3人の振り向いた先に、少女が1人。 先端のカールした、肩くらいまでの茶髪に、あらゆる色が秘められた、虹色のカッターシャツに、星模様のデニムパンツという風貌の少女。 年齢的には、12歳前後か? それにしても、その瞳は、血のように赤い。 「みゅ! もしかしてこの人が・・」 「ミュウ・・」 「・・そうだ」 ――人間なんて・・出て行って! 空間が歪み、同時に、3人の精神に直接声が飛び込む。 彼女のものと見て、ほぼ間違いない声。 強力な念力・・エスパーの力。 ポケモンバトルをかじったことのある人間ならば、すぐに察することができるだろう。 「・・7年・・待ったぞ・・」 Kはモンスターボールを構え、声高らかに叫んだ。 「ミュウ!!」    POKE IN ONLINE #15    「ミュウであり、ヒトであること」 「レジュアス!」 ボールから飛び出したKのフシギバナが攻撃を始める。 もちろん、相手にまともに命中するはずもない。 「ひっ・・1人は無茶だよKさーん!」 「私たちも行くにょ!」 さらに、2人の少女達によって繰り出されるポケモン。 「まぐ!」 「ライチ!」 マグマラシと、ライチュウ。 「『ソーラービーム』!」 「『だいもんじ』!」 「『10まんボルト』!」 3つのエネルギーが1つの光へと集束され、放たれる。 すさまじい反動で、K達の服がバタバタとはためいた。 が・・ ――来ないで! キィィ・・ン! 一振りされる、彼女の右手。 そこから発生した光は、3人の渾身の合体攻撃をいとも簡単に消滅させて見せる。 「つっ・・」 「強いにょ!」 「さすがだ。だが、俺もここで戻る気はないんでな・・ 7年の歳月・・そして、あいつの仇・・ ・・あいつの・・!」 パチン! Kの指の合図に合わせ、フシギバナは地面に向け『ソーラービーム』を射出した。 「えーーーーーーっ!?」 「みゅーーーーーっ!?」 舞い上がる土煙。 しかし、少女はひるまない。 「Kさん! 一瞬の目くらましが通用する相手じゃないよぅっ!」 ひとみの声と、ほぼ同時であった。 ――やめて・・ッ! 少女が念力の風を起こし、煙を吹き飛ばす。 「みゅーーー! ケホッ・・ケホッ・・」 「だめーー! 目くらましの効果にもなってないよ!」 豊富な実戦経験で培われたひとみのカンは、Kの煙幕攻撃が一切無効であると彼女に告げていた。 ガックリうなだれるひとみ。 そこへ、Kの声が飛んだ。 「一瞬でも敵の視界から俺が消えれば、成功だ」 直前と全く違う場所から。 どういう状況になっているのかを確認し、オリサとひとみは目を丸くしただろう。 わずか1秒強の間に、あっさりとKが、少女の背後を取って、剣を突きつけているのだ。 「・・俺の勝ちだ」 「・・っくぅ・・」 初めて発される少女の声。 どこかオリサに似ていた。 「KkKkKkKkKkーー! どんなトリックを使ったみゅー!?」 「・・トリックじゃない」 「え?」 「・・こういう身体になったからこその能力・・って所だな。 魂を、全体のそれの流れと共有する死神だから、逆にそこから力を借りることもできる。 リコはあの時、水の力を使ったが、俺は風を使わせてもらった。 風を使って、俺自身を加速したわけだ。 ヘイトの力で特別な力を使う・・『死神』と呼ばれるゆえんは、そこかも知れない」 少女は、ガクッと地面にヒザをつく。 「・・殺しなよ・・」 「!?」 「あんたらどうせ・・あたいを殺しに来たんでしょう? 殺しなよ! 好きにすればいいよ!  人間・・人間なんか大嫌い!」 「・・」 剣とポケモンを戻すK。 「殺さない。あんたが死ぬことで、誰かが悲しむから」 その頭の中に、1人の少女の姿が想像されていたことは、容易に推測できる。 「ひとみも思うよ・・きっと、あなたが死んだ時、泣く人がいるよ」 「勝手なことばっか言わないで! あたいは生まれてから今まで・・そしてこれからもずっと1人! ずっとずっと1人!」 ・・と、その時だ。 「キ・・リカ?」 不意に、オリサが小さく、しかしながらハッキリと呟いた。 「キリカ・・みゅ・・」 じっと少女を見つめて。 「え・・? なんで・・あたいの名前を・・? あたいは、ずっと1人だったはずなのに・・」 自分は1人だったはず・・それなのに。 少女・・キリカは不思議な感覚に襲われる。 「・・独りじゃないにょ・・思い出した・・全部・・」 涙が一筋、オリサの頬を伝い、地面に落ちた。 「・・どうやら記憶が戻ったようだな」 「Kさん・・オリサって記憶喪失とかとか?」 「ああ・・ひとみには言ってなかったな・・ オリサは、5歳ごろより以前の記憶がないらしい。そして、かすかに残ってる、それ以前の記憶は・・ 自分の両親が、何者かに殺された瞬間と・・雨の夜に、この森をさまよっていた自分・・ 俺がオリサと一緒になったのも、目的地が一緒だったから。