「パケットの首が取れちゃったぁ!!」  ポケモンセンターのエスカレータが動き始めるやいなや、男の子が泣き叫びながら駆け下りてきた。 (今月3人目だわ)  内心またか、と思いつつ、私はカウンターに載せられた『パケット』の頭をゆっくり撫でる。  お姉ちゃん助けてと号泣するその子を落ち着かせようと。 「あら、首が取れたくらい、どうってことないわよ」  私は平静に答えて、『パケット』の頭を抱きあげる。  多彩な光線技や捨て身タックルで暴れ回るこのポケモンは、  力づくで私をねじ伏せようとした「あの人」みたいで好みに合わないのだが、  私の腕の中でおとなしくしている姿は、なんとも可愛いものだ。 「最初はみんなパニックになるのよ。そりゃ、びっくりだものね」  私は「ごく普通の、よくあること」だと諭す。  涙をすすりながらも静かに私の話を聞いていたその子は、  やがて安心したのか、笑顔へと変わって去っていった。  朝焼けの街。  私はビニール袋に入れた「あの人」を抱え、電車に乗った。  そう。  首が取れるくらい、どうってことはない。  ごく普通の、よくあることなんだ。 ---------------------------------------------------------------------- (元ネタ:OLが夫をバラバラにして電車に乗って捨てに行った事件)