行って・・戻って・・行って・・戻って・・ また今度も、行って、戻る。 ・・のかな? 今度はいつもと違うんだよ。 戻っちゃダメだ。 折り返し点の先まで、進まないと・・ ――いつもと違う戦いが、はじまっていくよ―― ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 少女は、この巨大都市に、ただ呆然と立っていた。 なぜ自分がここにいるのかを、ただ一生懸命に考えながら。 車が大群を成して空を飛び、人々は、無数に張り巡らされたパイプリフターの中を移動している。 美しい曲線を描く高層ビル群は、摩天楼のひとつに立つ少女に、真っ赤な夕日を反射させて投げかけ、赤いショートベストの色を際立たせる。 (この町は・・) 彼女にとって、忘れようにも忘れられない都市であった。 ヒトの持てる技術の全てを惜しげなくつぎ込んで創られた、この西暦3625年の時代に存在する都市。 生まれてから10年間を過ごした、少女の故郷。 『メガロポリス・ユーノリア』    POKE IN ONLINE #1    「Find Your Answer」 ベストの下は、淡い緑色のTシャツ。 紫のハーフパンツ。 背中まで伸びた、茶色かかった黒髪は、青色のリボンで巻かれて、ポニーテール。 彼女の服装は、このユーノリア市民の一般的なそれから、大きくかけ離れたものだった。 腰のベルトには、6つのモンスターボールがホールドされている。 少女が、ここではない・・まだポケットモンスターという生命体が存在していた時代にいた、揺るがぬ証拠。 「・・ここはユーノリア!? うそぉ!? ひとみはなんでここにいるの!?」 はっ!  ・・と我に帰り、彼女は取り乱し始める。 1人称から察するに、名前を『ひとみ』というようだ。 「なんで・・この時代に帰って来てるのぉ!? ・・は! そうだ! コレは夢に決まってるわ! そう、夢! だって、ひとみは昨日、Kさんの屋敷で眠ったはずだもんね!」 1人で納得するひとみ。 ・・それでいいんかい。 「ああ、そうさ、ひとみ。ここはお前の記憶が夢に出てきただけの場所だ」 直後、彼女の背後から、そんな声が飛んだ。 振り返れば、そこにいるのは、ひとみとほぼ同年齢と思われる少年。 何となく、スカした感じも受け取れる。 ひとみは・・彼を知っている。 「ラート?」 「当たりだ」 かつての友のひとり、幼なじみの少年・ラート。 「あれから2年か・・どこへ行っていた?」 と、ラート。 夢とは思えぬ現実感。 ・・だけど・・ 「過去に行ってたんだよ! Ka・ko! ラートの知らない世界!」 「ふーん・・」 「あ! その目、信じてない!?」 「別に・・」 2年ぶりなのに、こんなにあっさりした会話なのは、やはり夢世界であるがゆえなのだろうか。 もっとも、明るいひとみと、クールなラートの会話では、現実においてもこうなるのかも知れないが。 「ま・・いいんだけどさ」 ここで、ラートの声が、急に真剣モードとなった。 「ひとみ。お前のやりたいことは、見つけたんだろうな?」 「えっ?」 少しどきっとした。 なぜなら、この言葉は、ひとみにとって、少し特別な意味を持っているから。 「お前は言っていた。『やりたいことが見つからない』と。 それで、剣とか槍とか弓とか銃とか刀とか杖とかボールとかぬいぐるみとか、色々な武器を特訓したが、どれも中途半端でやめて・・」 「うぐ・・」 けっこう痛い。 いや、かなり痛い。 そこを突くなよぅ・・ラート君・・ けれど・・ 「生きる意味を見出せないってことだな」 けれど・・ 今なら、自信を持って言える。 「ちがうもん!」 ・・って。 「ひとみは、コレに人生を賭けることに決めた! もう迷わない!」 言って、ひとみはベルトからモンスターボールを取り、ラートに突き出して見せた。 「・・なんだコレ?」 「モンスターボールに決まってるじゃないのーー! 何ボケてんの?」 「ボケてない。だから、それが何だと聞いているんだ」 あ・・ そうか・・ この時代には・・ ポケモン、いないんだね。 「ポケットモンスターだよ! このボールの中に入ってるの!」 「ふーん・・あのポケットモンスターが・・ 過去に行ったってのも、あながちウソでもなさそうだな」 「ホントに行ったんだってばぁー!」 「ま、いい。 とにかく、それに人生賭けるってなら・・」 ラートはしばしの間を置いた後、夕暮れの空へと視線を移し、指差す。 「あれを倒してみろ」 「あれって?」 つられて見上げるひとみ。 そして、驚愕する。 はるか天空から、巨大な光の渦が、まっすぐに、このユーノリアへ突っ込んで来るのだ。 「ひゃあっ! あいつは・・」 「『星狩り』だろう。宇宙を駆け巡り、生命体のいる星を無差別に襲って破壊する、生物とも自然現象ともつかないヤツ」 「そうそう、『星狩り』・・って、えぇ!? ラート、何であんたがそんなコト知ってんのぉ!?」 「なぜならここは、お前の夢の中。お前の記憶を元に作られた、イメージの世界」 「あ。そーだったね」 (そーいえば、ここって夢の中だったよね。でも・・だからって、こんな色々出てこなくてもいいじゃなーい!) しかも、ラートがすごくキザ。 現実でもこんなモンだけど。 でも・・ 「見せてもらおうか、ひとみ。お前の選択と、決定を。 やりたいこと・・生きる意味を見つけたお前は、どう変わったか。 その答えを、俺の前で見せてもらう!」 「のぞむところよ!」 モンスターボールを両手に構え、ひとみは『星狩り』と対峙した。 (ラート・・悪いけど、ひとみは昔と同じじゃないよ!)    続    あとがき 祝・2003年6月期強化月刊作品選出! ・・って、5/31時点でまだプロローグしかアップされてないッ!! よくランダムジャンプで選ばれたモンです(汗) というわけで、急いでアップ作業中です。 どうでしたでしょうか? 初回は、ひとみという人物を知る手がかりを、ひとみの夢の中の出来事という形で描いてみたんですが。 キャラメイキングの『何がやりたいのか、よく分からない子です』の文章が、こんなんなってしまうとは・・(爆) さてさて、次回はショウ登場! ではでは。    次回予告 目覚めたひとみのいた場所。 それは『地図にない町』・・ 第2話「物語開始(仮)」