『地図にない町』 文字通り、小さすぎて地図にも載っていない小さな村。 『私』がここへ来たのは、何度目になるんだろうか? そんなことは分かるはずないね。 またいつか、『私』がここを訪れる・・ 今回はそうはさせるものかっ。 今度こそ、無意味な往復はおしまいにするんだっ! 今度こそ・・ 今度こそは・・ ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 『親愛なるユリハへ。 君が大好きだったこの星。君が大好きだったこの場所で、安らかに眠って下さい。 2010/6/25 Yue・K』 その墓石には、そう記されていた。 「ユリハ・・って、誰だろう?」 それを読みながら、少年は独り、ぽつりとつぶやく。 自分や『あいつが』幼い頃によく遊びまわった、綺麗な森の中。 その中でもひときわ美しく、神秘的な、色とりどりの草木に囲まれた広場に、かつて無かったはずの、誰かの墓が立てられている。 やわらかな日差しと、心地よいそよ風が最もよく当たる、最高のポイントに・・    POKE IN ONLINE #2    「少年の故郷にて」 かざんポケモン・バクフーンが、広場を所狭しと遊びまわっている。 「久しぶりだよね、ラック」 ここは、少年のバクフーン・・ラックの故郷なのだ。 本当なら、少年自身も、同様に走り回ってみたりするはずである。 が、その時の彼は、少なくともそんな気分ではなかった。 この最高の場所に、静かに立っている墓が原因だ。 とにかく不思議な気持ちだった。 彼は、この墓の主である、ユリハという人物は知らない。 2年前に旅立った時に、ここに墓は無かった。 証拠は、刻まれているメッセージ。 ごく最近の日付が記されている。 そして、『親愛なるユリハへ』から始まる、短いながら心のこもった言葉。 最後に・・ 「Yue・K・・Kのサインだ」 ユウ・K。 少年のよく知る人物の名である。 この土地を所有する、村1番の金持ちの息子だ。 ばさっとした黒髪。 淡い青色のGジャン。 ベージュのズボン。 右手に装着したポケモンギア・・通称ポケギア。 青い大きなリュック。 優しく、時に鋭く光る大きな瞳。 そんな外見を持ったこの少年を、近辺地域で知らぬ者はいないと断言してよい。 第47回ポケモンリーグチャンピオン・・ ショウ。 今、最も有名なポケモントレーナー。 ――ラック! 『バーストウインド』! ――そこだっ! ギラス! 『マウンテンクラッシュ』! 彼の見せた、華麗なポケモン裁き。 炎が燃えて、風が舞い、鳴き声とどろくあのバトル・・ポケモンリーグ決勝戦・・は、群衆を酔わせ、ひとときの夢にひたらせた。 試合後、彼らは口を揃え、こう言うのだ。 「ショウこそ、ポケモンの未来を担うトレーナーだ!」と。 「おはよー! ショウ、早いねー」 そんな声・・明るい少女の声・・で、少年・・ショウはふと我に帰る。 後方を振り向けば、少女が1人。 彼の旅の相棒・ひとみだ。 右足に草鞋(ワラジ)、左足にビーチサンダルを履いている所から察するに、まだ寝ぼけが抜けていないらしい。 彼女は『ワラジとサンダル履こう教』には入っていないはずだし。 面白いので、ショウはあえて突っ込まないことにした。 「あ・・ひとみ、おはよう」 笑いをこらえて平常心で振舞う。 「ずいぶんよく寝てたじゃん? もう10時だぜ」 「だーって! ヘンな夢見ちゃってさあ!」 ヘンな夢・・ねぇ。 あの有名なポケモン企業『ポケアーツ』のドン・ミスタータカマサの腹踊りを想像するショウ。 実際の所どんな夢を見たのか、かなり気になる。 「・・ん?」 セリフを止め、ひとみは、ショウの横の墓に目をやった。 「お墓?」 「だよな」 「へぇー、こんなステキな場所に立ってるなんて、神秘的だねぇ〜。 んーっと・・どりどり・・『親愛なるユリハへ。君が大好きだったこの星、君が大好きだったこの場所で、安らかに眠って下さい。 2010/6/25 Yue・K』・・って・・これ書いた人が、ショウの言うKさん?」 「ああ、間違いないよ」 「へー、優しそうな人だねー」 「ああ・・」 全く! どこ行っちゃったんだよK! ショウは考える。 2年前の旅立ちの日、最後に見たKは、いつも通りフレンドリーに接してくれた。 あの時言われた言葉が、彼の脳に蘇る。 『ポケモンマスターになったら、真っ先に俺の所へ伝えに来いよ!』 もう・・ ちゃんと伝えに来たっちゅーに・・ もはや地図上に存在しない程に小さく、のどかな村『地図にない町』にあるK家の屋敷に。 両親に関する記憶が無く、この家に拾われて、家族同然で育てられたショウにとって、ここは、広い世界でたった1つの、帰るべき場所なのである。 ちゃんと伝えに来たっちゅーに・・ 2年で、屋敷は変わっていた。 お兄さんのように接してくれたKも、優しかったKの家族も、いなくなっていた。 ずいぶん前からそんな状態になっていたらしく、建物はホコリだらけ、雑草もかなりの背丈となっていた。 が、かつてのKの部屋と、その付近だけは、つい最近まで人がいた気配があった。 そして、ここに立つ墓。 Kはこの墓を立ててから、屋敷を去ったのだと、すぐにショウは理解できた。 「折角帰って来たってのに・・あーあ、こりゃ、ひどいな」 とりあえず、いつもと変わらぬ口調でそう言っておく。 内心すごくショックだったのを、ひとみに悟られないためだ・・    続    あとがき ポケラインの#2、いかがでしたでしょうか? 今回は、野郎軍団で最も主人公に近い、カームさん扮する(違)ショウの初登場でした。 前回のひとみと同様、まずはショウを理解してもらいたい構成をとったつもりですが・・多分失敗かも・・(爆) で『ワラジとサンダル履こう教』は、ポケライン世界の新興宗教の1つです。どんな奴らかは皆さんの想像に委ねます(笑)。 ではでは。    次回予告 のどかな地『地図にない町』 ショウとひとみの、新しい1日が始まる。 第3話「ポケモンマスターであること(仮)」