・・・イーブイ!・・・イーブイ・・・!  どこ・・どこにいるの、おねがいだから出てきて!  イーブイ!!! 【ポケットモンスター・読み切り小説】  <> −1−  ここはストンタウン。進化の石が数多く採掘されることで有名な街である。  辺りはすっかり暗く、雨もしきりに降り注いでいる。人影もない。 しかし、そんな中を必死の形相で駆け回っている一人の少年―タイチがいた。 「イーブイ・・!イーブイ!!!」  ほとんど泣きそうな声でそう叫びながらタイチは走る、走る、 ひたすら走る。 「出てきて・・・出てきてよぉ!!・・・・・うわぁっ!」  走り疲れて足がふらついていたのだろう。 タイチは水たまりに足を滑らせて転んでしまった。 「う・・・。」  転んだ拍子についに悲しみの堰が切れた。次から次へと涙が溢れだしてくる。 まるでこの降りしきる雨のような、憂鬱な涙だ。 涙に濡らされる少年の顔も、いっそう暗く曇ってゆく。 「・・・僕のせいだ・・・僕があんなこと言ったせいで、イーブイは・・・・!」 −2− 「やっぱりダメか・・・。」  はぁっ、とため息をつくタイチ。 他のトレーナーとの野良試合に負けたのだ。  使用ポケモンはイーブイ一匹、しかもまだトレーナーとしての経験の浅いタイチは、 当然の如く一度も実戦で勝利した試しはない。 「そりゃ、イーブイ一匹で勝とうだなんて無理な話だよな。」 「ほんとに。進化くらいさせればいいのにね。」 「たった一匹だからどんなに凄いのかと思えば・・・。所詮イーブイはイーブイだね。」  バトルを見ていた人達の口から、そんな言葉が聞こえてくる。  悔しい。  悔しくて、悔しくて、たまらない。  でも、なぜだかだんだん自分が笑えてくる。  なんだか、何もかもがどうでもよくなってくる。  そして、タイチはついに言ってしまった。 「やっぱり・・イーブイなんかに勝てるはず・・・ないよね。」  その日の夕方だ。タイチのイーブイが姿を消したのは。 −3−  雨。  夜の闇。  それらさえ、少年の小さな肩に重くのしかかる。今にも潰されそうだ。 タイチは立つことさえもできずに、その場に泣き崩れていた。 「イーブイ・・・。寂しいよ、君がいないと僕は壊れそうだよ・・・。  僕をひとりにしないでよ・・・。」  自分にとって、何よりもたいせつな存在。 それを自らが言い放った、たった一言で失くしてしまったのだ。  何も考えたくない。 今は、イーブイとの楽しい思い出さえも、自分を責める道具にしかならないから。  ・・・・・・。 「僕は最低なやつだ・・・僕なんか、いなくなっちゃえば・・・。」  ぶいぃ〜・・・。 「・・・イーブイ?」  聞こえた、確かに聞こえた。イーブイの声が。 タイチはゆっくりと顔をあげてみる。 途端、暗く沈んでいたその表情が、少し曇った、しかし笑顔に変わった。 「イーブイ・・・。」  イーブイは確かにそこに居た。 −4− 「イーブイ・・よかった。無事だったんだね・・・ごめん、僕・・・。」  タイチは、今まで流していたのとは違う、大粒の涙を流しながらイーブイを抱きしめた。 イーブイの身体は、泥だらけになっている。 「ぶぃ〜。」  ふと、イーブイが何かを口にくわえているのに気づくタイチ。 「これは・・・、雷の・・石?・・一体どうして・・・。」  タイチはすぐに悟った。 「そうか、僕のために・・・。そうなんだね・・?僕があんなこと言ったから・・。  キミは・・これを探すために・・・・!」  もう涙は止まらない。  腕の中のイーブイが今まで以上に愛しくなってくる。 「ありがとう・・・。でも、いいんだよ・・・ごめんね・・・。  変わらなきゃいけないのはキミじゃない、僕なんだ・・・。」 「ぶい・・・。」 「キミにはキミのままでいて欲しいんだ・・・。僕は、今のキミが好きなんだ・・・大好きなんだ!  ああ、イーブイ・・・。僕が馬鹿だったんだ、許して・・・。」  とめどなく溢れくる想い。タイチはイーブイをさらに強く抱きしめた。 「ぶいぃ・・・。」  イーブイもその想いに応えるかのように、タイチの頬に自分の頬をすり寄せる。 「・・!!・・イーブイ・・・。許して・・くれたんだね。  僕、頑張るよ・・・トレーナーとして・・絶対強くなるよ!  だから、いつまでも一緒にいよう・・・。いつまでも一緒にがんばろ!僕のイーブイ!!」 「ぶい〜っ!」  さっきより少し弱まった夜の雨が、二人を優しく包みこんでいた。 −完−