ミュウツー、キリカが、その絶大な能力を以てヘイトを抑える。 表面のガードを奪われた敵は、先刻までヘイトにより守護されていた、青い光の球を、メンバーの前にさらけ出した。 「あれが・・中央部・・」 「すべてが始まった空間・・」 「極度に圧縮されたヘイトは、緑色ではなく、青く見える・・」 「突っ込むにょっ!」 勇ましいオリサのかけ声。 「わたしに乗って!」 「でぃぐ!」 「キミも!」 はるかぜが姿を変える。 神の翼・ルギアの姿に。 「助かるゼ!」 真っ先に飛び乗るショウに、ミュウツーとキリカの声が飛ぶ。 「行け! 最後に変えられるのはお前だけだ!」 「ショーーウ! おねえちゃんを守ってよ!」 「ラジャ!」 はるかぜ・・否、ルギアは翼を持ち上げた。 かすかに明るくなりかけた空に、銀色のポケモンが羽ばたく・・    POKE IN ONLINE #20    「Otherworld」 コアの内部は、外見からは予想もつかぬ、広大な空間であった。 圧縮された大量のヘイトが織り成す仮想空間なのであろうか。 上下左右、方向感覚が奪われそうな、見渡す限りの青、青、青。 耳に絶えず響く、ザワザワした声は・・ポケモン達の無念? 「おいオレ! どこだ!」 ルギアの背から、ショウは声を限りに叫ぶ。 それが合図であったかのように、周囲に青い光が現れ、あらゆるポケモンの姿に変化し、一行に集団で襲い来る。 「ショウが放っているのか!?」 「違うと思う。ここのみんなは、恨みを残して果てた子たち・・ ヘイトが実体化されたんだと思う!」 と、ひとみ。 「そうか・・ヘイトとは、無念、悲しみ、憎しみ・・全ての負の感情、その流れ!」 その時だ。 「ウフフ・・その通り! ここに存在するはただ1つ! 混沌のみ!」 どこかで聞いた声が空間に響き、リコとタカマサが同時に反応する。 「サリア!」 「サリア!!」 そう・・この声は・・サリア! 刹那、偽ポケモン達は一斉に、光に分解され、集束し、別な形を作り出す。 青き宇宙に浮かぶ、モンスターボールマークの円形足場。 中心を四方から照らすナイター照明。 そして、オーロラビジョン。人のない観客席。 戦いの聖地・ポケモンスタジアム。 足場に着地した一行を出迎えたのは、他ならぬ彼女であった。 ふたつの民族のはざまゆえの悲劇の存在、そして、星をめぐる悲劇の始まり。 はるかぜ、リコ、タカマサは久々に。 K、オリサ、スミレは2回目。 そして、ショウとひとみは初めて見るサリア。 「森で死んだ後、この中で、今までのサリアの思念とひとつになったんだね」 「やめろサリア。破壊は何も生み出さん」 1歩詰め寄り言うタカマサ。 無言でサリアを睨むリコ。 「ユコト、リコ・・この私を止めに来たというのね?」 「そうだ」 「アーッハッハッ・・ムダね。ムダだから、やめておきなさい。 私はただ、壊してしまいたいだけ! 私を迫害した一族も、救いなんてありえない、この世界そのものも!」 「だめ! ぼく反対派!」 タカマサの前にスミレが飛び出す。 「ぼく達は、この世界に生きなきゃだめだもん!」 「この世界に・・そんなにもあなた達を引き止める物があるとでも言うの?」 「ぼくはまだ、ポケモンシンガーになってない!」 「ひとみの、やりたいこと!」 「ポケモンマスターを目指す夢があるぜ!」 「かわいい妹がいるにょ!」 「あいつの為に、ここで死ぬわけにはいかないんだ!」 「わたしは、人とポケモンが再び分かり合える日まで、世界を見守る」 「でぃぐ! でぃぐでぃぐ!!」 「お父さんが生きているから」 「娘は私が守りたい。今度こそ・・だ」 続いて、外部から空間に響く、もう2人(1人と1匹?)の声。 ――おねえちゃんと一緒にいたいから。 ――この星を救う・・それだけが、私が作られた理由だ。それまでは死ねん。 10対1。 しかし、多数決とはいかない。 「そう、みんなに理由があるのね。フフ・・いいこと。 でも、あいにく私にはない。私の存在意義は、破壊。 私に痛みを味あわせたこの世界に、同じ痛みを返してあげたい。 ほら・・ポケモン達もそう言ってる・・アハハハ・・」 「・・多すぎる。聞き取れない」 先刻から、耳に来るざわめき。 それは、本当にポケモン達がそう言っている声なのだろうか。 