霧が消え去ったことで、一行は周囲の状況を理解する。 ・・彼らの進行方向には、小さな泉があった。 まるでクリスタルのかけらのように、美しく神秘的な飛沫を飛ばす泉。 辺りの木々に飛散して、キラキラと輝いている。 「うみゅーっ・・」 「きれーい」 たまらず、オリサとスミレがもらす。 泉の中央には、さらに幻想的な光景が広がっていた。 噴水のように湧き出す水が、半球体のドームを形作っており、その中に守られるように、誰か・・人間が横たわっている。 「・・」 無言のまま、泉に近寄るK。 あわてて、それに続くオリサとスミレ。 瞬間。 彼らの前に1匹のムウマが姿を現した。    POKE IN ONLINE #7    「人間の犠牲・ケース2」 「これ以上・・近づくなっていうのか?」 Kの問いに、ムウマはうなずいて見せた。 「喫茶『ポケライン』の『出演希望パフェ』でもダメかな・・」 言いかけ、ふと横を向いたオリサとスミレは、すぐに次のセリフを発することとなる。 「・・Kっ!」 「見るにょーーーーーっ!」 後方から飛ぶ、2人の声。 振り向けば、一行はいつの間にか、ゲンガー、ブラッキー、ヘルガー、ヤミカラス、そして、ムウマの5匹に包囲されていた。 皆、敵意100%。 その人に近づくな!  と、言っているかのように・・ 「みんな・・あの人、守りたいんだね?」 と、スミレ。 そろってうなずく5匹。 ・・水の中にいるのは、少女であった。 11歳くらい・・ではあろうが、漆黒のローブと長髪が、彼女をもっと大人びて見せている。 瞳は閉じられているが、死んではいないと直感でわかる。 恐らく・・いや、確実に、ムウマ達のトレーナーだ。 「・・死神か」 ぽつりと、Kが言った。 「みゅーっ!? そんなん、本当にいるワケないにょー!」 「ぼくもそう思う!」 反論を喰らうKだったが、これ以上は喋らなかった。 ・・と思ったら・・ 「どうする?」 唐突にオリサ達に振って来る。 かなり話しづらい性格だ。 よく言えばクール。 必要事項以外、なかなか喋らない。 内面に干渉されることを避けているようにも感じられる。 実際、オリサやスミレと現在の関係になるまででも、それなりの時間を要していた。 まあ、その話はさておいて・・ 「この人、幸せだね。こんなに・・守ってもらえてる」 これ以上近づいたら攻撃すると言わんばかりのムウマ達を見回し、誰にでもなく言うオリサ。 「・・確かに、今どき珍しい。ポケモン達がここまでして守ろうとするトレーナーなんてな」 「それよりこの人、病院に運んだ方がいいよー! で、その帰りに、喫茶『生き地獄』!」 「みゅぅぅ・・確かに、病院に運んだ方がいいかなぁ・・?」 しばし、一行は考える。 この少女をこのままここに放っておいても、意識が戻る気配はない。 かといって、助けようにも、彼女のポケモン達がそれを許さない。 「・・人間に・・やられたんだね?」 「・・人間に・・やられたんだね?」 オリサとスミレの声が重なった。 そうとしか考えられない。 現状となるまでの間に、少女の身に何があったのかは、オリサ達が知る術などない。 だが、人間を激しく拒否する彼女のポケモン達の姿は、過去に少女が人間によって何らかの危害を加えられたということを、暗に示していた。 「ぼくらに敵意はないよー!」 モンスターボールを地面に置いて、スミレは両手を上げて見せる。 その姿を見て、オリサもまたライチュウを戻し、同様にボールを置く。 ついでに、Kのベルトから、素早くモンスターボールを引っぺがし、レアコイルも戻す。 が、それでもなおムウマ達は攻撃の構えを解かない。 「・・信用ないな。じゃあ、帰るか」 「待った待ったぁーー!」 「この人でなしぃーー! 心無しィ〜! オニ、アクマ!」 くるりと向きを変え、元来た方向に戻ろうとしたKの服の首を、オリサとスミレが同時に引っ張った。 「・・ぐげっ・・!」 「ちゃんと、シティの病院まで運んだ方がいいにょっ!」 「ぼくもそう思う!」 「・・わかったよ・・」 しぶしぶ向き直り、泉へ足を進めるK。 ムウマ達との間の緊張が一気に高まる。 「ねっ、分かってよ・・私たち、敵じゃないんだにょ・・」 「助けたいんだよぅー!」 オリサとスミレの必死の説得。 それが効いたのであろうか、彼らは互いに顔を見合わせ、攻撃の構えを解いた。 一行のここまでのやりとりで、本当に敵意がないということを分かってくれたのかも知れない。 「人間って・・ひどい奴だね」 スミレの言葉は、オリサやKの心に、ずっと後までとどまり続けた。 ざば・・ざば・・ざば・・ 泉は、大きさの割にかなり深く、170センチ強のKの胸くらいまでの水深を有していた。 「がんばれー!」 「がんばれー!」 岸辺で応援を送るオリサとスミレ。 (俺がびしょ濡れになる役か・・ハァ・・) 不満をあえて口に出さず、Kは少女の元へとたどり着いた。 ドームに両手を突っ込み、彼女を抱きかかえようとする。 ・・刹那。 少女が目を開いた。 Kの姿を確認したその漆黒の瞳は、一瞬で、大きく見開かれる。 「〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜っっ!!」 同時に放たれる叫び声。 水中なので、実際には泡がブクブクと発生するだけだが、恐怖におびえきっていたのは容易に分かった。 そして、次の瞬間であった。 「・・なッ・・!?」 少女のかざした手から、水がカッター弾となって飛び、Kに斬りかかったのは。 「・・!!!!!」 「Kッ!」 透き通った泉の水が、赤く染まっていく・・   続       あとがき Kが死んじゃうのーアンビリーバボー!? な感じの、ポケライン#7でありました。 謎の少女・・そう、リコは、本来こんなことする人じゃないんですが。 今回は、とある理由により、恐怖におびえきっていたというコトで(爆) ではでは。    次回予告 倒れたKと、目覚めた少女。 そして、森は悪夢に染まりゆく・・ 第8話「死神の舞踏(仮)」