POKE IN ONLINE2      Final Episode   「天使になったキミへ」 ぴしっ。 夜明けの空に、そんな嫌な音が響いた。 「『ぴしっ』・・って・・」 何か固いモノにヒビが入ったような・・そんな音。 「・・嫌な予感がする」 「・・あたいも」 「もしかして・・」 傷を押さえて上体を起こし、思い出したようにリントが呟く。 「RPGではおなじみの、決戦後ラストダンジョン崩壊の法則・・!」 「・・マジ?」 瞬間。 5人の立つ床に、大きなヒビが無数に走った。 「冗談じゃねぇぞぉッ!?」 「きゃ!」 咄嗟に近くのリーを抱え、翼を広げて空へ飛び上がるリオン。 「さっきの衝撃で塔が崩れるんだ! 早く飛び上がれ!」 そう。先刻の最終決戦。人智を超えた力のぶつかり合い。 風化した古代の塔には、その波動に耐える強度はもはや残っていなかった。 まるで生きているかののように床が波打ち、崩れ、暗黒の吹き抜けへ落下していく。 屋上の足場は、誰が見てもじきに限界だった。 「どうしよう・・飛行ポケモンはみんな戦闘不能だ・・!」 「あんたはリオンに持ってもらって! あたいはリントを預かるッ!」 レインの翼が輝き、飛行能力を得て飛び立つ。瀕死のリントを担いで。 「ライ!」 レインのワキに抱えられ、リントは彼の名を呼んだ。 「わかってる! すぐ脱出するよ!」 「ちがうの・・! リーさんが・・!」 「・・?」 悲しげに、リオンとリーの方を見やるリント。 理由は、そちらを振り向き、すぐに分かった。 「イル君が・・! イル君がッ!!」 「だめだッ! 間に合わない!」 崩れ行く屋上に、いまだ横たわるイルの亡骸。 リーは彼を、塔の下敷きにはしたくなかったのだ。 「わかった・・ボクにまかせて!」 考えるよりも早く、ライはイルを目指して走り出す。 落ちて行く床パネルを跳び越え、避け、あるいは突破して。 「急げ! 時間がない!」 「ライ、早く〜〜〜ッ!」 空から必死に、仲間達が叫んでいる。 (何かボク、かっこいい・・かも・・) ほんの一瞬、ライの脳裏にそんな自惚れがよぎり、そしてすぐに後悔へと変わってしまった。 「リオン! いいよ!」 「よしッ!」 イルを担ぎ上げ、OKサインを送るライ。 彼を捕まえようと、リーを抱えたまま急接近するリオン。 悲劇は、その時起こった。 「・・うわ!」 塔が、轟音と共に支柱を失い、一気に内側へと崩れ落ち始めたのだ。2人を巻き込んで。 「ライーーーーーーーッ!」 力いっぱいの声を上げるリントの視界に、ふと朝日が飛び込んでくる。 彼女の大好きな星空はもうない。 ゆめは見れない。 新しい日の、朝が始まる。 「・・消えちゃうんだね」 「・・リント?」 「わたしも、この星空とともに・・」 「・・まさか・・リント!!」 レインの手を振り切り、リントは空中へ身を投げ出した。 「リントーーーーッ!」 ――『ライを死なせない。何度も助けられたから、今度はわたしが恩返しする番』―― 天使の翼が空を切り裂く。 リントの気持ちに反応し、彼女の最後の力を使って。 「わたし、今だけ天使になれそうな気がする」 「・・リント!?」 『今だけ天使』リントが、ライとイルを見事にキャッチした。 限界を超えたダメージに息を荒げ。それでもライに心配をかけまいと、優しい笑顔で・・ 「間に・・合った・・ネ・・」 「リント・・ッ!!」 急上昇で塔の崩壊を切り抜け、そして彼女の翼は止まった。 最後の力を、使い果たした。 「ごめん・・ライ・・。約束・・守れないかも・・」 「・・ウソだ・・。ウソだよね・・?」 ライの頬に涙が伝う。 彼自身の流した涙と、リントの落とした涙の雫が。 「わたし、みんなに・・ライに、会えて・・よかった、よ・・」 レイン、リオン、リーが、何も言えずに空を漂い見守る中、2人をつかんだリントの身体が、ゆっくりと地面へ降下していく。 翼は動いてはいないのに。重力から解放されたように・・ゆっくりと・・。光を散らしながら。 ――きっとその時、リントは本当の天使になっていたんだね―― 「ウソだって言ってよ! 死なないでよ、リント! ボクがレインと約束したの覚えてるよね!? ノクタス、飲まされちゃうよ! お願いリント・・死んじゃダメだ!」 「だいじょうぶだよ・・だって・・だってわたしは・・」 天使。 ――だってキミは天使。