暗闇の中に、ただ意識だけがあった。  僕はじっと、その時を待っていた。  「オリジナル」がパソコンから引き出される時、  「バックアップ」の僕が、役目を終えて消されるべき時を。  ――突然、警報音が鳴り響き、空間が赤い光で満たされた。  「アズカリシステムニイジョウハッセイ!   アズカリシステムニイジョウハッセイ!」  抑揚のない機械の声が、何度も繰り返される。  やがて音が止み、辺りは元の暗闇に戻った。  ……遠くで人の声が聞こえる。 「サブシステム稼働開始しました」 「メインシステムのリストアに失敗。復旧不能です」 「システムの切り替えを実行します」  ………数分後、  全身が何かに吸い込まれていく感覚があった。  そして…… 「ワニワニぃ、おかえり〜っ」  目の前に現れた少女が、ボールの中にいる僕に呼びかけている。  ボタンが押され、視界が低く、世界が少し狭くなる。  僕は「記憶」をさぐって、どう反応するべきか考えた。 「きゃぁっ! 痛い、痛いってば!」  僕に噛み付かれた少女が、腕をぶんぶんと振って僕を振りほどく。 「もうっ。歯形残っちゃったじゃない」  少女は腕をさすりながら、ほら行くよ、と僕に声をかける。  僕はしっぽを振って飛び跳ねる。  これでいいはずだ。  よろしくお願いします。ご主人様。