【ティール・システムズ4F】 チェリーを3Fに残し上がって来た5人を待っていたのは、またも追っ手の気配のない、ラボのような広い部屋であった。 「・・!」 薄暗い室内。 ネバーランドにあらざるもの・・コンピューター。 緑色の液体に満たされたカプセル。 そんな光景を見たレインは、思わず目を背けた。 「あ・・」 「まさか・・」 それを見て、苦々しげに呟くイル。 いつもの勝ち気な印象を微塵も感じさせない・・恐怖の色を顔に浮かべ、数歩後退するレイン。 「ここだよ・・ティール極秘ラボB層・・ここだよ・・ 間違い無い・・。ここだよッ! あたいが作られたのはッ!」 「奴か・・」 言って、リオンは部屋中に睨みを利かせる。 「出て来いゼロスッ! どこにいるッ!!」 その返事は、予想外に早く帰って来た。 「ここですとも」 と。    POKE IN ONLINE2 #19    「1000年の理の中で」 「ビィィッ!」 カームの頭上に乗ったセレビィが、甲高い鳴き声を上げる。 ティールの建物を見上げて。 「ゼロス・・出たか」 ライ達に片手を振り、カームはすたすたと、ティールの方へと歩き出す。 「カーム!?」 「ちょ・・ちょっと!」 「・・いや」 呼び止めようとしたサキとミノルを止めるライ。 ――分かってた・・いや、勘付いてた。彼を止められない理由があることを―― 「俺は・・」 3人を振り返ることなく、カームが言葉をつないだ。 「どっちかっつうとギャグキャラだったけどさ・・けど・・決着をつけなきゃいけない運命くらいある。 ・・ってことで、じゃな!」 「ビィッ!」 『テレポート』 瞬間、彼の姿は、ライ達の目の前から完全に消失した。 ――決着を・・か―― 「ようこそ皆さん。必ず来ると思って、ふさわしい言葉を一生懸命用意して待っていましたよ」 虚焔同様、天井からフワッと降りて来る男・・ゼロス。 「こっ・・この人! この人が問題の人物ですよッ!」 リーが叫び、無言のままリオンとレインが前へ出た。 リントも、その場から動かず、銃のレーザーサイトをゼロスの額に合わせる。 「ははは・・これは素晴らしい! サンプル諸君が勢揃いですか! ははははッ!!」 「ゼロス・・貴様! オレの妹をなぜ殺したッ!?」 「なっ?」 笑っていたゼロスだったが、リオンの剣幕に少し押された様子を見せる。 「もしや・・ミト嬢のことですか?」 「・・そうだ」 「・・君、彼女のお兄さんでしたか。それは申し訳ないことをしてしまいましたねぇ・・」 「ふざけるなッ!」 刹那、リオンの放った火炎と閃光が、メンバーの視界を真っ白に覆い尽くす。 しばらく目を開けられない中で、リント達は、空気がびりびり震えるのを感じていた。 ・・凄まじいまでの、竜族の魔力。 「くっ・・さすがですねぇ」 目を開けると、部屋は炎上していた。 そして、ゼロスとリオン、レインが対峙していた。 「あんたは・・絶対許さない! あたいの運命・・あんたなんかの自由にさせないッ!」 「ゼロス! ここを貴様の墓にする!」 怒っているのは、この2人だけではない。 (プロト・・) 銃を握るリントの左手が、怒りに震えている。 レインリバーで気絶させられる直前、ゼロスは自分がプロトタイプだと言った。 (わたしは・・作られた・・存在? リントという名前も・・?) リントがリントである証・・『Lint』という名前。 父リックスと、母ジョゼット両者の文字からとってつけられたこの名を、彼女は誇らしく思っていたのに・・ それさえ、ゼロスにつけられた名前・・否、コードネームだというのか? (だと・・したら・・) リントの身体は怒りに、心は不安に・・揺れていた・・ 「僕ばかり一方的に悪者にしないで欲しいですね。ミトは、僕の計画の障害になったのですよ?」 「貴様の計画など、どうせロクな物じゃないッ!」 「神になろうとした・・ミトの・・あの子の痛みに比べれば、アンタの計画なんてッ!」 「愚かな・・いいでしょう。教えてあげましょうか・・フフッ」 不気味な静寂が、辺りを支配する。 部屋は燃え続け、熱気が一行に吹き付ける中・・それに勝る沈黙。 「かつて・・」 そこに響くゼロスの声が、レインリバーの時と同様、周囲から切り取られたかのような空間を作り出す。 