「人間はこれまで、ポケモンにどれだけの仕打ちをして来たか自覚しているかしら? ポケモンは人間の滅亡を望むの! 私はただ、それを少し手伝ってあげるだけ!」 「人だけじゃないにょ! ポケモンまで滅んじゃうみゅ! ポケモンのみんなにとっちゃ本末転倒だにょ!」 「サリア・・人とポケモンが分かり合える日はきっと来る。 私は会社を起こしたんだ。今や世界のトップだ! ポケアーツと、私自身にかけて、私達はこの事実を後世へと語り継ごうと思う!」 胸にきらめくポケアーツのエンブレムを見せ、訴えるタカマサ。 だが、サリアは無情だった。 「アーッハッハッ・・バカね。 ポケモン達は人間の滅亡を望む・・けど、私もそうとは限らないわ! 私は、ポケモンも人間も、みんな消してあげるの! そう・・死の世界! 死の安息! 死こそ究極の破壊、究極の平穏なのよ!」 狂った笑いを浮かべるサリア。 どれだけの精神的苦痛が彼女を壊してしまったのか、ショウ達には、分かったような気がした。 「・・ショウ。あなた、早く自分のやる事を済ませなさい」 リコがポケモンを繰り出した。 「リコ!?」 「サリアは、私とリコの手で・・頼む! 私は、サリアを愛していた・・いや、いるのだ!」 タカマサも、また。 竜王ギャラドスを繰り出し、サリアと対峙する。 「ふっ」 サリアは動じない。 「ムダと言ったわ。今の私には、ヘイトを自在に操る力がある! アハハ・・止められはしないわ!」 「でも止める!」 「・・分かったわ。けど、大きなショーっていうのは、必ず前座があるものよ。 まずは、暗黒に囚われた娘の、グレイト・マジック・ショー!」 サリアの手の一振りが、ヘイトを集め、新たなカタチを1つ生み出す。 緑色の服に、銀のペンダントをした、少女の姿。 半開きの虚ろな瞳。茶色の髪・・ 「誰?」 「ぼく知らないよ・・」 誰なのか・・ショウ達に分かるはずもなかった。 ただ1人を除いては。 「ユリハ・・」 K。 今までずっと、服の内側に潜ませ続けていた、銀のペンダントを握りしめるK。 「俺は・・」 催眠術にかかったように、フラフラと、彼女・・ユリハの元へと歩み寄って行く。 「KKKKKKKKーーー! 行っちゃだめーーー!」 「その子、絶対違う!」 「たとえユリハさんでも、今は憎しみの塊だよ!」 ここまで言って、ひとみはハッと気付いた。 (ユリハさんは・・そんな感情を残して死んだの?) 「ユリハッ・・こんな姿に・・」 Kのベルトにホールドされた、レアコイルのボール。 それが黒い光と共に開き、ユリハのサイドについた。 サリアの笑いがこだまする。 「そう、確かにこの子は、優しいいい子。 フフ・・でも、死の瞬間まで、本当に心の底から『優しいいい子』のままでいられたかしら? 心のどこかに、少しでも負の感情があれば、この子は私の操り人形よ! アーッハッハッ!」 「・・やっぱり」 Kは下を向き、ため息を1つついた。 何もできなかった自分。 自分をかばって散って行ったあいつ。 あの日以来、Kの心をずっと苛んで来た感情。 ユリハだって所詮は人間。 100%純粋な心の持ち主であるはずがないではないか。 ――本当にお前は『俺の為に死ぬのは惜しくなかった』のか? 本当はバカな俺を恨んだんじゃ・・ 「・・俺は、お前の裁きを受けるしかないんだな、ユリハ」 無言のユリハが右手を振り上げ、レアコイルにプラズマが生まれる。 Kは動かない。 「ばか者! 逃げるのだ!」 とっさにタカマサは、ギャラドスに指示を出した。 形ある物全てを打ち砕く、最強の水圧砲『ハイドロクラッシュ』 しかし、攻撃はユリハにも、レアコイルにも届かない。 「ショーの邪魔は許さないわ! アーッハッハッ・・」 サリアの力が、ことごとくワザを打ち砕く。 「くっ・・」 「Kーーーーーーーーーーーーーーっ!!!!!!」 裁きの雷が、放たれる・・    続    あとがき ついに最終決戦編スタート! 今回は、真・サリアと、ユリハが初登場・・これからどうなっちゃうでしょう!? とりあえず、眠いので今日はこの辺で。 ではではっ。      次回予告 破壊をもくろむサリア。感情なきユリハ。 そして、もう1人の悲劇の始まり・・ 第21話「決戦 〜第1幕(仮)」