ある地方のある田舎の町。そのポケモンセンターに、この町でちょっと有名な一人の老トレーナーが居た。そのトレーナーはいろんな地方を旅して来ていて、何時も夜になると旅先で見聞きしたり、 思った事を物語にして夜な夜な他のトレーナーに聞かせていた。そのお話は、この町に居るだけの子供達には聞いた事も無くて不思議な説得力を持つ、楽しく教訓になる話ばかり。これは、そんな 不思議で楽しいお話の一つ。 「突然だけど、皆はげんきのかけらを知っているかな?」  夜のポケモンセンター、そのロビー。そこにゆっくりと落ち着いた声が響いた。出来ているのは人の輪。先ほどの声の主、一人の老トレーナーが真ん中に。それを、まだトレーナーに成り立てなの だろう。興味しんしんな瞳をした子供達が囲んでいた。 「そう。ポケモントレーナーなら誰もがきっと一度はお世話になる、アイテムの事だね。っと……そうそう。皆、この話の続きが聞きたいかい?」  どうやらこうやって皆が楽しめるように「話の内容を聞きたいか」を聞く事は何時もの事のようで。彼は慣れた仕草で周りを見回す。一方、子供達の方はただただ好奇の視線を向けるだけ。それを 返答に、彼は再び語り始める。 「……うん。話を進めるね。これは、私がとある北の地方を旅した時にふと思ったお話だよ。」 「皆は、げんきのかけらがどうやってに造られているか考えた事はあるかな?」  彼は皆に話を振る。こうやって周りの皆を巻き込んで、一緒に話を楽しむ。それが彼のやり方のようだ。周りの皆は頭を捻ったり、視線を落として考えたりして……「そんな事言われてもわかんな いよ」と視線で訴える。それを認めた彼は、ゆっくりと続ける。 「……うん、そうだね。普通は考えもしない。フレンドリィショップに売っているから、それぞれの地方にある大きな、大きな会社が造っている、私も少し前まではそう考えていた。だけどね。もし かしたら、ちょっとだけ違うのかもしれないよ?」  彼はふっと笑った。それは悪戯っぽくて、どこか訳知り顔で。 「此処よりずっと北の地方、シンオウ地方って言うんだけどね。その地方には地面の下に大きな、大きな洞窟があるんだ。シンオウ地方のトレーナーは、たまにトンカチとハンマーを持ってその地下 まで行って洞窟の壁を掘る。私もやった事あるよ。壁からちょっと盛り上がった所を見つけては、ガツンッ!と叩いたり、コツコツ削ったりして盛り上がった所からいろんな物を掘り出すんだ。」  彼は大きく手を広げたり、ハンマーで壁を叩く真似をしたりして周りの皆に説明する。周りの皆も「へぇー」と言ったり何度もうんうんと頷いたり。やっぱり、唯聞くだけよりも身振り手振りも 交えた方が分かりやすいし、楽しめる。 「本当にいろいろ出てくる。色とりどりの綺麗な珠や、たまに進化の石も出てきたり。そして・・・その中に、げんきのかけらもあるんだ。不思議でしょう? 普通のフレンドリィショップで売って いる筈の、ごくごく当たり前のアイテムが、地面の中から出てくるんだ。」  あまりにもさらりと言われた新事実。子供達は一瞬目を丸くした後……思わず『え〜!?』と声に出してしまう。皆の驚きが一旦静まるまで、彼は間を置いて。 「……それでね。私は、何でこのげんきのかけらが地面から掘り出されるのか、少し考えてみた。地面の中にはいろんな物が埋まっている。さっき言った物の他にも、たまに骨や化石が出てくるんだ。 昔々、太古の時代に生きた、命の記憶だね。だから、私はふと思ったんだ。もしかしたら、げんきのかけらっていうのは大昔に死んでしまったポケモン達が今生きているポケモン達に『がんばれ! お前達はまだ大丈夫!』って応援するために……少しだけ、本当に少しだけ力を貸す為に起こした奇跡、その結晶なんじゃないかな?って。どうだい? 夢がある話だろう?」  此処で、彼はほぅっと息を吐いた。その落ち着いた目に映るのは本当かどうか分からないけれど、本当に有りそうな神秘的な話に魅せられ、放心したように自分を見つめる子供達。 「だからね。何時か、皆がポケモン達との旅の途中や、バトルした後にげんきのかけらを使う時には今の話を思い出して欲しいんだ。もしかしたらそんな太古からの奇跡の贈り物かもしれないアイテ ムを、今自分は使っているんだなって。昔に生きたポケモン達に感謝して、その時共に居るポケモンを気づかって……ね。 はい、今日のお話は此処まで。皆、良く寝るんだよ?」 『はーい!』  彼の一言で子供達は散っていく。その背を見ながら彼は優しい笑みを浮かべた。本当の所は、自分にも分からない。だけど、これからポケモンと共に生きていく、彼らにとっては真実であって欲し い。ポケモンとの絆と、互いに『生きていると言う事』を大事にして欲しい。それがトレーナーにとって一番大事な事だと信じているから。    これは、そんな老トレーナーの経験から生まれた、誰も真実を知らない、だけど不思議な説得力があるお話である。