ただそれだけだった」 「んー・・でも、オリサとミュウとキリカさんの関係って・・」 「・・そこが、いまいち分からないんだよな」 「キリカ・・キリカも思い出すにょ・・ ずっと昔のこと・・ずっと一緒だったこと・・」 手をさしのべるオリサ。 「あたいは・・」 トクン。 心臓の鼓動とともに、いつか見た記憶が、キリカに蘇る。 彼女の頬にもまた、涙が伝った。 「キリカ・・あなたは、私の大切な・・ ・・大切な・・妹だみゅ・・」 「・・おねえちゃん!」 「キリカ!」 ・・2人の影は、重なった。 ひしと抱き合い、互いに泣いて泣いて、泣きまくるオリサとキリカ。 「・・うっうっ・・よかったねぇ・・」 もらい泣きしてるひとみが、何気にかわいらしい。 「ひとみ、こーいうの弱いんだよぅ〜〜・・」 「姉妹・・か。けれど・・分からない部分が多いな・・ ミュウはポケモンのはず。しかしキリカはどう見ても人間・・ そして、あいつはひどく人間を拒絶していた・・ 分からない・・けど・・」 けど・・ 分からないことだらけだったが、Kには、1つ確信を持って言えることがあった。 それは・・ 「けど・・キリカは、ユリハを・・ ユリハを・・ ユ・・リ・・・・・・ヲ・・ ・・殺した・・殺した・・殺し・・」 シャン! Kはスッと立ち上がり、剣を抜き放った。 「・・」 無言のまま、異常な目つきで、オリサと抱き合って泣くキリカの背後に立つ。 「Kさんっ!?」 Kの異変に、ひとみが真っ先に感づいた。 「ククククク・・ユリハの仇・・」 ヒュッ・・ 剣が振り上げられた、その刹那・・ 「だめぇぇぇーーーーーーーーーーーーーーっ!」 ひとみが飛んだ。 猛烈なダッシュからKに飛びかかり、真横へ押し倒した。 持ち主の手を離れた剣は、宙を回転しながら舞い、近くの地面へ突き刺さる。 これだけの騒ぎ、オリサとキリカも気付かないはずがない。 少女達の視線が、Kを一斉に突き刺した。 「Kさんっ・・」 「ひとみ・・お・・俺は何をしていた・・?」 「ううん・・何もしてなかったよ・・」 言いながら、ひとみはKの心情を痛いほどに察してしまった。 恐らく、オリサも、キリカもまた同様に・・ (ユリハさん・・だよね) そしてまた、自分を見つめる3人の様子や、なぜか離れた場所に飛んでいる剣から、K自身も、自分が無意識に何をしていたのかを理解する。 「・・危なかった。 余計な・・悲しみ・・残される者の悲しみを、ひとつ余計に増やすところだったな・・ ・・ひとみが止めてくれたのか」 「・・うん」 「・・ありがとうな」 「・・!!」 ・・Kさんが『ありがとう』だって! 嬉しさのあまり、ニヤケた顔のまま自分の世界へ行ってしまうひとみ。 「・・ぷぷっ」 「・・みゅぷっ」 キリカとオリサが同時に笑いをこらえた・・ それと同時であった。 「フフ・・フフフフフフ・・アハハハ・・」 「ぷ・・ぷぷぷぷぷぷぷ・・」 「でぃぐ、でぃぐ♪」 やけに聞き慣れた声が、近くの茂みの中から聞こえて来る。 「・・いたのか・・」 Kが言うと、ショウ、はるかぜ、スミレ、リコ、そしてミュウツーまでもが、一斉に茂みから姿を現す。 「ごめんK。さっきから全部聞いてた☆」 「ぼくも!」 「だったら、バトルの時にちゃんと出て来い・・」 「こいつらは、盗み見が趣味らしいな」 「いや、ミュウツー。あんた言える立場じゃない」 結構お茶目なミュウツーだ。 「そうだみゅ・・」 ハッと気付いたように、オリサはミュウツーに歩み寄った。 「何もかも思い出したにょ・・ ミュウツーは・・確か・・父さんと母さんが、ミュウの細胞から創り出したみゅ・・」 うなずくミュウツー。 「そうだ。 私は、この星を救う為・・『星狩り』のループを解き放つ為に創られたのだ・・ そして・・ショウ、それには・・」 「キミの力が不可欠なんだよ!」 「お前の力が不可欠だ!!」 はるかぜ、ミュウツーの声が見事にシンクロした。 「でぃぐ♪」 「きゃああぁぁぁぁぁぁぁぁ・・」 はるかぜの方は、その後でこうなるのだが・・ 「オレの力・・不可欠だって!?」    続    あとがき いろいろあって大変な展開だった#15でした。 久々にバトルシーンを書いたり、Kを壊れさせたり、みんなを出したりして♪ これで、ユリハのことと死神のこととキリカのことは、全員がちゃんと聞いていたものとして・・(いいのか) Kが壊れるシーンが個人的に印象的ですが・・(クラウドがモデルとは言えない) 思いとどまった後も、多分Kの心の中は、キリカを恨む気持ちがいっぱいだったと思います。 けど、あの後、彼はそれを、自分が頼りなかったせいと考えるようになり、自分を責めて・・ということなんです。 なので、ひとみ達の知っているクールなKは、実はユリハが死んでしまってから作られた彼の一面とも考えられる・・というわけですね。 ではではっ。    次回予告 はるかぜが、ミュウツーが語る真実。 星の全てが・・今ここに。 第16話「明かされた真実 〜『星狩り』(仮)」