「くそっ! K! 無事でいてくれよ!」 『自分のやるべき事を済ませなさい』 リコの言葉に従いスタジアムを飛び出したショウは、己の心で感じたままの方角へ、青の世界を突き進む。 上下左右の感覚などすでにない。 どれくらい走っただろう。 ついにショウは、その場所へたどり着いた。 青い光の奔流に守られ、自分ではない、もう1人のショウがたたずんでいる、不思議な空間。 「・・オレ、見つけたぜ」 「ああ、よく来たな、さすがオレ!」 全てを知ってしまった2人の会話。 全てを知っているゆえの、互いの不敵な笑み。 「こんなはずじゃなかったんだけどな・・オレにはもう、変える力がないからな。 ショウ、オレを倒すんだ」 「言うまでもねぇ」 ショウの心の中を、複雑な感情が駆け巡る。 星に悪夢をもたらすのが、自分と母親なのだから」 「オレは何もしない。けど、こいつらはどうしようもねぇ・・」 光・・ヘイトがざわめいている。 「へっ、安心しな。こいつらも一緒に解き放ってやる!」    POKE IN ONLINE #21    「決戦 第1幕  〜ユリハの覚悟」 少女の手が止まった。 「!?」 「バカな・・」 同時に、輝きをとりもどす彼女の瞳。 「ユウ・・様・・?」 「ユリハ!」 サリアは驚きを隠せない。 「元の意識を・・回復させたって言うの!?」 「・・ユリハさんは、ヘイトになんて支配されたくなかったんだにょ。 私たちも同じ。つらくても、生きて行く方がいいみゅ」 「死ぬのが怖くない人間なんかいないよ! ぼくも怖い・・ 死ぬのは救いにはならないよ! この世界にも、サリアさんにも!」 「くっ・・」 知らず、1歩退くサリア。 森の時と同じだった。 「フフ・・ユリハ、生意気な子。ちゃんと・・私の言う事を聞きなさい」 サリアの手から放たれたヘイトが、真っ直ぐにユリハへ飛ぶ。 「やめろ!」 彼女をかばうように突き飛ばし、ギリギリのタイミングでそれを回避するK。 「ユウ・・様っ!」 「今度・・は守れたな。お前を」 「・・愚かね、ユリハ。あなたはK・・いえ、ユウを恨んで死んだからここに来たのよ・・ほーら・・信じなさい。 それなのに、今さら彼の前で、表面だけをとりつくろって・・」 「違いますッ!」 「違うッ!」 ユリハとリコの声が重なり、2人は互いに顔を見合わせる。 「あっ・・どうぞ、お先に」 「フフ・・じゃあ遠慮なく」 ユリハに礼をし、リコは、母をキッと見据えた。 恨みや、劣等感や、その他色々な感情、言いたかった気持ちを、その視線に込めて。 「サリア・・ううん、お母さんのバカ! 負の感情を持たない人間がいるわけがない! それを利用して、ユリハさんの心を操ってるだけじゃない!」 「違うわリコ! 負の感情こそ生き物の本質なのよ! アーッハッハッハッ・・!」 「やめて下さいッ!」 母娘の間に割り込む、ユリハの悲痛な叫び。 「確かに・・確かに、こんな身体になってしまったのは、わたしの心のどこかに、そんな感情があったからかも知れません! でも・・わたしに分かる限りの心の中では・・ユウ様を守って死ぬのは本望でした!」 「ユリハ・・」 一瞬、場が沈黙する。 が、サリアも負けない。 「その時に恐怖を感じたはず。その感情よ!」 「・・ユウ様・・ごめんなさい」 サリアを無視するように、Kに頭を下げるユリハ。 「何が・・?」 「あの時・・わたし、1つだけ嘘をついていました。 本当は、死ぬのが少しだけ怖かったです・・」 「やっぱりな。大丈夫。怖いのは当然だよな・・」 その言葉を待っていましたと言わんばかりに、今度はサリアの反撃が始まった。 「ウフフ・・そう! その感情! わずかな恐怖も、私にかかればヘイトにまで高められるのよ! アーッハッハッ・・ 死ぬのが怖いのに、どうして生命を賭してまでユウを守れたのかしら? そんなことをしても、私の玩具にされるだけなのに?」 「・・人は、何かを守って死んでいくんです。 それは、プライドかもしれない・・お金や、大事な物かもしれない・・ それとも、誰かの生命かも知れない・・ 自分が生命を捨ててまで、守りたいと思った人の・・ わたしは、そうした死が無駄なことだとは思いません。 でも、あなたの考えに賛成しているわけでもありません」 きっぱりと言い放つユリハの姿に、Kは思わず涙した。 「ありがとう・・ユリハ。 さて・・じゃ、サリアを、眠らせてやろうぜ、みんな」 「はいっ!」 「おうっ!」 「うぃ!」 「フフ・・」 「よーし!」 「行くぞ、サリアよ・・」 モンスターボールを構え、サリアと対峙する一行。 「・・あれ? はるかぜがいないよ?」 「でぃぐ♪」 「・・わかった。そのうち登って来るね」 「『はかいのいぶき』! 『バーストウインド』!」 ショウの誇るポケモン達の必殺技。 しかし、いくら当てて散らしても、青い光は、しぶとくポケモンの形を作り直して襲い掛かる。 「どうしたオレ! 早くオレを倒せって!」 「こいつら多すぎんだよ! お前に攻撃が届かねぇ!」 自分同士の会話という、不可思議な光景を繰り広げる2人。 刹那・・ 「ショウーー!」 上空から、ルギアの姿をとったはるかぜが現れる。 「はるかぜ! 来たのか!?」 「ディグの穴に落とされたら、真下がここだったの」 「あ・・そ・・」 ちょっとこける。 「とにかくはるかぜ! 助けてくれ!」 「もちろんだよ! 『スチームブラスト』!」 敵の放った水圧砲が、強力な蒸気のブレスとなって返され、ショウを守る光のバリアを直撃する。 「『エレメンタルブラスト』!」 立て続けに、巨大なエネルギー砲を受け、ついにバリアは砕け散った。 「すげえ!」 「すげえ! 誰だそいつ?」 2人のショウの声が重なる。 「さあショウ! おしまいにしよう!」 ・・だが、その時であった。 ドン! バリアを構成していた光が、そのまま無数のエネルギー弾と化し、ルギアの身体を撃ち抜いたのだ。 「えっ・・」 「そん・・な・・」 失速し、急速に人の姿に戻りながら落ちるはるかぜ。 「はっ・・はるかぜぇぇぇぇぇーーーー!」 叫ぶショウの背に、偽ポケモン達が襲い掛かる・・    続    あとがき ユリハが初めて喋った回でした、21。 彼女の死に対する考え方は、ショウ一行のそれとは少し違うのですね。 しかし、ついに決戦ですね。ファイナルバトル! ポケライン1のオシマイも近いと思うと、少し寂しいような。 ではでは。    次回予告 覚悟、決意、そして奇跡。 星を巡る戦いの終末・・ 第22話「決戦 第2幕  〜奇跡が起こるとき(仮)」