「ここネバーランドと、リント・・君のいたレギスタン。2つの世界は1つでした。 散ったドラグーンはポケモンへと姿を変え・・人々は、ポケモンと共に新しい時代を作っていったのです」 「あわわ・・」 スクープメモ片手に、リーが目を回している。 一度に与えられた情報量が少々多かったようだ。 「ところが・・ある時、ヒトは『機械』を作り出してしまった」 機械。 ネバーランドにおいては『厄災をもたらす』と言われているらしい道具。 「機械は確かに優れた道具です。そう・・リント、君の持っている銃も、いわば戦う為の機械と言えます。 フフ・・『ネバーハートM1952』ですか・・随分年代物ですね。 持っているより、ガンマニアに売った方がいいのでは?」 「これは・・お父さんの形見ッ!」 「失礼しました。では、本題に戻りましょう。 優れた機械はやはり、使う為の代償が大きかったのです。 大気が・・海が・・大地が・・緑が次々に汚染されていき・・星の生命は確実に削られていきましたよ。 やがて、ヒトは2つのグループに分かれました。機械によって優れた文明を作り出そうとする者達と、ゆっくりでも星と共に歩もうとする者達・・ 両者の意見はまとまらず、ついに世界は、魔法によって二分されたのですよ。 ・・すなわち、変わろうとするレギスタンと、変わることを拒むネバーランド。 およそ1000年前の話です」 全員、たっぷり3秒は、発する言葉を見つけられなかった。 突然聞かされた真実を、脳内で処理するのに3秒を要したから。 「この星に生きる者の1人として、僕は許せないんですよ。レギスタンの連中の『裏切り』が! だから僕は裁くのです。レギスタンの全てを! 機械に奢った世界全てを浄化するのです! 神の力・・そう、星の塔によってねッ!」 ・・星の塔。 ほとんどのメンバーには分からない単語だった・・が、レインはすぐにハッと来た。 そして・・察してしまった。 自分達が、ゼロスによって作られたその理由を。 「ミトは『光の力で世界を作る』って言ってた・・! ゼロス、あんたはまさか・・!」 「ククククッ・・」 不気味に笑うぜロス。 レインの『不安』が『確信』へと変わる。 「そう! 星の塔の起動に必要な力こそ『光の魔法』! しかし僕にはその力がなかった・・だから作ったんですよ! 長い時をかけて、星から抽出したエネルギーを使ってねッ!」 「あんた・・あんたって奴はあァッ!」 水の力を剣と成し、ゼロスに斬りかかるレイン。 怒りに任せた大振りの一撃を、バリアーを張って防ぎ、なおゼロスは語り続ける。 「光の力は、後天的に与えることはできません。だから、先天的に保有している生命体を作る必要がありました。 まずは・・ちょうどその時このラボのクルーに、子供を身ごもっている人がいましてね、彼女を媒体にして、子に『光』を持たせることに成功しました。プロトタイプ・リントですよ」 「・・ッ・・」 一瞬何かを思い、リントは銃を握る手にさらに力を込めた。 「お母さんがここのクルー!? ウソばかりつかないで!」 「気持ちは分かりますがネェ、事実なんですよ。ついでに言うと君のパパもです」 「あなたが殺したの?」 「当然の報いです。折角の可愛いサンプル・リントを僕から盗んで、このラボを抜けたんですからね・・ まさかレギスタンの方に行っていたとは思わず、探すのに時間がかかりましたがね・・ククク・・」 ・・お父さん・・お母さん・・ ・・わたしに・・そんなこと一言も教えてくれなかった・・ ・・わたしの為を思って? 優しいよ・・優しすぎだよ。 わたしの大好きな・・お父さん、お母さん・・ 「・・!!」 再び、リントの背に、光の翼が羽ばたいた。    続    あとがき コンバンハ、いよいよ本格的に物語の謎が解けて来ました。 チェリーvs虚焔のシーンが入る予定だったのですが、ゼロスのセリフが意外と長引いたので次回になってまする。 いやぁ、相変わらずポケモンの気配が薄いのが痛い所ですが・・ううっ、次回こそッ! ですね。 ではではっ。 もうゲームにたとえるなら、四天王ルームへ踏み込んだ段階まで来てますよ。 ネタバレの嵐に飲み込まれないようにして下さい(笑)    次回予告 ゼロスとの戦い。虚焔の戦い。 そこに登場したポケモンは・・ 第20話「たとえ生命が尽きたとしても(仮)」