――ミュウ。 名前しか知らないそのポケモン・・否、ポケモンなのかどうかすら、正直言って怪しい・・が、俺の人生を変えたと言っても過言ではない。 その名前が頭から離れたことなど、あの日以来1度だってない。 俺と、ユリハ。 まだ、この世界でたった2人にしかその名を知られてはいない存在。 単なる好奇心以上に、今の俺は、ミュウを見つけることに対し、なかば意地になっているのかも知れなかった。 ・・天国のユリハに、見ていて欲しい。 ・・今度こそ・・    POKE IN ONLINE #6    「ユメミシモノドモ」 数人の人間と2匹のポケモンが、森の中を進んでいる。 『地図にない町』から南・・内陸部の広範囲に広がる深い深い森だ。 「レア、レア〜」 「そっちに反応ありか・・サンキュー、イプシロン」 少年が1人と、少女が2人。そして、モンスターボールから出た状態で彼らと行動を共にするレアコイルとライチュウ。 「この先は・・霧か」 レアコイルの示した方向は、白い霧が立ち込めていた。 (もっとも、霧自体は、この森では別段珍しい自然現象ではないのではあるが) それを正視し、呟く少年。 16〜17歳くらいのようである。 身に付けているジャケットやジーパン、ブーツはいずれも黒系の配色でまとめられており、無造作に伸びて所々トゲついた茶髪の間から漆黒の瞳がのぞく。 まるで死神のような・・というよりは、怪しい男といった形容の方がぴったりだろう。 「KKKKKKKKKKKKー! ぼく、おなかすいたーーーーっ!」 刹那、少年の背後から、2人の少女のうちの1人が大声を張り上げる。 左前髪が強烈なクセ毛となってハネている銀髪のポニーテール。 黄色の長いマフラー。 下はスパッツ、その上から、前部にスリットの入ったミニスカートという出で立ちの、10歳前後っぽい、青い瞳の少女だ。 「みゅーっ!! スミレ、もう少しガマンガマン! 後でKがねぇ、喫茶『生き地獄』で『地獄パフェ200輪廻DX』おごってくれるよ!」 で、その少女・・スミレと呼ばれた・・を明るいテンションでなだめるもう1人の少女。 スミレより明らかに年上。160センチはある。 顔だちなどから総合的に判断すると、13〜14歳であろうか。 コバルトブルーのTシャツに、水色カプリパンツ。ショートの黒髪。 そばにはライチュウがついている。 「えーっ! オリサ、本当っ!?」 「もちもちィ! 今まで私がウソウソなんてついたことはー!?」 「多分なーいっ!」 「そうそう! 一緒におごってもらうにょっ!」 「わああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁい!」 手を取り合い、歓声をあげ、ジャンプして小躍りしつつ、トリプルアクセルまで決めて喜び合うスミレと、その少女・・オリサ。 勝手におごらされることとなった少年・・どうもKと呼ばれてるようである・・にとっちゃあ、この上なく迷惑な話だ。 「・・行くぞ?」 「はいは〜い♪」 「りょ〜か〜いりょ〜か〜い!」 「らいちゅ〜!」 Kの合図で、ハイテンションのまま、先見えぬ霧の中へと入っていく少女達。 「・・また・・カード売らないと・・か」 残されたポケモンカードコレクター・Kのつぶやきなど、当然聞いているはずもなかった。 「・・静かだねぇ」 「そうだな」 霧の中は、どことなく不思議な空間のような感じがした。 普段ならばガサガサとひっきりなしに活動する野生ポケモン達の姿が、視界内に全く無い。 気配はする。が、姿がない。 「んー・・きっと、Kの見た目が怖いからみんな逃げちゃったんだ!」 「ぼくもそう思う!」 その事実に対し、オリサとスミレの提示した仮説は、かなり無理矢理なような気がするが。 一方、K、彼はまた別の、ある仮説を立てていたのは、また別の話である。 (まさか・・いや、そんなことはないか・・) 「ところで・・」 仮説を振り払い、Kはスミレを一瞥した。 「それ、腹の足しになってるのか?」 「えーっ? 結構甘いよー、この霧!」 ・・そうなのだ。 食い意地の張ったスミレと来たら、霧をも食べようとしている! 「みゅーっ! 後で地獄パフェが待ってるから、アホしないのー! 恥っずいんだから!」 (いつ・・俺がおごると・・? ハァ・・) 彼女達と行動を共にするようになって以来、サイフの中身がずっと厳しいKなのであった。 それでも彼が、パーティを解散したりすることなく、この2人を仲間として行動するのは、サイフ以上に、深い『仲間』としての関係を認めているからなのであろうが。 そして、オリサとスミレもまた。 ・・と、その時だ。 Kの感覚が、誰かの『声』をとらえたのは。 ――来るなッ! こっちへ来るな・・! ・・確かに、そう、彼に語りかけていた。 「・・オリサ、スミレ」 数秒、間を置き、Kは正面を見据えたまま、2人に声をかける。 「んー?」 「うみゅっ?」 「・・この霧は、誰かが意図的に・・侵入者を妨害する為に発生させているようだ。 そして、そいつは俺達に、これ以上来るなと言っている。さあ、どうする?」 ・・返事が返って来るまでは、数秒とかからなかった。 「でも、行くにょっ! ちゃんと、知りたいもんねっ!」 「じゃ、ぼくも!」 2人の返答を確認し、レアコイルに目をやるK。 レーダーは相変わらず、霧の向こうを指している。 (考えるまでも・・なかったな) 「それじゃあ!」 「フラット!」 オリサ、スミレが口を揃え、モンスターボールを開いた。 中身のポケモンは、共に、げっこうポケモン・ブラッキー。 「さあさあ、ごいっしょにぃ!」 「『くろいきり』っ!」    続    あとがき ポケライン#6! ショウ編を盛り上げるだけ盛り上げといて、いきなりK編(爆) K、オリサ、スミレ初登場ですねぃ。 おかげでポケモンの出番がなかった・・ まぁ、導入編と思って読んで頂ければ幸いです。 ではではっ。 しっかし、アップデートに当たって見直してみると、予想以上にきっちりと作られてるなと思ってびっくりです。 ・・そういやポケライン2では、あんまりギャグを入れてないなぁ・・ というわけで、ポケライン3への課題と致しましたKですわ。    自戒・・もとい、次回予告 打ち破られし迷いの霧。 守られしものは神秘の泉・・ 第7話「水に守られし死神」 ↑誰が次に出てくるのかバレバレだ(汗)