チャンピオン・ショウの名声が響き渡る地域一帯でも、圧倒的な規模を誇る大都会ヒューン。 世界でも知らぬ者のない、超巨大ポケモン企業『ポケアーツ』の本社ビルは、このシティの一等地に、123階建てという高さでそびえ立つ。 男は、そのビルの122階・・社長室・・にいた。 そこら辺のショップでセールで売っていそうな背広に身を包んだ、30代くらいの、どちらかといえば小柄な男。 彼は、1枚の写真を見ていた。 写っているのは、どこからどう、誰が見ても家族としか見えぬ、2人の若い男女と、1人の小さな少女。幸せそうな姿が刻まれた、もの言わぬ写真。 「・・ふう」 小さなため息をもらし、彼は写真を、元あったスタンドへと戻す。 そして、ポケモンギアのスイッチを入れる。 「もしもし・・はるかぜ。私だ・・タカマサだ・・」    POKE IN ONLINE #5    「運命の挑戦者」 「あっ、ごめん。また後で」 応答し、ポケギアを切るはるかぜ。 もちろんだが、はるかぜの側にいたショウ達には、彼女への着信が誰からのものであるのか分かっていない。 むしろそれより、現在彼らに訪れていた状況は大変なものであった。 「んー、戦う気満々って感じだねぇ」 「・・だよなぁ」 サイドンが去った数十秒後、一行の前に、新たなポケモンが、風のようにさっそうと現れたのだ。 ショウやひとみ達より、ふたまわり以上は大きな、4本足のポケモン。 言葉ではとても説明しがたい奇異な外見を持っているが、あえて特徴をあげるならば・・ 背中に、雨雲もしくは雷雲を集束させたような気体の塊をまとい、 尾は、電光の軌跡のごとく、青白く発光している。 ひと目で電気ポケモンとは判断できる。 ・・が、彼(?)は、そこいらの電気ポケモンが到底持ち得ない、凄まじいまでの威圧感を放っていた。 「まるで雷の皇帝・・。じゃ『ライコウ』って呼ぼうか」 「でぃぐ♪」 「お! それかっこいー! オレもライコウって呼ぼう!」 「んじゃ、ひとみは『ジョニー』って呼ぶね!」 以後、便宜上、小説本文においては、このポケモンを『ライコウ』と表記することにする。 「ジョニー♪ ジョニー♪」 ひとみがそう言うや否や、ジョニー・・もとい、ライコウは飛んだ。 否、強靭な足腰を最大限に利用し、空中へジャンプしたのだ。 そのまま空中から、間髪を入れずに、無数の雷の矢を発射する。 「ギラスっ!」 叫び、ボールを開くショウ。 登場したバンギラスの背中にさっと入る。 ひとみと、はるかぜも。 バンギラスに、恐ろしい電撃の盾になってもらう。 電気を受け付けない、鉱物状の皮膚を持つポケモンならではの荒防御だ。 「ふーう、危ねぇ・・何なんだ、あのポケモンは!?」 「・・なんだかんだと聞かれたら、答えてあげるが世の情け・・」 はるかぜがボソボソとつぶやいているが、んなモン誰も聞いちゃねぇ。 「とにかく・・」 ショウは、先刻のサイドン同様、ライコウと会話することを試みた。 バンギラスに守られつつ、精神を集中させ、ライコウへアプローチをかける。 「いっくぞー! まぐ!」 「あっ・・ちょっと・・ひとみサーン!!」 精神統一が96%完了した辺りで、ひとみが戦闘に飛び出して行く声と音が、かすかに耳に入った。 ・・聞かなかったことにしておこう。 自身の心を無の境地に至らせ・・という表現が正しいのかどうかは分からないが、とにかくそのような状態となり、ショウはライコウの心を読み取ろうとする。 が・・ ・・読めない。 (そんなバカな・・このオレが・・?) 読めないことなんて・・ありえない。 もう1度、呼吸を整え、チャレンジしてみる。 が・・ ・・やはり読めない。 断片的にすら伝わって来ない。 「バカな!?」 思わずショウが声に出した。 ・・その時だ。 「お〜〜い! もういいぞぉ♪」 ひとみの声。 同時に、肩をポンポン叩かれた。 見れば、ちょっとケガを負った彼女の右手には、スピードボールがひとつ。 「まさか・・ひとみ・・」 「そっ。ジョニー、ゲットしたよーん!」 「うん。ひとみサンの活躍、すごかった」 ・・なんだ・・捕まえてたの・・ どうりで、読めないわけだ。 こけているショウに、ひとみはスピードボールを差し出した。 「ショウにあげるよ」 「・・え? いいの?」 「うん。ひとみはさー、もうカワイイチームが完成してるからね!」 ・・ライコウ、ゲット! と同時に、ポケモンリーグ準優勝・ひとみの実力を改めて見せつけられたショウであった。 「ライコウ・・こいつも・・何か人間に恨みがあったのかな・・オレで、それ、受け止めてやれないかな・・」 「・・来る」 唐突に、電波でもとらえたかのように、はるかぜがつぶやいた。 「え?」 「来る・・って、何が?」 「大きな・・何か、とてつもなく大きな『イレギュラー』・・」 「でぃぐ?」 ・・刹那。 ショウ、ひとみ、はるかぜ。 3人の立ち位置を結んだ三角形の中心点に、さらにもう1匹のポケモンが登場したのだ。 ライコウより、さらに速く・・登場がほとんど見えなかった・・、さらにまがまがしい気を放ちながら。 そいつは、骨格的には人間とほぼ同じ形態であった。 身長は、目測で約2メートル。 ホモ・サピエンス(人間)との相違点はいくつかある。 両手両足の、ヒトで言うところの指は、5本ではなく3本。 手の指は、先端が球状となっている。 後頭部と背中をつなぐ、パイプのような器官。 たくましそうな尾。 そして、体表面の、毒々しい・・いや、むしろ、神秘的な淡い紫色。 深い・・深い、緑の瞳。 「ミュ・・ウ・・なの?」 ・・無意識のうち、はるかぜは再びつぶやいていた。    続    あとがき ポケライン、5話達成! 今回は全体にシリアス色が濃かったですね。 まぁ、ライコウやミュウツー、Mr.タカマサといったキャストでは、ヘタにギャグには傾けられませんね。 ではでは。    次回予告 謎のポケモンはショウに語る。 生きること・・そして・・ 第6話「真・運命の挑戦者(仮)」