「た、たすけてくれ!」
ひげづらの男の人がそうさけぶと、誰かが私の入っているものを投げた。 私は外に出され、同じくらいの大きさの黒っぽいやつと戦った。 ちょっとひっかいてやると、そいつはキャンキャン言いながら逃げていった。 ふと後ろを見上げると見たことのない女の子が立っていた。
「さっきは助かったよ。ありがとうアカリちゃん」 さっきまで情けない顔で腰をぬかしていたひげづらの男の人、 たしか…オダマキハカセだったかはそう言うと、私の入ってるものを女の子に渡した。 どうやら女の子はアカリチャンと言うようだ。 オダマキハカセはこのアカリチャンに私をまかせるらしい。 オダマキハカセは私を『アチャモ』と呼んでいたが、アカリチャンは私をバクと呼んだ。 ニックネームなのだそうだ。 なんでもバクって呼ぶのをを決めるのにいろいろ悩んで考えてあーしてこーしてバクにしたらしい。 アカリチャンは私に一生懸命話してくれたが、何をいってるのかよくわからなかった。 とにかくこの女の子がアカリチャンで私がバク、バクはアカリチャンについていけばいい。 私が入っているものをモンスターボールというらしい。 アカリチャンは私をボールとやらに入れずについて歩かせることが多かった。 ボールの中にいるとたいくつだったが、アカリチャンについてあるくのも大変だ。 アカリチャンは私よりずっと大きくて歩くのも早い。しかも突然走り出す。 私はアカリチャンを見失っておろおろすることもしばしばだった。 アカリチャンはすぐに気がついてもどってきてくれたが、 ずうっと上を見ないとアカリチャンの顔が見えなかった。 顔を見るまでは安心できない。 アカリチャンはそれを知ってか知らずかいつもしゃがんで私をのぞきこんだ。 ある日、私は突然大きくなった。 いままで見ていた景色が急に高くなった。 一体何事かと驚いている私を尻目にアカリチャンは大喜びして、 進化した、はじめて見た、キター!とか騒ぎながら、 オダマキハカセにもらったという赤い物体を開いて私に向けた。 たしかポケモンズカンとか呼ばれていたか。 ポケモンズカンとやらは端っこをピッと光らせると『ワカシャモ』と言った。 「バク、おめでとう!」 アカリチャンは私に飛びつくとその夜はいつもよりおいしいものを食べさせてくれた。 その日からアカリチャンはしゃがまなくなった。 あいかわらず見上げるのに変わりはなかったが、アカリチャンの顔が前よりずっと近くなった。 アカリチャンのバッグにバッジが4つくらいついたころだった。 また私の体が大きくなった。 アカリチャンはあのときのようにポケモンズカンを私に向けた。 ポケモンズカンは端っこをピッと光らせて『バシャーモ』と言った。 「バク、おめでと」 そう言って近づいてきたアカリチャンを見て私は気がついた。 私はアカリチャンを見下ろしている。 『アチャモ』のころはあんなに高かったアカリチャンがいまはこんなに低く見える。 なんだか急にアカリチャンが遠くなった気がした。 アカリチャンはあいかわらず私をボールから出したまま移動することが多かったが、 ついにマッハジテンシャを使っても私が走る速度においつけなくなってしまった。 『ワカシャモ』のころはマッハジテンシャを使えばちょうどよかったのだが。 『アチャモ』のころ、アカリチャンについていけずおろおろしていた自分は、 今度はアカリチャンをひきはなしすぎて不安になった。 私が引き返すと道端でアカリチャンがへろへろになっていた。 アカリチャンは私を見上げて言った。 「バク〜走るの早すぎるよぉ」 『アチャモ』のころの自分を見ているようだった。 なんだかアカリチャンがものすごく遠くなった気がした。 私はアカリちゃんを見下ろして途方にくれた。 アカリチャンを見上げていたあの頃がいとおしく思えた。 もう一度あのころに戻りたい。 見下ろすより、見上げていたい。 そして私は行動に出た。 そうだ、そのようにすればいいのだ。 「うわっ!ちょっちょっと…何っ…!」 私は大きくなった腕でアカリチャンを持ち上げた。 そして私の肩に乗せた。 私はアカリチャンを見上げることができた。 「最後にこんなことしてもらったのいつだったかなぁ」 アカリチャンは恥ずかしそうに言った。 その日から、アカリチャンはマッハジテンシャにあまり乗らなくなった。 小さかった頃は見上げるだけだった。 今はときどき見上げることがある。 |