・・シャン! 透き通った鈴のような音を響かせ、青い光・・否、水のカッター弾が、女性めがけ襲い掛かった。 「・・!!」 炎がかき消され、彼女の手に血が滲む。 K、オリサ、スミレの3人は、カッターの飛んだ方向を振り返った。 ・・リコ。 「あんたなんかに・・負けないッ! サリア!」 かすかに震え、けれどしっかりとした声で言い放つリコ。 手には、先刻女性が見せつけた物とは対照的な水の鎌が握られていた。 「サリアって・・やっぱり・・」 そう。 リコの母親の名が、サリア。 リコ本人の口から聞いている事実・・    POKE IN ONLINE #10    「君がここに生きた証」 「うわああああああッ!」 叫び、誰もが予想すらしなかった高速でリコはサリアに斬りかかった。 斬撃。 同時に、光が弾け飛び、それを浴びたK達の武器も、青白い、神秘的な輝きを放つ。 「オ・・ノ・・レ!」 来る。 一撃必殺の力を秘める、サリアの炎の鎌。 「うおおおっ!」 キィン! それを、Kの剣が、彼女の手を斬りつけつつ払い落とした。 続いてスミレのリボンに巻き取られ、オリサのナイフで破壊される。 リコの光を浴びた武器は、それまですり抜けるだけだったサリアに、効いている。 狂ったサリアの顔に、初めて生じる焦り。 「負けない・・あんたなんかに・・!」 それは、いつの間にか、娘が自分を超えていることに気付いたがゆえの恐れだったのかも知れない。 かつて持ち得なかった『仲間』の力があることに気付いたがゆえの動揺だったのかも知れない。 「・・さよなら・・」 輝くリコの鎌が、深々とサリアの心臓に突き刺さる。 「・・お母さん」 急速に、サリアの身体は大気へと溶けて、消えていった・・ それから・・ 彼らは、犠牲になったポケモン達の為に祈った。 「天国・・行けたかなぁ?」 「さあね・・私には、彼らの生命が星に還って行く所までしか感じ取れないわ」 「・・」 Kも、オリサも、スミレも、 落ち着きを取り戻したリコも。 それぞれに、様々な想いがあっただろう。 燃えゆく森の中、皆がしばし無言で立ち尽くした。 火にまかれ、逃げ場を失ったポケモン達が、次第に一行の元へと集まって来る。 ・・仲間達の変わり果てた姿を確認し、4人におびえながら。 ――人間って・・人間ってこんなひどいことするヤツらだけなの!? 「違う」 ポケモンの心の声を聞いたのか。 あるいは悟ったのか。 Kはポツリと言った。 「それが全部じゃない。紙一重で『一部』って所か」 次に、少しだけ笑って見せた。 「みんな」 「みゅ。分かってる!」 「火事を消しに行こう!」 「フフフ・・私の魔法も必要かしらね・・フフフッ・・」 4人のポケモンと魔法。 ありったけの力で、炎を水で覆い尽くし、光るしぶきが飛んだ時・・ 場のポケモン達は、初めて彼らを信用した。 「リューっ!」 「キューイ!」 「ハクウィー!」 「フラットぉ!」 沢山の、森のポケモン達に見守られ、元気になったハクリューとブラッキーは、それぞれのトレーナーとかたく抱き合った。 サリアを倒したお礼か、火事消火のお礼かは分からないが、ポケモン達は、秘密の方法で、ケガをした仲間達と一緒に、2匹の治療をしてくれたのだ。 「『森のみんなへ・・二度と悲劇は繰り返しません。だから、この地で安らかに眠って下さい・・』」 お祭り騒ぎのオリサ達から、少し離れた場所では、Kがいた。 さっき作ったばかりの、星へ還って行った者達の墓。 そこに刻んだ文を読み返し、彼はドサッと地面に座った。 と、 隣に1匹のナゾノクサが、てこてこ歩いてやって来る。 「ナゾ、ナゾ〜?」 意味は、彼なら分かる。 『死んでいった仲間達は、悲しいけど、自然に星へ還る。それなのに、どうして人間はそーいうの作るの?』 だ。 「それはな・・」 少し考え、Kは続けた。 「死んでしまったお前達の仲間が、確かに生きていた証だ。 人間は、そうやって、いなくなった奴を自分の中に残し、取り込み、受け止めるんだ」 「ナゾ・・」 てってってっ・・と去っていったナゾノクサ。 入れ替わりに、今度はリコが登場した。 「フフ・・」 相変わらずの笑いを浮かべ、Kの隣に腰を下ろす。 「リコか・・」 「ありがとう」 「はぁ?」 「・・あなた達、一緒にサリアと戦ってくれたから」 「・・そうか」 無口な2人だけあって、かなりギクシャクした会話。 しばし、2人は無言のまま、オリサ達の方を見つめた。 「フフ・・私、決めたわ」 やがて、リコの方から言葉を紡ぐ。 「あなた達について行っていいかしら? 私、お父さんに会いたいの」 「別に構わないが・・」 ここで一瞬言葉を詰まらせたK。 その真意を見抜き、リコは続けた。 「フフ・・分かってるわ・・ウフフフフ・・」 「・・怪しい・・ごっつぅ怪しい・・」 ヒューンの北東に広がる霧の森。 火事の跡が残るその一角に、以後、小さな墓の存在が伝えられる。 『森のみんなへ  二度と悲劇は繰り返しません。  だから、この地で安らかに眠って下さい。            2010/7/10             Yue,Orisa,Smire&Ricco』 ここに眠るポケモン達が、その日まで確かに、森に生きた証。 ここであった悲劇を、後世へ伝えるしるし・・ ――ユリハ・・。今回は、ミュウどころじゃなかった・・けど、もう少しだけ・・待っててくれるか・・?――    続    あとがき どうっすか!? #10。 読者の皆様の予想を、いい意味で裏切る展開を考えたんですが。 サリアの最期でリコが言った「・・お母さん」は、サリアとの別れにあたって、リコの目にも涙といった感じを出したかったんです。 この時点では、サリアがここに登場した経緯がまだ分かりませんネ。 ま、それはともかく。 ポケモンと人間の価値観の違いってのは、前からやってみたかったテーマですし、Kの言ったセリフで伏線張れますので、今回入れてみたのでした。 まぁ、本当にポケモンがああいう価値観を持っているのかというツッコミは厳禁です(汗) ではでは。 次回からショウ編にカムバック予定っス。    次回予告 ショウの前に現れた新たなる相手。 互いに力をぶつけ合う時が来た。 第11話「受け止める者としての役目(仮)」