たとえ今だけでも、ボクにとってキミは、いつまでも―― フェイトの粒が・・ポケモン達の意思が舞い散る中、星の塔は完全な瓦礫と化していった。 【5年後】 「・・着地した時、もうリントは息絶えていた。本当の天使になってしまったんだ・・」 山の向こうに沈む夕陽を見つめ、最後にライはそう言った。 「これが、ポケモン記念日の由来なんだよ」 「素敵だね〜、ライ。実に鮮やかな思い出だったよ〜!」 子供達が帰っていくのと入れ替わりで、レインがひょこっと登場する。 あれから5年。『19歳』になったレインが。 「レイン・・」 「今夜がコンサート本番だってのに、こんなトコでサボっちゃって!」 「大丈夫さ」 悪戯っぽく笑い、OKサインを決めるライ。 「なんてったってボクは、ウィッシュスターのエースですから」 「言っとれ」 「・・レインも一緒にサボらない?」 「・・おっけー」 ライの隣に、レインは腰を下ろした。 「5年・・か・・」 夕陽が沈み、星々が空を彩り始める。 リントが大好きだった・・あの日と変わらない星々が。 「ねぇ、ライ」 唐突に、レインは質問を投げかけた。 「まだリントのこと忘れられない?」 「当たり前だよ」 「・・ミノルは、ガールフレンドが出来たって言ってた。リオンとサキは、一緒に平和に暮らしてる。 リーなんか今度局長に昇進して、ますます大忙しだって言ってたし、チェリーは怪盗を廃業して、家族の所へ引っ越したって。 ティールがなくなって・・ネバーランドの人はみんな、新しい生き方を探してる。ネバーランドの時は、動き出してる。 ・・変わってないの、ライくらいのモンだよ?」 「・・そうさ。ボクはまだ心の中にモヤモヤを抱えてる。 ボクはレインとの約束を守れなかった。リントに『ありがとう』も『守れなくてゴメン』も言えなかった・・。吹っ切れるわけないよ・・」 「そっか・・」 レインが立ち上がる。 「話変わるけど、こないだ遠くの人とトレードしてね〜、本物のノクタスGetしたんだよ!」 「ほ・・本物!?」 「そう! モンスターボール取ってくるから待っててね!」 「う・・うん・・」 まさか本当に飲むのか・・と言いたげに青ざめるライを尻目に、彼女は家へと駆け出した。 「何さ・・ウジウジしちゃって・・!」 煌く星空を見上げ、先刻とは打って変わった、泣きそうな声で呟くレイン。 「リントに会いたいのは、ライだけじゃないってのに・・! あたいだって・・!」 5年前。 星の塔が崩壊したあの時を思い出すと、いつも泣き出したくなる。 「でもリントは戻って来ない・・。生き返らせるなんて・・できないよ・・できないんだよ・・!」 ついに、レインは涙を堪えきれなくなった。 「お星様・・せめて・・せめて1日・・1時間だけでも、リントを生き返らせて下さい・・。言えなかった事、伝えさせて下さい・・!」 夜空の星の1つが、不意にひときわ強く光っていた。 『七夜の願い星』、という名の星が。 「もう1度会って・・伝えられればな・・」 ライも、その場を立ち上がった。 「ノクタス飲みたくないし、もう帰ろっと。公演の準備あるしね・・」 後ろを振り返り、そして彼は言葉を失った。 少女が立っていた。 14歳くらいの幼い顔だち。 ピンク色のワンピース。 赤い上着とバンダナ。茶色の髪。 ライの見知った少女が、真っ直ぐに彼を見詰めて・・。 「・・リント・・?」 それは、天使だったのかも知れない。    Fin    あとがき これで正真正銘ジ・エンドとなりました・・ポケライン2。 ラスト近くのレインの切ないセリフ・・普段と違った彼女の一面が書けて、個人的にはいい感じでしたよ。 全員の『その後』をしっかりと書かなかったのは、けして手抜きではありませぬ。アシカラズ。 最後のリントをどう解釈するかは、前作のはるかぜ同様、皆様に判断を仰ぎます。 また歌を作ろうと途中までは考えていたのですが、結局今回は挫折。 歌・・といえば、ポケスペにおける、金銀クリス編最後の演出にはやられましたね・・(爆) 『忘れかけていた情熱が 笑顔となって心溶かすの』のコマは、とても印象的でしたわい。 と、話がそれたので戻してと。 『星空』をメインテーマにしてお送りしてきたポケライン2も、ついに終了です。 もっと早くジラーチが発表されていたら、迷わずKはこの作品に出しましたね(笑) ちなみにライに対して言ったレインのセリフ、FF]−2を意識したものがひとつあったりしますよ。 ではではっ。 次回作もよろしくお願いします。