にいるライ達に向かって。 「イル君は死んじゃいました。けど・・彼は私たちを、自分の生命と引き換えに助けてくれたんです。 だから私は精一杯・・これから生きていこうと思います。 イル君にもらった生命、大切に・・使って行くつもりですよ」 「・・そっか・・。そうだね・・」 ――リーさんは強いと思った。もしボクが同じ立場なら・・リントが死んでしまったら・・そう言えるだろうか―― イヤ、イエハシナイ。 「未来の子供達はシアワセだね〜」 普段より一段とハスキーがかった声で、レインが笑った。 「どうして?」 「だってさ、あたいらこんなスゴイ事したわけだヨ。歴史に残っちゃったりするわけだヨ?  そしたら今日この日は『ポケモン記念日』とか言っちゃってさ、フツーに休日になっちゃうわけジャン?」 「そういう事かよ」 半分呆れ、しかしリオンは思う。 「でも、いいアイディアかも知れない。今回の事件を機に、2つの世界のことは世により広く知れ渡る。 世界が2つに分かれた理由、この事件が起こった理由。 オレは・・これは後世に絶対に語り継がないといけない事だと思う。二度と・・二度とこんな事が起こらないように・・な」 「うん・・ボクもそう思う」 「・・わたし・・も」 「よ〜し、決まりッ! じゃあ町に帰ったら、みんなで『ポケモン記念日』作っちゃおうネ! ・・ってわけで、ハイ」 ハイ、と小指を差し出すレイン。 「みんなで一斉指切り」 「みんなで・・? スタイル的に無理があるよ・・」 「輪になって両手使えばOKよん。リーさんも一緒にやりましょ〜!」 「指切りか・・味のある儀式だよね」 「わたしの世界の・・誇りだよ」 指切り。 この悪夢を忘れない為に。 後世へと語り継ぐ為に。 「指切り、げんまん・・」 この戦いに生命を捧げたイルとミュウに報いる為に。 彼らは誓いを交わす。 「ウソついたら、バンギラ・・」 「やめれ」 願わくば、彼らのような優しい心を、世界中のみんなが持ってくれますように。 他人を思いやる心。困難に立ち向かう心を、いつまでも、忘れませんように・・。 あなたも、星に願って下さい。    Fin    あとがき 相当気合い入れて書き上げました、#28。 アップデートに当たっては、さらに気合い入れて直しましたッ! 『Fin』と書きましたが、まだこの後の話がありますからね。 しかし、ホントに終わるんですネ・・としみじみ。 ポケライン2全体を通して見ると、ファイフ到着〜ティール戦前半の辺りはちょっと文章がたるんでるのが残念な所ですが、このラストではその分も取り返そうと頑張ったつもりです。 さて、次の話が正真正銘のラストになります。 どうか見届けて下さい。 ではではっ。    次回予告 最終話〜エピローグ「天使になったキミに(仮)」